97話 新学期!
入学式も終わり、新学期が始まった深原高等学校。
放課後の地底探検部、部室には高1になった葵 海が新しい制服でそわそわと待っていた。
長机でお菓子をつまみながら顧問の岡山みどり先生が笑う。
「落ち着いて海ちゃん。もうそろそろ来るから」
「ち、違います。そういうのじゃなくて…」
海が反論してる中、部室のドアが開く。
そこに部員の葵 月夜と夏野 空、倉井 最中に冬草 雪が入ってきた。
海を見つけた倉井の顔が明るくなる。
「海さん!」
「最中!」
ぱあっと笑顔になった海が倉井に駆け寄り、2人はキャッキャと手を合わせて喜び合う。
そんな光景に、女子高生だわとみどり先生は思いつつお菓子に手を伸ばしていた。
いつのまにか紛れ込んでいる秋風 紅葉も加わって、部員たちはパイプイスに座り、長机に並んでいた。
立ったままの月夜が皆を見渡し、秋風に一瞬目を留めるが無視をして口を開く。
「わたしと雪はこのほど3年生へと進級した。通常なら夏休み前に決めるのだが、早めに部長と副部長を任命しようと思う。まずは、部長に空君!」
「はいっ!」
指名された夏野が元気よく手を上げて返事をする。
月夜は満足げに頷く。
「うむ。続いて副部長は、わたしの最愛の妹、海!」
「はぁあああ!?」
驚いた海が急に立ち上がる! 周りの部員たちは、おめでとーと、パチパチと拍手を送った。
「ち、ちちちちょっと、お姉ちゃん!! どういうこと!?」
「うむ、1年生は海だけなのだ。考えてもみたまえ。ここで最中君が副部長になったら、来年は2人とも卒業して部長が不在となるだろ?」
「ぐぬぬ……」
唇を噛んだ海が反論できずに悔しがる。その前に、部員が1人になるという重要で根本的な問題が抜けていた。
そこに部外者の秋風が口を挟む。
「できれば海ちゃんには生徒会に来て欲しかったんだけどなぁ」
「それは嫌です」
「そう? 姉と違って人望もあるし、決断力もなかなかだし」
秋風にダメ出しされた月夜は目に涙をためて睨んでいた。どうしていつも目の前で、自分が引き合いに出されているのかと。
そんな月夜を見て冬草は吹き出した。
秋風に反論しようと口を開きかけた海は、制服の袖が引かれているのに気がついた。
見ると涙目になった倉井が袖をギュッと握っている。
「ど、どうしたの最中?」
「わたし留年する! 海さんと一緒に卒業する!」
「えぇええ~~!? まって最中! そんなことしたらダメだよ!」
「だって……うっ…うっ……」
急に泣き出した倉井を海がなだめる。どうやら自分が卒業したら海が1人になるのが耐えられなかったようだ。
それを見ていた夏野はピンときた! その手があったのかと。
まだ涙をためている月夜に迫る。
「月夜部長! 留年してください! これでバッチリ!」
「いや、ちょっとまて! なにを言い出すんだ空君!」
あまりの提案に涙が引っ込む月夜。
「そうですよ! 月夜部長に雪先輩が2回留年すればいいんです! そして、わたしと最中ちゃんが1回。そしたらみんなで卒業できますよ!」
「そりゃそうだが、無茶苦茶だよ空君……」
呆れた月夜が脱力している横で、冬草はやっぱりアホだなと笑っていた。
そんなこんなで留年の話しが部員たちを巻き込んで大騒ぎになっていた。
結果、留年しないと結論づけられ騒ぎが収まった。そして部長、副部長もそのまま決定し、無事に交代となった。
月夜に代わって夏野が新部長して皆の前に立つと挨拶をする。
「おほん。えー、それでは新しい部長として、これからは“月夜先輩”と呼びます! 他はいままで通りです。以上!」
「おいぃいい!」
月夜たちがパチパチと拍手する中、耐えきれなくなった冬草が声を出して突っ込みを入れた。
もうちょっと抱負とか目標とかを語るかと思ったからだ。
なんだかんだで打ち解けているが、さすがに冬草のほうが常識人だったようだ。
そんな冬草の叫びを放って置いて、夏野が次へと進行する。
「それでは引き続いて新入部員の歓迎会をしたいと思います。月夜先輩!」
「うむ。なにか久しぶりな感じだな、そう呼ばれると」
そう言いながら冷蔵庫に向かい、四角い箱を取り出す月夜。その間、夏野と倉井が飲み物などの準備を始めた。
てきぱきと海の周りで紙皿が置かれ、秋風が持ってきたクッキーを配る。
なにごと? と海が疑問に頭を傾げていると目の前に箱が置かれ、月夜がニヤリと笑う。
「ようこそ地底探検部へ! わたしの可愛い妹よ!」
箱のフタを開けると白い生クリームのホールケーキが現れる。
色とりどりの花をあしらったシュガークラフトが散りばめ、真ん中には『入部ありがとう海さん! これからもよろしくね!』と茶色のチョコレートで書いてある。
「お姉ちゃん……これって?」
自分1人のためにここまでするのかと、海は恥ずかしくなって耳を赤くしている。
「お祝いのケーキだよ。ふふふ、喜ぶと思ってね」
「えっと、ありがとう…だけど、この文はどうなの?」
「ん? それは最中君が書いたんだが」
ハッとした海が倉井を見ると、目にはあふれんばかりに涙をためている。
よく見れば倉井の字だと海は気がつく。
てっきり姉が全部作っていたかと思っていたが、最中も手伝っていたとは誤算だった。いつものように文句を言えない。
「ごめんなさい…よけいなことして…」
消え入りそうな震えた声で倉井が謝る。先ほどに続き、また泣き出しそうだ。
慌てた海が倉井をぎゅーっと抱きしめた。
「そんなことないよ! 余計じゃないし! う、嬉しくて、照れ隠しだから! 本当だよ? すごく嬉しいよ! 最中ががんばってくれたから、なおさらだよ!」
「海ちゃんも悪気があって言ったわけじゃないから……」
夏野も近づき、なだめるように倉井の背中をさすっている。
その様子を見ていた冬草が、月夜にコッソリと聞く。
「なあ? なんで早めの部長交代なんだ?」
「うむ。ここだけの話しだが、去年の夏から部長としてがんばってきたが、もう限界だったのだ」
「は?」
「部長会議やら生徒会に報告などの集まりが細々あって、非常に面倒だったのだ。なので、空君にがんばってもらおうというわけだ」
「……」
ふふんと得意げに語る月夜に、呆れた冬草はツッコミが思いつかず口をつぐみ、秋風はやっぱりねと半目を向けていた。
そんなこととは事情を知らない夏野は新部長になって燃えていた。
それから、深く沈んだ倉井に元気になってもらおうと部員たちが励まし始めた。
歓迎会だったのが、いつの間にか倉井を励ます会になり、彼女を囲みそれぞれが声をかける。
やがて笑顔を取り戻した倉井。
自分がしたことに海が怒ってないのがわかったからだ。
さんざん抱きしめられていた倉井は、最後の方は意識してしまい、海の胸の中でドキドキしていた。そう、念願の抱擁は思わぬ形で訪れていたのだ。
元に戻った倉井に部員たちはホッとして、賑やかに話し出す。
そんな部員たちを切り分けたホールケーキをモグモグと頬張りながら、みどり先生は温かく見守っていた。




