86話 相談
深原高等学校の放課後──
地底探検部の部室に1番に入った岡山みどり先生は、いつものようにお茶とお菓子を用意してくつろぎはじめていた。
そこに冬草 雪が急いで来たのか息を切らしながら入って来た。
部室内にみどり先生以外がいないことをキョロキョロと見渡して確認する。
なにしてるんだか…みどり先生はそんな冬草を見ながらお菓子をつまんでいた。
「先生! ち、ちょっと相談があるんだけど」
「はい?」
近づいた冬草が突然言いいながら無理矢理みどり先生を引っ張って部室から外へと連れ出していく。
部室棟の裏手に来て、他に生徒がいないことを確認すると冬草がみどり先生に迫る。
「みどり先生! ちょっと聞いて欲しい事があるんだけど!」
「は、はい」
迫力ある冬草にカツアゲされるのかとビビるみどり先生。
と、次の瞬間、真っ赤になった冬草がごにょごにょと言い始める。
「そ…その。みどり先生たちってキ、キスするときってどっちからしてくるんだ?」
「は? キス?」
キョトンとしたみどり先生が聞き返すと、真っ赤な冬草は続ける。
「つ、つまり一方的に相手からだけなのかって聞いてるんだろ! みどり先生からもするのかよ?」
「ぷっ! あははははは!」
思わず吹き出したみどり先生が笑い始める。自分の思っていたリアクションと違う行動に冬草は頭を抱えた。
もう少し親身になってくれると考えていたが違ったようだ。
笑いが収まったみどり先生は目にたまった涙をふいた。
「ごめんなさい笑って。あまりにも冬草さんが奥手だから」
「うっせーよ」
すねた冬草が顔を横にした。
ふぅと息をついたみどり先生は冬草の肩に手をかけ優しく語りかける。
「あなたたちはいつも秋風さんからなの? 冬草さんは受ける方?」
「そ、そうだけど」
「なるほどね。私たちはどちらからでもするよ。私からしたいときはするし、相手がしたいときにするの。ちょっと冬草さんは構えすぎなんじゃない?」
「構える?」
「そう。相手に良く見せようとして無理しているんじゃないのかな。だって部室で秋風さんといるときは、たいがい緊張してるみたいだし。もう少し自分を見せてもいいんじゃない?」
「ま、まあ確かに緊張はするけど」
みどり先生の言葉に思い当たるのか冬草は肯定する。
若いってかわいいとみどり先生はホワホワと初々しい冬草に和んで微笑む。
そこでみどり先生はキラリと人差し指を上げる。
「さしあたり解決するには……」
「するには?」
ゴクッと冬草が喉を鳴らす。
「いきなり押し倒そう! これで決まり!」
「おいっ! 真面目に聞いてるんだろ! なんでいきなり押し倒さないといけないんだよ!」
またも予想外の言葉に驚く冬草。ニヤリとしたみどり先生は人差し指をそのまま左右に振る。
「チッ、チッ。大丈夫、秋風さんはあなたが好きなんだから願ったり叶ったりよ。それに勢いが大切じゃない! そのままいければ最後までいけるし、下手に緊張しないでしょ?」
「ああ? さ、最後って?」
冬草の問いに、あっと口に手を当てるみどり先生。ちょっと刺激すぎたかもしれない、まだ早いかもと。
眉を寄せる冬草に笑いかけるみどり先生。
「なるようになるわよ。とりあえず勢いが大切! いい?」
「お、おう」
なんとなくわかったような、わからないようなアドバイスをもらった実感のない冬草であった。
相談が終わったものと部室に戻ろうとするみどり先生に冬草が聞いてきた。
「せ、先生たちって最後までしたの?」
足を止めて振り返ったみどり先生は唇に人差し指をつけた。
「ヒ・ミ・ツ」
フフと微笑んで背を向けるみどり先生。ぜってーやってんだろと冬草は思った。
部室に戻ると秋風 紅葉が葵 月夜ら部員たちと雑談している。
冬草を見つけると秋風が嬉しそうに来た。
「良かった雪がいて! 部室に来たらいないんだもん、心配しちゃった」
「わ、悪かった。ちょっといいか?」
「なになに?」
部室に戻ったばかりなのに、秋風の手を引いて再び外へと連れ出す冬草。頭の中にはみどり先生が言っていた『押し倒す』の言葉がリフレインしていた。
そのまま体育館へ直行すると倉庫からマットを運び出してセットする。黙々と準備をしている冬草に秋風は何をしているのだろう? と不思議そうに見ていた。
全てが整った冬草は秋風をマットの前に立たせると、抱きしめて押し倒した!
勝ち誇ったような顔で冬草は眼下で目を丸くしている冬草に聞く。
「ど、どう?」
「ビックリしたけど、どうしたいの?」
キョトンとしている秋風に、ふと思い出した冬草がマスクを取って顔を近づける。
「ち、ちっと待って!」
驚いた秋風が冬草の顔を両手で挟んで止める。あれ? 全然、話しと違うと冬草は困惑する。
冬草の表情を見て、やっとピンと来た秋風が眉を寄せた。
「岡山先生と出てたようだから、何か話したのね? 何を吹き込まれたの?」
「い、いや、その…」
「早く言って!」
「そ、その、押し倒したら紅葉が喜ぶかもって」
耳を赤くさせ恥ずかしげに言う冬草に、そういうことかと納得した秋風。にしても、わざわざ体育館に来なくてもよかったのに。
なんとも行き当たりばったりで無計画な行動だが、自分のためにしてくれる事、それがたまらなく愛しく思える。
「バカね……」
両手に挟んだ冬草に下から秋風がムチュっと唇を奪った。
あれ? 思ってたのと違うぞと冬草は思ったが、目的が達成できたので満足していた。
いきなり部活中に生徒会長がマスクの女生徒に連れられてきて、マットを敷くと押し倒してキスを始めた……。
バスケットボール部やバレー部、卓球部などの部活中の部員たちは、突然現れた珍客の様子を目の当たりにしてどよめいていた。
生徒会長がこんな大っぴらにイチャイチャしている。一体学校の風紀はどうなっているんだ? 部員たちは手を止めて彼女らに注目している。
こんなに生徒がいるのに、ずっと2人だけの世界に浸っている。
しばらくして気が済んだのか、2人は起き上がるとマットをしまって、そそくさと体育館を出て行ってしまった。
彼女らがいなくなった体育館では今見た光景に大騒ぎになっていた。
──翌日、学校中で噂になり、冬草と秋風は職員室に呼び出されて注意されていた。
ちなみに、噂が飛び交った結果、冬草と秋風は学校公認の仲になっていた。




