96話 案内するよ!
翌日、朝食をとった一行は早々に旅館をチェックアウトすると荷物を大阪駅のロッカーへ預けた。前日に買ったかさばるお土産などは、まとめて宅配便で葵 月夜の自宅へ送った。地元に帰った後で月夜がそれぞれに渡す手はずをしていたからだ。
こうして準備ができた部員たちだが、やはり岡山みどり先生と岩手 紫先生が帰りの新幹線で会いましょうと笑顔でどこかへ消えて行ってしまった。
またかと呆れた部員たちだが、気を持ち直した月夜が残った皆を見渡す。
「聞いてくれ。今日は現地の友人が来てくれることになった。案内してくれるようなんで待ってはもらえないか?」
「いきなり? そんな話しは聞いてないですけど誰ですか?」
夏野 空が聞いてくる。
「うむ。川岸さんといってね、前に知り合ったんだが朝メールをしてて、わたしが大阪にいると返信したら案内したいときてね」
「はぁ!? わたし知らないです!?」
初めて聞いた名前に夏野は驚く。自分の知らない事情に夏野はイライラしていた。
葵 海と倉井 最中は、あのときの! と、葵家に泊まってきた一夜を思い出し、冬草 雪と秋風 紅葉それに春木 桜は何のことだと首を傾けた。
「月夜部長! 一体何で──」
「あ~~いた~~! 月夜ちゃーーん! お待たせ~~!!」
追求しようとしていた夏野の言葉に大声がかぶさる。
手を振りながら小柄で可愛い女性が両手を大きく振りながら近づいてくる。そう、アイドルグループに所属し、偶然月夜と出会った川岸 水面だ。
別れるときにアドレスを教えて以来、たまにメールを交換し合って互いの近状を報告していた。大阪に来ると知った川岸はスケジュールを調節し、偶然を装って当日に会うと連絡したのだ。さすがにアイドルをしているだけのことはある。
彼女が川岸か!? 夏野が敵対的な目を向ける。
そんな夏野の視線をかわして月夜にくっつきそうなぐらい寄る川岸。
「久しぶりーー! 会いたかったよ! 私服がかわい~~! ギャルっぽい!」
「そうか? いつもメールで画像を見ているから、あまりそんな気にはならないが……。あと、ギャルそのものなんだが?」
喜ぶ川岸にタジタジな月夜。そう、川岸は自撮りの画像をよく送って、代わりに月夜の画像も要求していたのだ。
そんな2人の間に夏野が割って入る。
「ちょっと近いんですけど!」
「うむ。確かに」
「え~! そんなことないよー。これぐらい普通じゃん?」
夏野の割り込みにホッとした月夜に反論する川岸。だんだんとカオスと化してきた。
めんどくさくなってきた冬草は秋風の手を引いてこの場を離れていった。倉井に後でなと言い残して。
秋風はアイドルの川岸に気がついたが、積極的な行動をとる冬草に嬉しくなって笑顔でついていく。
残った倉井と海は月夜の顔を立てて、今回は一緒にいるようだ。
一通り紹介し合った川岸と月夜たち。川岸がアイドルスマイルで片手を上げる。
「はいっ! では、地元の私が皆さんを案内しまーーす!」
「うむ。よろしくたのむ」
代表して月夜が返事をする。
目の前にいる美少女たちに川岸のテンションはMAXになっていた。できれば誰でもいいから1人を持ち帰りたい……川岸の胸の内には邪な感情が渦巻いていた。
そんな腹黒の川岸につれてこられたのは大阪城公園駅。
そのまま城に向かうと思いきや、公園に入り少し歩いた先にある川へ出てきた。
「大阪ってね、川が多いんだ。だから陸上で観光するよりも、川から見るといろいろ面白いよ!」
川岸が説明しながら向かう先は、どうやら水上バスのりばのようだ。
10人乗りの屋根のない小さな船が浮かんでいる。
受付で川岸が話しをすると、すんなりと船に案内される。
「予約しといたから安心してね。さ! レッツ・オーサカー!」
元気に声を上げる川岸にあれ? と月夜は思った。
なぜなら、今日たまたまスケジュールが空いていたはずなのに予約とは? ……時空を越えた難題に、月夜は思考を放棄した。
部員たちが船に乗り込むと静かに岸を離れ、水上バス観光がスタートした。
水路から望む大阪城が、テレビでよく見る光景と違う一面を覗かせる。たまに海からの塩の匂いも風に乗って運ばれてくる。
