83話 お仕事拝見!
秋風 紅葉は氷河 岬と一緒に学校帰りに駅にあるハンバーガーチェーンのマ〇ド〇ルドへと向かっていた。
生徒会の会議が終わり、秋風の誘いを受けて氷河は久しぶりに2人でいるのを楽しんでいた。
中学校の頃から生徒会の一員として長い付き合いになる2人は気の許せる友達の1人だ。当時は副会長だったが今は生徒会長の秋風。葵 月夜が高校生になると生徒会とは無関係になって、風紀委員の氷河は寂しく思っていた。
そんな2人がマ〇ド〇ルドの自動ドアをくぐって店内へと入り、カウンターへと向かうと秋風がよく知る人物に声をかけた。
「雪っ! 今日も来たよ!」
「お、おう」
嬉しそうな秋風とは対照的に冬草 雪は緊張と照れでぎこちなく答える。
冬草はバイトで経済的な負担を少なくしようと、パートで働き詰めな母を手伝っていた。ここの地元では店が少ないため、バイトするにも電車や原付バイクで離れている所へ移動する場合が多い。ダメ元で駅前にあるマ〇ド〇ルドの面接に応募した冬草はラッキーにも受かっていたのだった。
そんな冬草から話しを聞いていた秋風は、彼女のシフト時間にたまに顔を出していた。
笑顔の秋風は注文してギクシャクと冬草が対応する。2人を見て氷河は、秋風の彼女って例の月夜に突っかかって泣かされた噂の人物だったのかと初めて気がついた。
2人分をまとめて注文した秋風がホットドリンクとプチパンケーキを乗せたトレーを受け取り氷河を案内する。
「場所は決まってるの。来て」
そう言うとカウンターがよく見える斜め前の席へと移動した。
「ここよ」
「わかったけど、ずいぶん熱心ね? ここまでのは初めてかも」
ドリンクを受け取りながら氷河が聞くと、秋風はカウンターにいる冬草を一瞥して微笑む。
「ふふ。ささいな事がきっかけでここまで好きになるなんて初めてかもね」
「意味がわからないし。私が言ってるのは、いつも1人で勝手に盛り上がりすぎて振られまくってたあなたが上手くいってたコトなんだけど?」
きっと出会いを思い出しているであろうニタニタしている秋風に氷河が突っ込む。
「私はちょっと積極的なだけでしょ? だけど、雪って何でも受け入れてくれる優しい人なんだ。だから、かな?」
「ふ~ん」
見た感じ怖そうな雰囲気をただよわせている冬草だが、意外と中身はシャイなのかもしれない。氷河は重い恋になりがちな秋風が、順調にいっているようで安心していた。いつもなら振られて泣きながら連絡してくるので、さすがに成功して欲しいと思っていたから。
話しながらも秋風はカウンターで接客している冬草をジッと見つめ、ぎこちないながらも笑顔でお客の注文を復唱している彼女の顔を愛しむように堪能していた。
重っ。そんな秋風を観察していた氷河は思った。
充分に冬草の表情を味わった秋風が呆れている氷河に視線を戻す。
「ところで、岬はこのままでいいの? 月夜が好きなんでしょ?」
「いいよ私は。片想いで」
はぁとため息をついて温かい紅茶に口をつける。不服そうな秋風の視線に氷河は言葉を継ぎ足す。
「少し離れて見ていれば、それで満足だから。叶わぬ恋なのはわかってるからね」
「なんでよ!? まだ告白もしてないのに何をわかってるの!?」
妙に冷静なのか諦めている氷河に熱い秋風が身を乗り出す。こういう変に真面目なところが生徒会長だなと氷河が笑う。
「そりゃ中学の3年間ずっと生徒会で一緒にいたからわかるよ。何人も月夜に告白してるのも見てきたし。それに、今は夏野さんがいるから」
「え? 同じ部の夏野さん?」
氷河の口から意外な名前が出て驚く秋風。確かに夏野 空と葵は同じ部活にいるし、2人が付き合ってる風には見えなかったと秋風は首をコテっと傾けた。
ぷっと吹き出した氷河が説明する。
