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95話 海へ行こう!

 梅田駅近くで休憩し、体調が戻った倉井 最中(くらいもなか)葵 海(あおいうみ)とサ○マ○クカフェを後にしていた。

「もう大丈夫?」心配している海が聞いてくる。

「うん。ありがと」

 はにかみながら倉井が答えると海は笑顔になった。

「最中は行きたいところある? 大阪城とか?」

「えっと、海さんが行きたいところなら……」

 答えた倉井に海は違和感を憶える。いつもならハッキリと意見を言うところだが、珍しく口ごもっている。なにかあるなと海はピンときた。

「ねえ、わたしに遠慮しなくていいから言ってよ。ホントはあるんでしょ?」

「そ、その……」

 もじもじしている倉井に海が聞き耳を立てる。

「何?」

「海を見てみたい。一度も生で見たことないから……」

「そんなにわたしを見たいの? いつも見てるじゃん?」

 倉井の言葉に海がウインクして答える。そっち!? 驚く倉井。

「えっ!?」

「ウソ! わかってるって! あはは! それじゃあ行こう!」

 笑う海が倉井の手を引いて駅へと歩き出す。

 でも、ずっと見ていたいのは本当だなと楽しそうな海の横顔に、引っ張られながら視線を向けた倉井は頬を染めた。

 こうして2人は電車を乗り継ぎ大阪港駅へと向かっていった。


 どうやら海は最初から地下街を見る気が無いようで、別の場所に行こうと調べていたらしく倉井を迷わず連れてきていた。

 大阪港駅を出て線路沿いに歩いて行くと係留されいてる船と海が見えてくる。

「わぁ~~!」

 倉井が歓喜に声を出す。

 2人はそのまま真っ直ぐに進み、広々としたウッドデッキの先にある手すりまで歩いていくと一面の海が視界に飛び込んでくる。

 海を一望して息を吸い込む倉井。

「すごい! 海だ! 魚の匂いがする!」

「手前にある島の野鳥園に行った方が大阪湾がよく見えるんだけど、何も無さそうだったからこっちにしたの」

 感激している倉井に海の向こうに立つビル郡が立つ島を指差す海。確かに堤防などがあって地平線までの海は見えない。

 それでも見渡す海に感動した倉井は首を振る。

「ううん。海さんが選んでくれたから嬉しい。ここからでも海の広さがわかるから楽しいよ」

「よかった!」

 思った以上に喜んでもらえてホッと胸をなで下ろした海は倉井と一緒に、穏やかに揺れる波の眺めを楽しんでいた。


 海の景色を堪能した2人は近くにある水族館へと足を向けた。

 初めて水族館を訪れた倉井はここでも目を輝かせている。その様子に海はクスリと笑みをこぼした。

 そんな海だが、彼女も水族館へ来るのはこれで3度目。海から遠い地方に住んでいることもあり、なかなか訪れる機会が無かったのだ。

 人混みに気分を悪くしていた倉井はどこへいったのか、ワクワクしている彼女の手を握った海は楽しそうに一緒に館内へと入っていった。

 大きな水槽に泳ぐ魚たちを見て海と倉井は感動する。

 色鮮やかな熱帯魚やアシカやアザラシ、ペンギンに巨大なジンベイザメ。海たちは実際の魚たちに驚きながらも楽しそうに話しながら見ていく。

 薄暗い中でライトアップされたクラゲコーナーでは、優雅にフワフワと漂う様子に綺麗だねと(ささや)き合う。

 つないでいる手を意識しはじめた海は、隣でクラゲを見て嬉しそうにしている倉井の横顔に胸をドキドキさせていた。

 顔を水槽に近づけているためか、ほのかに光るライトが倉井の顔に当たって神秘的な美しさを演出させている。

 熱くなっていく自身の手が、最中にわかってしまうのがなんとなく恥ずかしい。海は緊張してきた自分を深呼吸して誤魔化していた。

 スーハー、スーハーと大きく息をし始めた海に倉井は意味もわからず笑った。


 ──一方、冬草 雪(ふゆくさゆき)秋風 紅葉(あきかぜもみじ)は梅田駅近くのショッピングモールにいた。

 2人は近場の商業ビルをはしごしてショッピングを楽しんでいた。

 冬草たちと同じように春休みを利用して来ている学生が多くいて、中にはデートと思われるカップルもちらほらいる。

 ひと休みにと2人はオシャレパンケーキの店に入っていった。

 すっかり秋風と付き合ってからスイーツな所に行くのが増えた冬草。元々、甘い物は好きな方だが、彼女の手作りスイーツを食べているうちにすっかり舌が秋風の作る物になれてしまったようだ。