これなら倉井も人酔いしなくて安心だと月夜は、川岸の案内センスに評価が上がった。
実際にはそんなことはなく、なんとか月夜の隣の席をゲットした川岸は胸の内で笑った。
ここなら逃げ場がないからセクハラし放題だ。しかも1時間近くは大阪の川を回っているので陸には上がれない。
さりげなく月夜の腰に手を回して案内を始める川岸。くびれがたまらなくそそると川岸は心の中で悶絶していた。
一方、月夜の真後ろに座る夏野の目は敵意に燃えて川岸を睨んでいた。まるで今にも目からビームが出そうだ。
夏野の隣にいた春木はこの先どうなるのかと、修羅場を想像してワクワクしながら観察していた。
船の後方に座る倉井と海はキャッキャしながら、あちこちを指差して、ゆっくりと流れる大阪の風景を楽しんでいた。
船が揺れたと月夜に抱きつく笑顔の川岸。穏やかな川面の船はもちろん大きな揺れはない。
特に気にしてない月夜は笑っているが、真後ろにいた夏野は沸騰しそうなほど顔を赤くして、ぐぬぬと見ていた。
船はいくつかの橋をくぐり、有名な道頓堀を通過していく。
山しかない地元と違い、豊富な川に乱立するビル郡。そしてノスタルジックな古い地域などを堪能する。
乗った大阪城とは違う場所で降りた部員たちは、川岸に案内され次を目指した。
月夜の片腕に抱きつく川岸を夏野が牽制する。
「ちょっと月夜部長になにしてるんですか!? 離れてください!!」
「え~~!? やだ~~。月夜ちゃんって背が高いから抱きつきやすいね!」
「い、いや、ちょっと」
「もーー! 反対側は部員を代表してわたしがもらいます!」
困っている月夜の空いてる腕を取ると夏野が抱きつく。見ていた春木は部員を代表って! とツッコミを心の中で入れて笑っていた。
この状態、前にも経験があるぞと月夜は思い出す。あの凍えるような寒い部室で、部員たちと合体していたことを。
自分を挟んで夏野と川岸が言い合いしているのを、空を見ながら現実逃避していた。
案内された先は天○寺動物園。
有名なあ○の○ルカスが斜め前に空高くそびえ立つ。
どうやら川岸は観光というより、普通にデートコースをチョイスしているようだ。
初めての動物園に倉井は海の手を取って喜んでいる。
観光で来る人が少ないのか地元民と思わしき集団などが、賑やかな関西弁とともに動物園を回っている。
両手を川岸と夏野に抱きつかれたまま、ふらふらと月夜は歩く。
正直、歩きづらい……けど、離れてくれと言い辛い。
方や好意で案内してもらっている手前もある。そしてもう一方は、むげに突き放すと泣き出しそうだし。
両腕に押しつけられるそれぞれの胸の感触に、月夜はまたも思考を手放した。
園内では倉井と海が月夜たちと別れると、2人きりで楽しそうに動物の檻を眺めながら喜んでいる。
意外とさまざまな動物に興味を示した春木が、月夜たちを引っ張って園内中を振り回していた。
やがて帰郷の時間が迫ってきた。
倉井たちと合流した月夜たちは大阪駅へと戻り、ロッカーから荷物を取り出す。みどり先生たちがつかっていたロッカーはすでに空いていたのを確認すると連絡をとった。
駅では名残惜しそうな川岸と別れた。
川岸は月夜たち全員を無理矢理ハグし、最後の嫌がる夏野も抵抗されながら抱きしめ、現役女子高生を堪能しまくっていた。
新幹線のホームではみどり先生と紫先生、冬草と秋風が談笑しながら月夜たちを待っていた。
全員が揃ったのを確認すると、新幹線へと乗り込み地元へと走り出す。
その車内では、川岸の行動がいまだ許せない夏野が月夜に抱きついている。どうやら、よく知らない人に抱きつかれていた月夜が許せないようだ。
遊び疲れた春木と倉井、海はすでに眠りに落ちていた。
みどり先生と紫先生はここでもスッキリ、ツヤツヤで、冬草は行き過ぎじゃね? と胸の中で突っ込んでいた。
いろいろあったが、夏野は合法的に月夜に抱きついていることに気がついていない。
そんな夏野に月夜は思考を停止中だった。
こうして地底探検部の第1次大阪地下街探検は終わった。




