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すくうもの 〜令和怪奇跡〜  作者: ももすけ
第4部 追慕編
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今は遥けき青空よ②



 ゆかりを助けるために、世界中を巡った。様々な国の街並みや遺産を見るたびに、これらの景色をゆかりに見せたいと願い、それが夢というカタチで叶った。



 そして夢は醒めるモノだ。オレの場合は、吸血コウモリの巣食う洞窟の前で。



「ゆかり、もう旅はおしまいだ。なにも描けない。この先は暗闇と死だけだから」



 掛け値なしに楽しい時間だった。今こそ、吸血鬼である自分と向き合うときだ。オレはゆかりの顔を見れず、子供たちに対し顔を上げた。



「小娘を追って、こんなトコまで足を運ばせて悪かったな」



 紫城明璃を本気で犠牲にしようとしていた。目論みは外れたけど、今はそうなって正解だ。こんなカタチでゆかりに会えた今、心からそう思う。



「それと……、オレにもう一度筆を持たせてくれて、ありがとよ」



 礼を言うと、身内で揃って顔を見合わせた。なにも言わないけれど、彼らの心は通じあってるみたいだ。



「誰も傷つかなきゃ、それでいいよな」



「終わってみれば、キケンで不思議な小旅行ってカンジでね」



「世界中も旅できて……夢みたいな景色も見られて、今は幸せです」



「フフ、ショウゴ。陳腐な表現だが、絵画のような景色を夢に描けるのは、オマエの才能だな」



 ここまで至るまで、多くの攻撃をしてきた。なのに、どうして笑っていられる?



「……オレを許せるのか?」



「まあ、結果オーライじゃない? ねっ、サトル」



 紫城明璃がぶっきらぼうに言った後、禅院サトルは一歩前に出て微笑んだ。さっきの化け物の片鱗すら感じさせない、穏やかな目をして。



「許さなきゃ、後悔するときだってある」



 オレなんかよりもずっと若いヤツに、そんなコトを言われちゃな。自嘲気味に笑うしかない。



「ああ、立派な人間だよ。ごめんな、化け物なんて貶めてよ」



 みんな笑い話で済ませているけど、あと謝るべきは、やっぱり襲い、殺そうとしたコトだ。やろうとしていたのが最低なぶん、自分のしでかしたコトを直視したくなくて謝るにも胸が痛くなる。



「あ、あとは……」



 声が震えてきた。それなのに黙って待ってくれている。なんだよオレ、ダサすぎるだろ。なかなか言い出せないでいると、ゆかりが隣に並んで手を繋いできて、オレの顔を覗いてきた。



「わたしもいっしょに謝ろうか?」



「……必要ねェよ」



 ゆかりはなにも悪くないのに、謝る道理なんかない。オレは空いた手でゆかりの手をゆっくり解き、そして頭を下げた。



「……オレは自分のためだけに、おまえらを殺そうと思っていた。もうそんな気はサラサラない。怖い思いをさせてごめんな。悪かった、ホントに」



「もう、いいよ」



 許されないと覚悟しても、こうして許してくれるんじゃあ、立つ瀬がない。やさしい子たちだ。



「ぉぃ...」



 小さな声が聞こえてきた。聞いたコトがあるけれど、どうにも覚えていない。思い出そうとすると、声はどんどん大きくなって、それの姿が現れた。



「おい……。そんなコトを言えんのはな、てめえら誰も死んでねえからだろうがよ! アイツに殺されなかったから、そうやって笑えるんだろッ!」



「コ、コワスギお化けだ!」



 そうだ。オレが血を吸って殺した男だ。幽霊として出てきても、都合のいいように操っていた。



「はァ〜、呆れちゃうね。あの渇いた殺意はどこにいったんだ、吸血鬼サンよ。こんなガキどもに絆された挙句、己の悪行を謝るだなんて」



 ボサボサの前髪から覗く目に光はない。これが悪霊ってヤツか。



「俺の言いたいコト、おわかり?」



「……殺してすまねェな」



「許してもらえるワケがな〜いッ!」



 半透明の悪霊はオレの身体に入り込み、乗っ取ろうとしてくる。感情も入ってきた。理不尽に殺された怒り、死してなお体良く使われた怒り、どれもが暗く、重い。



「ほらほら言えよ、誠意を込めてもう一回! 詫びろ詫びろ、笑えるくらい詫び尽きろッ!」



 相当ヤケになっている。命すらも、なにも失うモノなんてないのだから、当たり前か。それを奪った挙句、悪霊に憑かれそうになるなんて、自業自得だな。



「クソがッ。いまさら自業自得だなんて思うのか!? 人面獣心男め、許すまじ許すまじッ!」



 人の考えを覗いてくるンじゃねェよ。言いたいコトがありゃ言うよ。



「ああ、そうかよ。その鉄クセえ口で言ってみろ!」



「おまえ……、ビデオなんか撮って、人気者になりたかったンだろ?」



「当たり前だ、バズりたさ一心で生きてたからなっ!」



「注目を浴びるのも意外とつらいモンだ。カネ持ちになったら知らんうちに自称家族とか親戚が増えてンだぜ、故郷が失くなったのにな。コワスギだろ?」



「カネがあるなら、それでも幸せだっただろ!」



「取り憑いてるならわかってンだろ。オレの人生に幸せなんてなかった。家族の縁を切って、村の人たちとの縁も切って……。結局、なにも残らなかった。オレが死んだ後も、きっと」



