98話 お礼参り!
どうしてこうなった?
小さな祠を背にツキネは冷や汗が頬を伝うのを感じた。
目の前には怒り心頭の夏野 空。
先ほど、この間のお礼ですと、あの美味いシュークリームを持ってきた夏野。
遠慮無くかぶりつきながら、願いを叶えたぞと自慢げに事のあらましを語ったと思ったら、夏野が怒り出してきたのだ。
ツキネのふわふわの尻尾は垂れて、小刻みに震えている。
どうやらタンポポを片仮名で枕元に置いたのが不味かったようだ。
腹立ち気味に夏野が葵 月夜から、謎のメッセージについて恐怖だったことを聞かされたと語った。
どうも夏野は眼力が強く、ツキネも聞かされながら謎の圧力にタジタジとなっていた。
「どうしてタンポポなんですかー!? もっと耳元で囁いて月夜先輩の潜在意識に植え付けないと」
「えぇええ!? それは不味いだろ空よ」
どちかというと手段に怒っているようだ。伝達内容については良かったようだ。
「だいたいずるいですよー! 月夜先輩の枕元までいけたんですよね? それだったら、わたしも連れて行ってくださいよー!」
「空よ…おぬしも大概だな。そこまでするなら直接本人に言えばよいではないか?」
呆れて息を吐き出したツキネが聞くと夏野がモジモジしだす。
「だ、だって、恥ずかしいし……」
「そういうとこ! そういうとこがダメなんだ! だいたい我にいくら言っても難しいのだ。恋愛成就なんて一度もしたことがないんだぞ!?」
「え~~!?」
驚いた夏野が声を上げた。まさかの専門外発言に期待していた夏野はガッカリした。
ツキネは優しく夏野の肩をつかむ。
「思いっきりのよいお主なら問題なかろう? 月夜もお主のことを好いておるから大丈夫じゃ」
「ほ、ホントに!?」
ぐわっと迫ってきた夏野に後ずさりながらコクコクと頷くツキネ。
すると先ほどとは打って変わって、夏野は満面の笑みになる。
「エヘヘ~」
だらしない笑顔でくねくねし始めた。こやつは浮き沈みが激しいなとツキネは思う。
それから夏野はツキネに礼を言って別れた。また来ますと手を振りながら。
夏野の後ろ姿を見送りながら、ここも賑やかになってきたなとツキネは口の端を上げた。
ルンルンと足取り軽く雑木林を歩く夏野。
月夜先輩がわたしの事を好きだなんて嬉しい! いつ告白してくれるんだろう? と、夏野は脳内お花畑全開でスキップしている。
すると前から人影が見え声をかけられた。
「おや? 空君かい?」
「月夜先輩!」
木々の間から現れた月夜に夏野が駆け寄る。今日はラッキーデーかもと偶然の出会いを喜んでいた。
「どうしたんですか?」
「うむ、ちょっとお参りしようと思ってね。この間の旅行の前に交通安全を祈ったから」
「同じです! わたしもでした!」
「そうか。ということは空君は帰りかな?」
「はい。でも、付き合いますよ!」
機嫌がいい夏野は来た道を折り返し、月夜と一緒に戻っていった。
やがて小さな祠の前に来ると、ツキネは既に現れて待っていた。
「また来たのか? お主も暇だな」
「いいじゃないですかー!」
お互い軽口を言い合う様子に、月夜は2人が打ち解けているのがわかって微笑む。ついで、ツキネに持ってきた袋を差し出した。
「こちらを。この間のお礼に」
「おおっ! いつもすまないな……。どう見てもいつもの団子だな」
「前まで嬉しそうだったのに嫌いになったのかい?」
いつもなら嬉しそうにしているツキネが、受け取った袋を開けてションボリしている。不思議に思う月夜。
「いや、そういうわけじゃないが……」
と、ツキネは月夜の隣にいる夏野を一瞥する。その視線を受け、月夜は夏野に聞いた。
「何かあったのかい?」
「あっ!? いいえ、その、シュークリームを持ってきまして」
「そ、そうなのだ。決して団子が嫌いではないが、一度しゅーくりーむを食べたら、あの味が忘れられなくてな……」
慌てた夏野が言うと、ツキネもアタフタと言い訳を始めた。
なるほどと合点がいった月夜は、すっかりグルメになったツキネに笑う。つられてツキネと夏野もハハハと愛想笑いをしていた。
「それでは今度来るときには、別のお菓子を持ってこよう」
「い、いや。いいんだぞ? 今までと同じで。余もそこまで厚かましくないからな」
「フフフ」
月夜の提案に恐縮しているツキネ。
なにこれ? わたしと対応が違うじゃん! 夏野はツキネを睨んだ。
視線を受けたツキネは誤魔化すように話題を変えた。
「そ、そういえば、空がお主を好きだと言っておったぞ」
「ほわぁあああああーーー!」
突然の振りに夏野は真っ赤になって叫ぶ! もう少し雰囲気を読んでくれと内心で続けていた。
するとニコリと笑った月夜が動揺している夏野の頭をなでる。
「うむ、わたしも好きだよ。当然だ」
「エヘヘ」
なでられながら照れたように夏野は笑う。思ってもみなかった返事に喜ぶ。
ウンウンとツキネは何度も頷いて満足しているようだ。
しかし、夏野は気がついていた。
これって、友達が好きとか親が好きとかと同じ“好き”な方だ。決して恋人の“好き”ではない。
無邪気そうな月夜の笑みに夏野は嘆息していた。
用事もすんだ月夜たち。
今度は本当にツキネと別れ、来た道を戻る。
並んで歩く月夜の横顔を夏野はジッと見つめていた。相変わらずホレボレするような綺麗な横顔。
ふと月夜が顔を向けて夏野と視線を合わせた。はわわとずっと見ていたのがバレたのかと焦る夏野。
「どうだい、まだ早いから我が家にくるかい? 少し休んでいきたまえよ」
「あっ、はい! お言葉に甘えますっ!」
微笑む月夜に喜ぶ夏野。
2人は肩をふれ合いながら歩き、楽しそうに会話を弾ませながら月夜の家に向かった。




