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77話 誤解だ!

 1時限目の授業を終えた岡山(おかやま)みどり先生が廊下を歩いている。

 ふと廊下の向こう側で岩手 紫(いわてむらさき)先生が葵 月夜(あおいつきよ)と話している姿を見つけた。

 珍しい組み合わせね、みどり先生は不思議に思う。

 楽しそうに言葉を交わす紫先生と葵は、みどり先生が近づく前に別れて行ってしまった。

 そのときは何も思わなかったみどり先生だが、3時限目の休み時間にも目撃してしまう。

 廊下のガラス越しに向こう側の渡り廊下にいる紫先生と葵。ここでも2人は仲良さそうに笑顔で会話している。

 どういうことなの? とても偶然とは思えない出来事にみどり先生は戸惑う。

 葵さんと紫に共通点なんてあったかしらとみどり先生は思った。


 昼休みになり、地底探検部の部室に集まって部員たちと紫先生を交え食事をする。

 ここでも紫はいつも通りだ。ニコニコと愛情のある笑顔をみどり先生に向けている。

 さっきのは気のせい? なんともいえない気持ちになり、難しい顔になるみどり先生。

 その様子を心配した紫先生がみどり先生の太ももに手を置いた。

「みどり大丈夫? なにか心配事?」

「う、ううん、大丈夫。ちょっとね」

 はははと乾いた笑いで誤魔化すみどり先生。しかし、紫先生は真剣だ。

「本当に? 何かあったらちゃんと言ってね? 私、みどりが大事だから」

「ホント、ホント! そんなに心配しなくても大丈夫!」

 焦ってみどり先生が無理して笑って言うと、ホッとした表情で紫先生は(うなず)いて置いた手をポンポンと叩いた。

 葵を始め部員たちはいつものが始まったと(あき)れた顔で先生たちを見ていた。


 午後をすぎ、授業を終えたみどり先生が階段を下りていく、ふと下の階に葵と紫先生がいるのを発見した。

 さすがに普通ではないと、階段の手すりの壁に身を隠したみどり先生はコッソリと覗き見る。

 声は聞こえないが腰を折った紫先生が葵の腕を持って倒れないようにしているのが見えた。

 葵は笑顔で何かを語っている。

 その瞬間、みどり先生の中で嫉妬と裏切られた想いがごちゃ混ぜになり泣きそうになる。

 どうして? 昼は普通だったし、職員室でも紫先生は隠し事をしているような雰囲気は無かった。

 顔を落としたみどり先生はその場をそっと離れると、建物の反対側にある階段へと逃げるようにトボトボと歩き始めた。

 それからの授業や職員室でのみどり先生は暗かった。

 口の端から出る低い声で教科書の内容を語るみどり先生に生徒は恐怖し、職員室では無言を貫いていた。

 こんな時にかぎって紫先生は忙しく、席を空けていることが多い。

 本人に直接問いただしたかったが、なかなかチャンスが訪れない事にみどり先生はイライラしていた。


 やがて放課後になると抜け殻のようになったみどり先生は、地底探検部の部室へフラフラと向かった。

 夏野 空(なつのそら)倉井 最中(くらいもなか)冬草 雪(ふゆくさゆき)の部員たちと生徒会長の秋風 紅葉(あきかぜもみじ)が部室にはすでにいた。

 彼女たちは楽しそうにお茶を飲みながらキャピキャピと話している。

 なんかもうどうでもいいと近くにあるパイプイスに腰を落とすと、みどり先生はグッタリと机に身を預けた。

「だ、大丈夫ですか!? みどり先生!」

 驚いた夏野が声をかけるが、う~ん、う~んと(うな)り声がみどり先生の口から()れる。

 心配した部員たちが次々に声をかけるが、その都度、う~んと答えるみどり先生。

 と、そこへ葵と紫先生が部室に入って来た。

「みどり、もう来てたのね!」

 嬉しそうに近づく紫先生。

 するとガバッ! と立ち上がり目に涙をためたみどり先生が詰め寄る。

「どうして葵さんと一緒にいるわけ!? 私見たの!」

「えっ?」

 突然の事に理解できない紫先生は戸惑う。みどり先生はさらに畳みかける。

「見たんだから! 葵さんと楽しそうに話しているのを! しかも1度どころか何回も! どういうことなの!?」

 もはや涙を流しながらみどり先生が訴える。

 状況を理解した紫先生は、プッと吹き出し笑い始めた。その姿に唖然となるみどり先生。


 紫先生の笑い声を聞きながら秋風が冬草にこっそり聞いてくる。

「先生たち何をしてるの?」

「あー、みどり先生と紫先生は付き合ってんだよ。何があったが知らねