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すくうもの 〜令和怪奇跡〜  作者: ももすけ
第5部 残響編
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家出少女?②



 八尾池鶴が上がり込んできた、その日の翌日の朝。サトルは起きてリビングに向かうと、当然のようにダイニングテーブルに池鶴がいる。寝ぼけ眼をこすっても、しっかりいる。幻じゃない。



「……おはよう、池鶴さん」



「はよー」



 テーブルの上のマグカップの中には、もはや冷めたであろうホットココアと、黄身が流れた目玉焼き。昨夜と同じように、食べるのが遅い。



「サトル、おはよう。早く食べて学校行きなさい」



 母の久美子は、軽快にサトルの朝食を用意した。



「そういや、池鶴さんはどうするの?」



 サトルは訊いてから、キツネ色に焼けた食パンにかぶりつく。



「ああ、私が駅まで送ろうと思うの。テレビの番号に掛けてみたら、駅まで送ってくれって」



「ふうん。そう」



 サトルはいつものように、目玉焼きの端のお焦げから先にかじると、妙案が思いついた。



 池鶴をすぐに送り届ける方法を。



「それ、オレがやろうか?」



「でも学校から駅って、あんまり近くないでしょ?」



「いいよ。家出るついでにさ」



「じゃあ、お願いできる?」



「任せてよ」



 早々に朝食を食べ終えると、学ランに着替え、学校へ行く準備を済ませる。そして玄関へ向かうと、池鶴はまだダイニングにいる。



「行こう、池鶴さん」



 しぶしぶといった様子で、池鶴はサトルの下へ。



「じゃあ、いってきます」



「いってらっしゃい」



 一声かけて、サトルは池鶴とともに家を出る。しかし、サトルは学校にも駅にも向かわず、スマホをいじる。



「それさ、なあに?」



 ラインでメッセージを送っていると、池鶴が疑問を投げかけてきた。



「えっ、それって……?」



「その板。みんな持ってるよね。もしかしてケータイ?」



「持ってないの!? スマホ!」



「スマホ……。聞いたコトあるような」



 ますます謎が深まる。



 それはともかく、ラインで送ったメッセージには、既読がついた。そしてすぐに、トーク欄に白いメッセージが送られた。『あなたのうしろにいる』と。



「やっほー! 兄ちゃん!」



 サトルの背後から、元気いっぱいの声。池鶴のものではなく、バクのものでもない。人形(ひとがた)の空妖、メリーさんだ。



 空妖には、人智を超えた能力がある。メリーさんの能力は、瞬間移動だ。



『うしろにいる』という宣言を聞いた者が理解すれば、聞いた者のうしろに瞬間移動できる。声は出さずとも、『既読』さえすれば文字でも能力は発動する。


 

