94話 大阪だ!
大阪の梅田駅に降り立った9人。
地底探検部の葵 月夜、夏野 空、倉井 最中に冬草 雪。顧問の岡山みどり先生に、付き添いで来た葵 海に春木 桜と秋風 紅葉そして岩 手紫先生。
かねてからの念願の大阪に来た部員たちは、宿泊予定の旅館に荷物を預けて梅田へと繰り出してきたのだ。
行き交う人々の数に圧倒されながら彼女たちは駅の壁側に並んで立っていた。
「す、すごいな…さすが都会だ。こんなに人がいるなんてまるで祭りのようだ」
月夜が感想を漏らすと倉井が吹き出す。
冬草の隣にいた秋風が微笑む。
「でもあれね。こんな小さな部に引率の先生が2人もいると安心ね?」
「違うぞ紅葉。先生たちはデートするから、あたいらはどーでもいいんだよ」
冬草がふてくされたように言うと秋風が腕に抱きつき笑う。
「それって私たちも同じでしょ? いいんじゃない」
「お、おう」
頬を染めた冬草が頷く。
部員たちがワイワイと雑談している中、ガイドブックを手に持ったみどり先生が紫先生と前にでると月夜たちへと顔を向ける。
「私達は別行動になるから。夜に旅館で会いましょ。くれぐれも気をつけて行動してね」
「ミドリちゃんたちはどこへ?」
「ふふっ。ヒ・ミ・ツ」
月夜が聞くとウインクしてみどり先生が答える。
そのまま紫先生の手を取ったみどり先生が、指をからめて楽しそうに笑い合いながら人混みにまぎれて消えて行った……。
「むうー。いいのかあれで?」
「見事にはしゃいでますねー。わたしたちも目指す地下街へ行きます?」
「うむ。そうしよう」
月夜と夏野が話している間にも秋風に引っ張られた冬草が人混みに飲み込まれていく。
倉井と海は手を振って冬草たちを見送った。
ふと見ると人数が5人に減っている。
なんて自分勝手なんだと月夜は部長として部の行く末を心配し始めた。
こうして初めての地へ来た地底探検部の部員たちは、それぞれが動き出す。
月夜たちが地下街への階段を下っていく。
やはりここでも人波がすごい。部員たちはキョロキョロと頭を回し物珍しそうにしながら地下街への通路に下り立つ。
通行人の邪魔にならないように隅に寄ると月夜は地図を取り出し確認する。
「前にバーチャルで見たが、実際に来ると狭く見えるなぁ」
「あれは人がいませんでしたからねー。どちらに向かいます?」
地図をのぞき込んだ夏野が聞いてくる。
月夜が思案していると、倉井が青い顔でその場にしゃがんだ。
「最中! どうしたの!?」
慌てた海が一緒にしゃがみ込み倉井の肩に手を置く。
「大丈夫? 横になる?」
「ちょっと人が多くて気分が悪くなってきて……」
具合の悪そうな倉井の背中を優しくさする海。月夜たちも集まってきた。
「これは人酔いだな。狭い空間に大勢の人間がいるからに違いない。ここは一度地上に出て新鮮な空気を吸った方がいいだろう。しかし、地底人の最中君が地下空間の人混みに弱いとは……。いや、まて。逆に地底人だから…」
「考察は後にしてください月夜部長! とにかく最中ちゃんを楽にさせないと!」
「そ、そうだった。スマン」
つい考え込む月夜を夏野がたしなめる。
月夜が倉井を抱っこしようと近づくと、彼女は手を振って拒否した。
「わ、わたしはいいですから。月夜部長たちは先に行ってて。しばらくすれば大丈夫だと思う」
「いや、しかし……」
戸惑う月夜に妹の海が倉井の両肩を持つ。
「わたしが最中と一緒にいるから、お姉ちゃんたちは楽しんできなよ! わたしと最中は地上で休んでブラブラするから」
「海……お姉ちゃんは心配なんだけど」
「大丈夫だって! 何かあれば連絡するから! 行って、行って!」
渋る月夜を海は無理矢理送り出す。
お姉ちゃんは連絡を待ってるからね! と叫ぶ月夜の後を追って夏野と春木も地下街の先へと人混みに消えて行った。
「ふぅ」
なんとか邪魔者を排除した海は安堵の息を吐き出した。
すると倉井が肩を震わせポロポロと涙をこぼし始める。
「ごめんなさい……。海さんがあんなに楽しみにしていたのを、わたしのせいで台無しにして……」
驚いた海が慌ててクマP柄のハンカチを取り出すと流れる倉井の涙を拭く。
「ちょ、ちょっと最中、泣かないでよ。体調のことは仕方ないでしょ? それにわたしは最中がいるから来たんだし」
スンスンと鼻を鳴らす倉井に優しく微笑む。
「最中は何も悪くないよ。お姉ちゃんたちと別行動しようと思ってたから、むしろちょうど良かった」
