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すくうもの 〜令和怪奇跡〜  作者: ももすけ
第5部 残響編
105/133

プロローグ おかえり

【注意】



この物語の後半には、大地震を思わせる破壊描写や、東日本大震災の描写があります。



どうか、これを念頭に読んでいただけたら、幸いです。



── 東京都・昭鳥(あきとり)






「冷え込んできたな……」



 床暖房を利かせたリビングで、寒々とした暗い空を見つめながら、禅院サトルはつぶやく。



 暦は12月。家の明かりが、よりまぶしく感じるのは、気のせいではないだろう。



「にしても、ママさん遅いな。帰ってくるの」



 リビングにいるのはサトルただひとりだけ。にも関わらず同意を求める声の正体は、サトルの背中に取り憑く空妖――バクだ。



 空妖とは、簡潔に言えば妖怪のようなものである。そんな存在に取り憑かれているのは、先祖にかけられた呪いを継いだからだ。



「もしかしたら、おみやげあるかもよ? 焼きイモとか」



「フフ、楽しみになってきた。ワタシの腹の虫が鳴いているぞ」



「腹なんてないクセに」



「おっと、そうだった」



 しかし呪いの影響とはいえ、ひとりとひと口の関係は良好だった。



「でも、たしかに遅いよなあ。そろそろ帰ってきてもいい頃合いなのに。忙しいのかな、パート」



「キミがせっかく作ったご飯が冷めてしまうな」



「またチンすりゃいいよ」



 談笑がてらテレビを点ける。特に見たい番組はないが、ただ静かだと寂しいからだ。静けさを紛らわすためなら、つまらなさそうなニュースでもよかった。



『続いて。3日前から行方不明になった、三重県津市棚田町に住む八尾池鶴(  やお ちづる)さんの情報を求めています。些細な情報でも構いませんので、この電話番号に連絡を――』



 画面には、サトルと同い年くらいのうつむいた女性の写真が映っている。このご時世、気分がよくなる報道なんてモノはない。暗い気持ちになるだけだ。



 チャンネルを変えようとするも、自分の中にある違和感がそれ止めた。



「なあキミ、ホントに探して欲しいなら、明るい場所で撮った正面の顔を出すよな?」



 違和感をバクが口に出してくれた。



「だよな。なんか他にあるだろ、卒アルの写真とか。あと最後の電話番号、警察に連絡するモンじゃないのかな」



「これで情報が出るとは思えんな」



 のんびり談笑していると、カギのかかった玄関のドアノブがガチャガチャと4回音を立てる。



 これが帰宅の合図だ。



「おっ、帰ってきた。バク、隠れてろよな」



「わかったよ」



 バクが取り憑いてから半年以上経っても、母の久美子にはヒミツにしている。もちろん、呪いのコトも。余計な心配はかけたくないからだ。



 カギの開いた音がすると「ただいま」という、いつもの声。サトルは安心した。



「おかえり、おつかれさま。風呂に入れるけど、どうする?」



「遅くなってごめん。ご飯は食べた?」



「食べたよ。母さんのぶんも残してるけど……」



「いやー、悪かったわね」



 サトルがリビングから声をかけると、バタバタと床が鳴る。なにやら慌てている様子だ。それは顔にも出ていた。



「どうしたん?」



「いや、実はね……」



 顔を見せるなり、久美子はまた玄関のほうへ引き返していった。サトルの頭には?マークが浮かび上がる。



「ほら、きなさい……」



 小声でなにか話しているのが聞こえる。サトルはピンときた。



「あっ、もしかして……拾ってきた? ネコとかイヌとか」



「うん。惜しいわね」



「惜しい!? ノラ拾ってくるのに惜しいなんてコトある!?」



 なにかの生き物を拾ってきたのは間違いなさそうだった。だが他に捨てられた動物は思い浮かばなかった。



(他のペット……ウサギ? モルモット? カメとか?)



 様々なイメージを思い浮かべるが、それを見た瞬間、抱いたイメージなど軽々と吹き飛ばされた。



 久美子に肩を押されながらリビングに上がったのは、見識はないが見覚えのある女性だった。うつむいて、顔はよく見えない。



「正解は人でした〜」



「えっ、その人……。なんで? なんでウチに?」



 だからこそ、すぐにわかった。その人の名前が。顔が。



「なんで3日間も行方不明の人をウチに上げるんだあああッ!?」



 その人の名前は、八尾池鶴。



 彼女が何者なのか、どんな生い立ちなのか、どんな秘密を抱えているのか。



 まだ、誰も知らない。




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