「おはよう、メリーさん。悪いな、こんな朝から呼び出して」



「へーきだよ。それで、このお姉ちゃんは?」



 メリーさんは池鶴の顔を見ると、なんと目が合った。手を振ると、振り返す。メリーさんの青い瞳が大きく開いた。



「も、もしかして。お姉ちゃん、わたしが視えるの?」



「きれいな金色の髪……」



「ええッ!? 視えるのか!?」



 驚いて声を上げたのはサトルのほうだ。



 空妖には、人形(ひとがた)の空妖と異形(いぎょう)の空妖の2種類ある。人形の空妖は人の姿をした空妖。異形の空妖はそれ以外の姿をした空妖である。



 サトルの背中に憑いているバクは異形の空妖であり、金髪碧眼の少女の姿をしたメリーさんは人形の空妖だ。



 なぜサトルが驚いたのかと言えば、人形の空妖は異形の空妖とは違って、いわゆる霊感がないと視えないからだ。



「へー、ふつうは視えないんだね」



「わーい! また友達が増えるね!」



 当の池鶴とメリーさんは、あまり驚いていない。



「それで兄ちゃん。今日はお姉ちゃんと遊ぶの?」



「なんか言いかたが引っかかるけど……。違うんだ。メリーさんのチカラを貸してほしくて」



「わたしの瞬間移動(チカラ)を? いいよ」



「ありがとうな」


 サトルはメリーさんとハイタッチすると、サトルの手にアンテナマークが浮かび上がった。4つ立っている。メリーさんの能力を借りた証だ。



 空妖と人は、能力を共有できる。それには息を揃えるように、感情も合わせなければならない。



「それで、昨日のニュースで見た番号に電話をかけると」



 サトルは番組の見逃し配信を見て、番号をスクリーンショットしていた。その番号に発信すると、ツーツーと音がするだけ。



「おいおい、掛からないぞ。情報求めてるんじゃないのか?」



「電話? そういえばさ、ズボンのポケットにあったの。コレ」



 スマホを耳から離したサトルに、池鶴はくしゃくしゃに丸まった紙を手渡してきた。



「ああ、母さん洗濯して乾燥もかけてくれたのか。紙、読めるかな」



 力を加えたらすぐに破れそうな紙を慎重に広げる。そこには11ケタの数字だけが書かれていた。



「090から始まってる……。携帯の番号か、コレ?」



「だよね。わかんないけど」



「連絡用の電話番号を持たせたとしなら、なんで違う番号をテレビに流したんだ? ワケがわからん」



 親の番号か? それとも池鶴の携帯番号? 池鶴の周りは怪しさしか感じない。掛けてみれば、どこに行くかわかるだろうか。



 サトルは非通知設定にして、その番号に電話を掛ける。誰が非通知の電話に出るんだと思いながら。



『……もしもし』



 すると、すぐに通話口からの声。壮年の男のものだ。



(なんで非通知設定なのにすぐ電話に出たんだ? 明らかにおかしいッ!)



 驚愕とめくるめく疑念を飲み込み、サトルはスマホを耳元から離し、池鶴の目を見る。



「これできっと帰れる。オレの手を握って」



「いいよー」



「いや軽いな!」



 サトルは緊張しているのに、池鶴は相変わらずぽやぽやしている。ふたりは手を繋いで、再びスマホを耳に当てる。



「もしもし。オレは今、あなたがいる建物の表にいます――」






 言い終えて、まばたきをする。すると景色は一変していた。



 瞬間移動は成功したのだ。



「……で、ここどこーッ!?」



 スマホを離したサトルの目の前に現れたのは、学校の昇降口のようなガラス張りの大きな建物の入り口がある。



 振り返れば、これまた校門のような塀がある。門から入り口までの道は舗装されており、その左右には芝生が張られている。ここだけでも、かなり敷地がある。



「ここが池鶴さんの家……?」



 サトルは恐る恐る訊くと、池鶴はため息をついた。



「ホントに瞬間移動しちゃうなんて。びっくりだなあ」



「居たくない場所なのか?」



「私は嫌いだよ。いや、きっと……」



 池鶴は言い淀んだ後、きっぱりと言い放った。



「君も、どうせ嫌いになる」



「えっ――」



「誰かいるのか!?」



 門の入り口から、紺色の服を着た警備員ふたりがやってきた。



「ヤバッ、もしかして、そういう事務所だったりする!?」



 メリーさんとの能力の共有印は消えている。メリーさんとの距離が離れすぎたからだ。



 なのでサトルは、メリーさんの連絡先に発信しようとするも、警備員に取り押さえられた。



「おまえッ、どこから来たんだ!」



「あっ、スマホ!」



 スマホを取り上げられてしまったら、家に帰れない。



「このガキ、警察に通報してやる!」



「通報だと? アンタらのトコは合法の組織なのかよ!?」



「ここがどこか知らないのか!?」



「知ったコトか!」



 喧々諤々と騒いでいると、正面の大きな門がゆっくりと開く。そこからひとりの男が現れた。



「き、教祖様!」



「教祖様ァ!?」



 教祖と呼ばれた男は、微笑みをたたえ、サトルと警備員の下へ近づく。



「君、スマホを返してあげなさい」



「ハ、ハイッ!」



 サトルのスマホは教祖の手を経由して、戻ってきた。教祖の左手には、それぞれの指に宝石のついた指輪がはめられている。その中の、薬指の指輪の宝石が自分で光った。サトルはそれを見逃さない。



「ど、どうも。返してくれてありがとうございます」



「いや、いいんだ。なぜならば……」



 サトルはすぐにメリーさんに電話を掛けようとすると、画面が暗転。そして、バッテリー切れのマークが出てきた。



「不幸にも、もう使えないからね。それに警察にも連絡はしないよ」



「ど、どうなっているッ」



「君のコトを、よく知りたいからね。不都合なんだ、警察が来ると……」



 教祖に後頭部を小突かれると、とたんに睡魔が襲ってきた。抗えないほどの眠気が。



「やばい……バク」



 声を振り絞り、カバンを背後に置いてから、サトルはうしろへ倒れ込む。そして眠りに落ちた。



「やはり……奇跡はひとつではないのだな。そうだろう、池鶴?」



 教祖は笑って、池鶴の肩を寄せた。



「この小僧を連れて行け」



「ハイッ!」



 眠ったサトルは警備員ふたりに、巨大な建物の中へ連れて行かれた。



「……にしても、カバンがあったハズだが? まあ、よい」



 首を傾げ、教祖も池鶴とともに建物に入る。灯りはまだ、点いていない。



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