85話 見えそうで見えた!
学校の廊下を歩いていた夏野 空は階段にさしかかり、なにげに見上げて発見した!
ちょうど上の階との踊り場で葵 月夜がいたのだ。
「月夜部長~!」
夏野が声をかけると気がついた葵が顔を向けた。
「お! 空君か! こんなところで奇遇だね」
「エヘヘ、運命みたいですねーって!」
あるモノが見えて驚く夏野。
「どうした空君!?」
「い、いえ! 大丈夫ですから、月夜部長はそのままで!」
何事かと葵が階段を下りようとすると慌てた夏野が止める。
そう、夏野が立っている場所から、階段上にいる葵の短いスカートの中身が丸見えだったのだ。
バイオレットな色のレースなパンツ……セクシーだしラッキー!
しかも視線を葵部長の顔に向けたままで、堂々とパンツが目の中に入ってくる。
じっくりと夏野が記憶に焼き付けていると不審に思った葵が声をかける。
「本当に大丈夫かい?」
「はっ!? もちろんでーす!」
ヤバイと思った夏野が、事情を知られまいと一気に階段を駆け上がってくる。
心配した葵は夏野の肩に手をかけて顔をのぞき込む。
「空君はたまに動きがピタッと止まるときがあるんだが、病気ではないよね?」
「違いますよ! その…えっと、いろいろ考えてると止まっちゃうんですよ。ハハハハ」
笑いながら誤魔化す夏野。言えない…いつも見とれていたり、Hなハプニングにウハウハだとは。
疑いの眼差しを受けながら夏野の言い訳を聞く葵。
ホントに大丈夫なのだろうか? このまま空君が空想の世界に行ってしまったら、部員が減ってしまう。葵は本気で心配していた。
そんな葵をよそに、笑顔の夏野はまた部活で会いましょうと階段を軽やかに下りていった。
夏野の後ろ姿を見下ろしながら葵は、今度お参りに行かねばと心に決めた。
今日は良いことがあったなと、ルンルン気分の夏野が教室に向かって歩き出すと背後から声をかけられた。
「空ちゃん……」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこには倉井 最中が険しい顔で立っていた。
ひょっとして……倉井はずっとその場にいたのかもしれない。夏野に冷や汗が流れる。
「も、最中ちゃん…最初っから全部見てた?」
「うん」
「はわぁああ! ち、違うの! 聞いて! 偶然だから! ね?」
慌てた夏野が言い訳を始めて、倉井は吹き出すと苦笑して聞いている。
「月夜部長が好きなのはわかるけど、あからさまだよ空ちゃん」
「うぐぐ…」
ズバリ言われて二の句が継げない夏野。倉井は不思議そうに首をかしげた。
「そんなに下着が見たいの?」
「ち、違うって! そうじゃないの! ちょっと移動しよう」
いきなり何を言い出すのかと焦った夏野が倉井を人気のない場所へと連れて行く。
キョロキョロと辺りを見渡し、他の生徒がいないことを確認すると夏野は倉井に説明する。
「最中ちゃんならわかるでしょ? 好きな人の事は全部見たいし、知りたくなるよね?」
「うん、それはわかるけど……」
「でしょ? まあ、しいて言うと、あの身体にムラムラするし、パンツを見て興奮するけど」
自分で言っておいてハッとする夏野。どうやら墓穴を掘りまくっているようだ。眉を寄せた倉井がジッと見つめてくる。
ヤバイ…最中ちゃんが怖い。清純なのだろうかと夏野は思った。
「も、最中ちゃんは海ちゃんにムラムラしないの?」
「えっ!? そんな…」
急に顔を赤らめた倉井はモジモジとし始めた。チャンスと見た夏野がたたみ掛ける。何がチャンスなのかわからないが。
「ほら、好きになると抱きしめたくなったり、キスしたくならない?」
「……なる」
「でしょ! わたしも同じ! きっと海ちゃんもしたいと思ってるかもしれないよ?」
「ほえぇ!?」
さらに真っ赤になった倉井が恥ずかしがって変な声を出した。
まさか、そんな!? 倉井の頭にポワンと葵 海が目を閉じて唇を突き出している光景が浮かんだ。
はわわわーと焦った倉井が真っ赤なままウロウロし始め、挙動不審になる。
なんだこれ? と思いながらも夏野が倉井の腕を取る。
「落ち着いて最中ちゃん。それとなくアピールしてみたら?」
「ほわぁ」
もはや言葉にならない声を出して倉井が昇天した。
自分が焚きつけてオーバーヒートした倉井を慌てて夏野が受け止める。
しばらく倉井を落ち着かせていると短い休み時間が終わるチャイムが聞こえたきた。
最中ちゃん大丈夫かな? と教室まで送り届けた夏野は不安になった。
──翌日、夏野のいる教室に急いで来たのか、息を切らした葵海が突然現れた。
「空! ちょっと来て!」
「あれ? 海ちゃん?」
ポカンとする夏野にズカズカと近づき、腕をつかむと海は廊下に連れていく。
「ちょ、ちょっと海ちゃん!?」
「いいから来て!」
怒っているような有無を言わさぬ口ぶりに夏野は自分が何かしたかな? と首をひねった。
廊下に出ると海が夏野に問うてくる。
「昨日、最中の様子がおかしかったんだけど、聞いたら空が何か吹き込んだみたいじゃん? 何を言ったの?」
「えっ!? あ、ああ!」
最初は何事とかと不思議がった夏野だったが、昨日の出来事を思い出す。
ひょっとしたら最中ちゃんは海ちゃんに何かしようとして失敗したのかもしれない。
……言えない。ハグとかキスしてみたら? なんて焚きつけていたなんて。
目の前で腹を立てている海に夏野は、アタフタと言い訳を始めた。
「えっと、その、最中ちゃんはもっと海ちゃんと仲良くなりたいって思っているみたいだから、少し積極的にスキンシップしてみたらって提案したんだけど。海ちゃんは最中ちゃんと仲良くしたくないの?」
聞いていた海は思案気な表情になる。どうやら怒りは収まったようだ。
ここは気が変わらないうちにと夏野は続けた。
「でしょ? もっと仲良くなりたくないの?」
「そりゃーそうだけど、空は余計な事をしなくてもいいから! お節介なの、お姉ちゃんみたい」
むすっとした海が答える。想い人と同じと言われて夏野は顔が崩れる。
「えっ!? そう、お姉さんみたい…エヘヘ」
「何ニヤケてるのよー」
「ごめん、ごめん。だけど2人にはもっと仲良くなって欲しかったから」
「わかったよ。でも、わたしたちの事はそっとしておいてね?」
「そうする」
コクコクと何度も頷く夏野。
ホッとしたのか安心したのか笑顔になった海は、よろしくねと言うと夏野と別れた。
教室に戻った夏野はグッタリと自分の机に突っ伏した。まさか月夜部長のパンツを見て、こんなことになるとは……。
すると親友で同じクラスの春木 桜がやってきて、根掘り葉掘り聞いてくる。
顔を机につけたまま夏野は一連の出来事を話し春木は爆笑していた。
事情を知らない周りの生徒たちは、3年生のギャル先輩はもとより中学生まで手籠めにしているのかと、夏野のモテっぷりが噂になっていた。




