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82話 考えて!

 市立深原(ふかばら)高等学校、地底探検部の部室には放課後早々に部員たちが集まっていた。

 大阪の梅田地下街への探検旅行が決まったため、決行日を始め必要な物資などの準備を相談していたのだ。

 寒い部室のカーボーンヒーター前で、半円になって部員たちはパイプイスに座っている。

 そんな中、冬草 雪(ふゆくさゆき)の腕を抱きしめている生徒会長の秋風 紅葉(あきかぜもみじ)一瞥(いちべつ)した葵 月夜(あおいつきよ)はため息をつく。

「紅葉。いつまで雪の腕に抱きついているんだね? 雪の首は真っ赤っかだぞ?」

「いーでしょ! ここしばらく生徒会が忙しかったからエネルギーをチャージしてるの! 別に迷惑じゃないでしょ、雪?」

「お、おう」

 頬を染めてカクカクと(うなず)く冬草。だめだこりゃと葵は額に手を当てた。

 すると夏野 空(なつのそら)が元気に手を上げる。

「はい! わたし春休みかゴールデンウィークに行きたいです!」

「うむ、確かにな。夏休みは別の所で合宿に行きたいからね。最中(もなか)君はどちらか希望はあるかい?」

「えっ!? えっと、海さんが同行できるならどちらでもいいです」

 相変わらず葵月夜の妹、(うみ)が一番の倉井 最中(くらいもなか)の答えに口をすぼめる。

 笑った岡山(おかやま)みどり先生は質問する。

「やっぱりホテルに泊まりかしらね? 大人数で泊まれる安い旅館とかあるのかしら?」

「うむ。ネットで調べたが、正によりどりみどりだよ、ミドリちゃん! さすが大都会だよ!」

「それは嬉しいわね! でも、私と(むらさき)は別室だからね?」

「ミドリちゃん……」

 もはや(あき)れた葵は白い目でみどり先生を見た。どう考えてもデートする気満々だ。


 ──バン!

 部室のドアが大きな音を立てて開かれると、春木 桜(はるきさくら)がズカズカと入って来てパイプイスを手に取り、葵たちの輪に加わる。

 それまで騒がしかった部室はシーンと静けさに包まれ、部員たちは春木に注目していた。

 手ぶらの彼女に今日は何も楽器を持っていないなと葵はいぶかしむ。

 むーーーんと腕を組んだ渋い顔の春木に夏野が尋ねた。

「どうしたの桜? 悩み事?」

「よく聞いてくれたね空、待ってたよ。実はネタが切れたの。あたしってどんな楽器が似合うと思う?」

「はい?」

 予想外の質問に夏野は聞き返す。そもそも部が違うし、楽器なんか音楽の授業でしかさわっていないのに。

「だからー、あたしに合う楽器を探してるの!」

「えっと、トランペットは?」

「それはレギュラーとれないから無理。みんなも聞いてるんでしょ! 良い案ない?」

 春木が他の部員たちに振ると、巻き込まれたくない全員が一斉に目を()らす。

 そこにはいつもいない人物がいるのを春木は気がついた。

「あれ? 生徒会長の秋風先輩がなんでいるの?」

「当然でしょ。私は雪がいるから遊びにきてるの」

「へ~~遊びにかぁ~」

 何故か自慢げな秋風の言葉に、いやらしい目つきで冬草を見る春木。視線を受けて、なんでこういうのには敏感なんだと頬を染めた冬草が横を向いた。


 やれやれと葵が春木に忠告してきた。

「桜君。君も2年生になるんだから、そろそろ腰を落ち着けて1つの楽器に集中したほうがいいと思うが?」

「そんなのわかってるよ! だってこれから後輩ができるんだよ!? したら、先輩はどんな楽器をやってるんですか? なんて聞かれたときにカッコイイ楽器を手にしていたいじゃん?」