「紅葉は部室に遊びに行ってるのに気がつかなかったの? 彼女ずっと月夜につきまとってるし、アプローチしてるのに」
「えぇえ!? そうだったの…てっきり仲がいいだけかと思ってた。後輩だし、月夜も可愛がってるみたいだから」
「そういうわけだから、憧れの人は見守ってることにしたの」
「私にはわからない感情ね……」
納得したような無理矢理飲み込んでいるような氷河の顔に、秋風はこれ以上追求するのを諦めた。
行動派な自分とは違って氷河は落ち着いて周りを見るタイプだ。本人の確信がない限り動かないのだろう。もったいない気もするが、彼女がそう決めたならしばらく様子を見ようと秋風は思った。
しかし、よく考えたら自分の事が1番で、あまり地底探検部について観察していなかったなと秋風は今更ながら気がついた。
だってそれもしかたがない。あまりにも雪が魅力的すぎて、いつも目を奪われて他を見る余裕がなくなってしまうからだ。
秋風はカウンターにいる冬草に視線を戻して微笑を送った。
翌日の放課後、地底探検部の部室に出向いた秋風は今度こそはと部員たちを観察した。もちろん、冬草の腕に抱きついて。
すっかり秋風の行動になれたのか部員たちは、いつも通りに振る舞っている。
嬉しいような恥ずかしいような照れた顔で冬草はドキマギしながら固まっていた。
部長の葵が冷蔵庫を漁ってプリンを取り出すと嬉しそうに食べ始めた。
倉井 最中と顧問の岡山みどり先生はお菓子をつまみながら楽しそうに話している。
そこに笑顔の夏野が部室に入って来た。
「遅くなりましたーって! 月夜部長っ! それ、わたしのプリン~~!」
葵が美味しそうに食べているプリンを見て叫ぶ。
「えっ!? まさか…」
全て食べ終えた葵が驚き、トトトと怒りの夏野が近づく。
「せっかく楽しみにしてたのに~! どうして食べちゃったんですか!? だいたいフタにマークを描いてたのに!」
「マーク? あったっけ?」
「ほら! これですよ! ひまわりのマークでわたしのっ!」
葵がはがしたプリンのフタを夏野が手に持って示す。そこには確かにカワイイひまわりのイラストが描いてあった。
すっかりプリン本体に気を取られて、フタのことなど見て無かった葵は、冷や汗を流しつつ頬をかいた。
「そ、その、気がつかなかったんだ。スマン空君…」
「前も言いましたよね? わたしの物にはひまわりのマークが入っているって?」
「う~ん、そういう記憶も頭の片隅にあったかも……」
「絶対にいいました!」
有無を言わさない夏野の態度に葵がタジタジになる。
ジリジリと壁側に追い詰められた葵は夏野にクドクドと説教されて、目に涙をためて泣きそうになっていた。
なんだこれ?
ハタから見ていた秋風は、後輩に責められている葵に不思議に思った。
中学の生徒会長のときはもっとしっかりしていたような……? そこでアッ! と秋風は思い当たった。
そういえば、実務はほとんど副会長の自分がしていたこと。月夜は指示だけ出していつも難しそうな顔で書類を見ていただけだった……。
ひょっとして、あれは人に任せっきりで月夜はラクをしていたのではないか?
表では実直そうに振舞っていて、その裏ではサボっていたのかもしれない。
すっかり高校進学と同時にギャルデビューかと勘違いしていたが、普通に本性をさらけ出していただけなのだ。
自分が憧れていた人物の本当の姿に気がついた秋風は、思わず吹き出すと冬草の腕に顔をうずめて笑い始めた。
きっと氷河は葵のこういう一面を知っていたのだろう。だから遠くから見ている方を選んだのかもしれない。
冬草は突然笑い始めた秋風に驚きながらも、どうしたらいいのかわからず彼女の頭をなでていた。
その横で葵は夏野に説教され続けている。
いつもの光景にすっかり慣れていた倉井とみどり先生は、一緒にお菓子をつまみながら笑っていた。