「そんなになっても取り憑かれるのを拒むかね、すっかり抜け殻になった吸血鬼サンよ!」



「じゃあ聞かせてくれよ。オレを乗っ取った後はどうすンだ?」



「世界初、吸血鬼ユーチューバーになってやる! 最初の動画は……あのリア充のガキどもの公開処刑だな、血をチューチュー吸いまくって。ククッ、バズる予感しかしねえ!」



 小僧たちのオレを見る目が、心配から警戒の色へと変わった。おかげでオレはまったく不安にならない。



「世の中への復讐も兼ねてか?」



「そうさ! 俺のアンチも、俺の面白さを見出せなかった節穴どもも、みんなぶっ殺してやるッ!」



「大層な夢だな。あまりにデカすぎて、それに比べてオレのガキの頃の夢なんて小さいモンだ」



「聞いてねえよバーカ!」



 どんどん悪霊の小汚い思考に埋め尽くされる。一体化したとしても、あの小僧たちなら負けるハズはないだろうが、こうなったツケはしっかり払わなくちゃな。



「そう言うなよ。おすそ分けしてやるよ、オレの夢……」



 影のような暗い感情に支配されるからこそ、夢とか憧れは余計に輝いて見えるモンだ。どんなにつらい状況でも、ゆかりを救うという希望のために生きられた。



 今は少しだけカタチを変えて、夢を描こう。心の奥底にある、童心のままに。



『よくがんばったね、証悟!』



「……は? なんだこのババアは。どこだ、このクソ田舎は」



『ほんとうにすごいよ、絵のコンクールで金賞を取るなんて! 聞いてよ、ウチの証悟が――』



 絵を描いて、みんなから褒められる。それだけでよかった。それが小さな村で描ける、まるで大空のような大きな夢だった。



『すごいじゃない、神童だね!』

『さすが藍原さん家の子だ!』

『今日はめでたい日だよ!』



 村のみんなが集まってきて、褒めまくっている。



「……はは。こんなふうにチヤホヤされたかったなあ」



 悪霊の承認欲求が満たされていくのが、オレの身体から離れていくのを通じてわかる。



「チャンネル登録者は少なくても、いつもコメントしてくれてた視聴者もいたっけ。それで満足していれば、オオカミなんか探さなくてもよかったのに」



 絶滅したハズのオオカミの目撃例を追って、こんなトコまで来ていたのか。



「ああ、いい気分だ。もういいや。俺が死んでもアップした動画は残る。おいガキども」



「なに?」



「墓参り代わりにチャンネル登録と高評価ボタン、よろしくな――」



 なんのコトかよくわからないが、言いたいだけ言って幽霊がオレの身体から完全に抜け出て、光に包まれると、その姿はウソみたいに消え去った。



「証ちゃん、大丈夫?」



「大丈夫だって」



「もう。平気じゃないのにずっとそう言う。転んだときだって、おばさんとケンカしたときだって……」



「アホぬかせ。もう子供じゃねェんだよ」



 捨てた夢を拾うのは、過去しか見てないヤツじゃないとできない。この村にだって怒りしか湧かなかった。だけど、なぜか、ゆかりといっしょだと、どうしてこんな村が愛おしく思えるのだろう。



「なあ、ゆかり」



「なに?」



「ここに住んでて幸せだったか?」



「幸せだったよ」



「ホントは?」



「ホントだよ、ホント。だって……、いつも証ちゃんがずっとそばにいてくれたから」



 ゆかりの笑顔を見るたび、ふたりで人として生きたかったと思う。胸が痛い。夢を見て、ずっとこのあったかもしれない人生を歩んでいたい。



「……そうか」



 だがダメだ。未来のある人間たちがいる。この子たちを夢から出さなくては。脱出方法はうすうすわかってる。木に取り憑いたゆかりを成仏させるコトだ。



「ゆかり、ここで式を挙げよう。みんなの前で」



「証ちゃん……」



「もう、言葉を交わすのは野暮だろ?」



 教会も神前式もいらない。ゆかりの親御さんの前で、オレの両親の前で、村のみんなの前で、透明のゆかりに口づけして愛を誓う。



『おめでとう!』『おめでとう!』



 聞いたコトのない万雷の拍手がオレたちに降り注ぐ。村のみんなだけじゃなくて、小僧たちも拍手してくれているのか。祝福されるたび、オレは哀しくなる。



 結婚なんて、未来のあるヤツらがするモンなのに。



「証ちゃん……。ありがとうね」



 ゆかりの身体から光があふれる。もう成仏するのか。



「やっぱり私、幸せだったよ。もし生まれ変われるなら、また証ちゃんのそばがいいな」



「オレもだよ」



「きっとなれるよ。だから、涙をふいて。ねっ?」



「大丈夫、大丈夫だから……」



「ずっと大好きだよ、証ちゃん――」



 ゆかりの声が聞こえなくなった。拍手も鳴り止んだ。空っぽの村に取り残されて、また泣きたくなった。



「ん? 光の柱――」



 そんなヒマもなく、身体が宙に浮く感覚がした。間もなく夢から醒める。



「……いい夢、見させてもらったぜ」



 次に成すべきコトへの覚悟は決まった。オレは久々に願った、明日天気になれ、と。



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