「えぇ……」

 もう無茶苦茶な主張に葵はドン引きし、聞いていた倉井はぶふぅと吹き出していた。

 そこに苦笑したみどり先生が助け船を出す。

「打楽器は春木さんが飽きやすいから、金管楽器か木管楽器がいいと思うけど?」

「さすが先生! そういう考察が欲しかったの!」

 立ち上がった春木が指をさして嬉しがる。

 仕方なしに部員たちは春木にふさわしい楽器について考える事にした。

 葵がタブレットを持ち出しネットを活用しながら、あれこれと楽器を探し出す。

 Yo〇T〇beで実際の音を聞いたりして違いを確認する。

 サクスフォンやチューバ、コントラバスなど、とりあえず候補をいくつかに絞って春木が最終判断をすることにした。

 そんな作業をしている地底探検部の部員たちを見ていて秋風は、これって何部なワケ? と首をひねっていた。

 満足した春木は皆にありがとうと礼を言って、機嫌よさげに口笛を吹きながら部室を後にしていった。


 翌日──

 部室に部員たちがカーボンヒーターの前で暖まっていると、春木が大きな四角く長いケースを持って入ってくる。

「みな揃ってるね! さっそく用意してみたよ!」

 元気にケースを見せびらかす春木。

 全員が黙って注目しているにもかかわらず、気にしない春木はケースを机に置き開ける。

「じゃじゃーん! 日本のオリジナル楽器、大正琴だよ!」

「はぁ!?」

 重ねた板状の本体にタイプライターのような押すためのキーが並ぶ大正琴。

 部員たちは、昨日の候補はどこいった? とツッコミを入れようとする前に春木は説明しだした。

「昨日選んだのとは違うって言いたいんでしょ? わかってる! あれからわたしも考えたの。確かに選ばれた楽器はどれもカッコイイよ。けど、イマイチしっくりこなかったの。そこで親に聞いたら、お婆ちゃんが使ってた大正琴があるっていうの。これだ! って思ったね!」

「それで実物を持って来たわけだね」

 苦笑した葵が引き継ぐと春木は、そう! と笑った。


 選んだ楽器については本人の問題だし、自分が満足しているようなので葵たちは見守ることにした。

 そんな部員たちの思いを知らずに春木は大正琴を練習し始める。

 ビョ~~ン、ビュ~~ンと外れた音程が葵たちを襲う。楽譜もなく適当に弾いているようだ。

 耳をふさいだ冬草と倉井が目でなんとかしてと葵に訴える。夏野は面白そうに春木の練習を見ていた。

 しかたないと眉に指をあて、葵が春木の元へ向かう。

 と、部室に秋風が入ってきた。

「こんにちはっ! 今日も雪に会いに来たよ! あれ? 大正琴じゃない! 懐かしいー」

 春木の手元にある大正琴に気がついた秋風が近づく。ちょうど春木に声をかけようとしていた葵は秋風に質問した。

「紅葉はこれを知ってるのかい?」

「ええ。昔、習ってたんだ。母が忙しくなってからやってないけど」

「師匠! あたしに教えて! なにがなんだかサッパリなんだよーー!」

 聞いていた春木が秋風にグワッと食いつく。ちょうどやめようと諦めかけていたところ、(ワラ)にもすがる思いで秋風にすがりつく春木。

 せっかく冬草との愛情を深めたかったのに…タイミングが悪いなと思いながら、秋風は春木に大正琴の基本を教え始めた。

 しかし部員たちは、いつ春木が飽きるのかとハラハラしながら見ていて部活どころではなくなっていた。


 思ったよりも練習が進み、春木は『さくらさくら』がなんとか弾けるようになっていた。

 予想以上の成果に皆は喜び、これなら吹奏楽部でもやっていけるよと春木を送り出していた。

 ちなみに冬草はずっと心の中で、この楽器はだめだろ! とツッコミを入れていた。

 当然、吹奏楽部で自信満々に大正琴を披露した春木は、部長から即座に却下されて涙をのんだ。


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