フフと笑う海につられて倉井も口元をゆるめた。
「少しは落ち着いた? 立てそうなら外にいこっか?」
「うん」
立ち上がった海が手を差し伸べ倉井がつかまる。
こんなにも自分を心配してくれている海に倉井は胸がポカポカと温かくなるのを感じて、やっぱり好きなんだなと倉井は自分の気持ちを再認識していた。
階段を一緒に上がりながら倉井は海に微笑む。
「ありがとう海さん」
「べ、別に礼を言われることしてないし!」
照れる海が頬を染めて視線を逸らす。けれども倉井の手をしっかりと握っている。
2人は地上に出ると近くにあったサ○マ○クカフェで休んだ。
──その頃、海と別れた月夜たちは道に迷っていた。
「う~~ん。どうやら地図と違うようだ」
「どこですかねー? こういうのも楽しいですけど」
「誰かに聞く?」
月夜の呟きに夏野と春木が反応する。
しかし、と彼女たちをみながら月夜は思った。9人で来たはずなのに、こうして今いるのは3人。
はたしてこれは部活動といえるのだろうか? いや、いえない! ここに残っているのが真の勇者なのだと月夜は新たに思った。
夏野と春木をまとめてガバッと抱きしめる月夜。いきなりの行動に2人はビックリしている。
「君たちは最高の部員だ! わたしは嬉しい!」
「ふざけるな! あたしは部員じゃないし!」
春木が怒りながら月夜の抱擁から逃れる。夏野は嬉しそうにべったりと月夜にひっついていた。
「やはり現地へ来ると違うな。聞きたまえ、あの話し声を!」
月夜が人波へ聞き耳を立ててると、あちこちから関西弁の会話が入ってくる。
「どうだい? 生の大阪弁は? なんとも現地に来た感動がないだろうか!」
「いや、ないし。むしろテレビの漫才コンビみたいなコテコテな人はそんないないし」
冷静に春木が突っ込む。夏野はいまだ月夜にうっとりとひっついている。
きつい否定的な言葉に月夜は涙目になりながら夏野をそっと体から離すと、次はどこに行こうかなと誤魔化しながら2人の手を引いて歩き始めた。
さすが“梅田ダンジョン”と噂されるだけあって、月夜たちは複雑に入り組んだ地下街を迷いながらウロウロしていた。
途中でカフェを発見して休憩する3人。ちゃっかり夏野は月夜の隣を陣取っている。
ズズズーーっとストローでレモンスカッシュをすする春木。両手を頭の後ろに回してため息をつく。
「ふ~~~っ、あきた!」
「はぁ!?」
驚いた月夜と夏野が目を向ける。月夜の妹たちと別れてまだ1時間もたっていないからだ。
「だって、いっぱい人がいて、なんかせわしないし。地下通路もごちゃごちゃしててわけわかんないし」
「いや、それが目的だから……」
月夜が呆れていると夏野がフォローしはじめる。飽きっぽい友人だが、まさかこれほど早く地下街に飽きるとは思わなかった。
「そ、そうだ! じゃあ、お店とか回らない? いろいろあるみたいだし、さっきお店がたくさん並ぶ通りが見えたよ!」
「ちょっと空君、待ちたまっぷ!?」
まだ地下街探索を諦めていない月夜の言いかけた口を夏野の手が塞ぐ。
「月夜部長は黙ってて! 桜は雑貨とか好きでしょ? 地下街にはショップがいっぱいあるみたいだし回ろうよ?」
「それなら行く!」
雑貨と聞いた春木が目を輝かせて元気になった。
えらく単純だが、目的が変わってきてないか? 月夜は疑問に思う。だが、地下街を回れることは確かなようだ。
「くれぐれも羽目を外さないようにね、桜君?」
「あたしずっと大人しいじゃん? むしろ部長のギャルな服装の方が人目引くから変な行動しないでね?」
「むぅ。お言葉だが、わたしの服装はおとなしめだぞ?」
「うそ! だって背が高いのにミニスカじゃん! 目立ってるし、さっきから通行人の視線が部長に集まってるよ!」
「な、なんだと!? わたしが注目されてるだと……恥ずかしいような嬉しいような?」
「はぁ!?」
今度は逆に春木が月夜に呆れている。それから何故かギャル談義になる2人。
そんな2人の言い合いの中、月夜の隣にいる夏野は見つからないように自分の手をクンクンと嗅いでいた。
先ほど月夜の唇に触れた手。夏野は目を閉じて月夜の唇の匂いを堪能していた。
目の端に夏野の行動を認めていた春木は、言い合いをしながら友人の変態度が上がっていくのが不安になっていた。
こうして月夜たちはアパレル系のショップが並ぶ通りへと繰り出していった。
途中、ギャルショップを発見した月夜が新作の服にはっちゃけて夏野に怒られていた。