 運ばれてきたアイスが乗ったパンケーキを一口食べて、少し物足りないなと眉をしかめて思った。

 そんな冬草の表情に秋風は首を傾けた。

「どうしたの雪? 悩み事?」

「いや、このパンケーキはおいしいけど期待したほどじゃなかったから」

「そお? おいしいよ。雪って意外とグルメさんね!」

「ちげーよ! 紅葉の方が美味いってことだよ!」

 冬草の言葉にキョトンとした秋風はニタリと深い笑みを浮かべる。

「嬉しい! どうしよう、すごく抱きしめたい!」

 対面に座っていた秋風が冬草の隣に移動して来た! 慌てた冬草が止める。

「だめだって! なんでいつも紅葉はそうなんだよ!?」

「しょうがないよ。だって嬉しいから」

 抱きつきはしなかったが、冬草にピタリと身を寄せる秋風。冬草の肩に乗った秋風の頭から良い匂いが鼻に届く。

 その匂いにこの前初めてした深くて甘いキスを思い出し、顔を赤らめる冬草。いまだにふれ合うだけでドキドキしていた。


 梅田から離れた2人は心斎橋へ電車で移動する。

 以外と近い距離にあるようで数駅乗っただけで到着した。東京と違って移動が楽でいいなと冬草は思った。

 秋風がリードして駅から歩いて行く。

 途中でたこ焼きを買って2人で食べながら進むと人がまばらな地区へと来ていた。

 観光客が少ないなと辺りを見回している冬草が秋風に手を引っ張られる。

「休憩しようよ雪! こっち!」

「え?」

 来たばっかりなのに休憩ってなんでだ? 冬草は疑問に思いながら秋風が建物の中へとぐいぐい連れて行こうとしている。

 建物の入り口には看板がかかっており、ご休憩1時間〜ご宿泊の基本料金が書いてある。

「おいっ!? なにやってるんだよ!」

 慌てた冬草が足を止めて通りへと連れ戻す。秋風がラブホへと連れて行こうとしてたのがわかったからだ。

 まだキスしかしていないのに、階段飛ばしすぎだろ! と、汗をかいた冬草が秋風を留める。

 しかし秋風はどうしてもいきたいようで抵抗している。

「いいでしょ? ここだったら先生たちにバレないし、いろいろ卒業できるよ!」

「いや、ダメだろ! だいたい生徒会長が率先してこんなことしちゃダメだろ!? しかもあたいら未成年だし!」

「生徒会長は関係ないよ! わたしと雪の問題でしょ? せっかく大阪まできたんだから、私達ももっと進展していいと思うの」

「ちょっと待て! 他に行こうよ! な? のんびりと公園にでも行って落ち着こう!」

 なんとか秋風をなだめようと必死な冬草。お互いの肌にふれ合うにはまだ早い。そんなことしたら気が遠くなりそうだ。

 ただでさえ、キスだけでも気持ちよすぎで頭が真っ白になるのに……これ以上のことを考えると冬草は怖くなってしまう。


 ふと、通りに見慣れた人が並んで見ているのがわかった。

 冬草が顔を向けると紙袋をさげた岡山(おかやま)みどり先生と岩手 紫(いわてむらさき)先生が手をつないでポカンとこちらを見ている。

 先生たちに気がついた秋風が抵抗を止めると姿勢を正して、何事もなかったようににこやかに挨拶した。

「あれ? 岡山先生に岩手先生。こんなところで会うなんて偶然ですね!」

「え、ええ、偶然ね。ひょっとしてだけど、あなたたちこの建物に入ろうとしてなかった?」

 戸惑うみどり先生が返すと秋風はクスクスと笑った。

「まさか! 違いますよー。そう見えたかもしれませんけど偶然通りかかっただけですから。それでは失礼しますね! また旅館で会いましょう! さ、雪も行こう!」

 わざとらしい笑顔で早口に言うと冬草の手を引っ張って足早に去って行く。

 通りの人混みにまぎれていく秋風たちを見送りながら紫先生は吹き出した。

「あははは。まさか同じ目的なんて言えないよね?」

「なんで同じ場所を選ぶの? 偶然って怖い」

 背中をぶるりと震わせてみどり先生が(つぶや)く。

 再び笑った紫先生が、秋風たちの入ろうとしていた建物へ入れ替わるようにみどり先生と入っていった。


 宿泊先の旅館──

 夕方もすぎたところで葵 月夜(あおいつきよ)夏野 空(なつのそら)春木 桜(はるきさくら)が予約している部屋へと入っていく。

 40畳はありそうな団体用の大部屋だ。この時期は利用率が低いようで格安で月夜たちは予約ができた。

 それぞれ地下街の感想を言いながら荷物を開いていると海と倉井も戻って来た。

 なんとなくぎこちない2人は、とても楽しかったと月夜に水族館の報告をしている。

 やがて冬草と秋風も来た。秋風の首にはキスマークと思われる(あと)があった。見せびらかすように堂々としている秋風と恥ずかしそうにしている冬草に察した月夜たちはなんともいえない視線を向けていた。

 最後に来たのはみどり先生と紫先生だ。遊び疲れた部員たちとは対照的に2人ともスッキリ、ツヤツヤしている。

 不思議がる月夜たちだが、冬草と秋風はその理由を知っていた。

 こうして初日が終り、夜が訪れた。


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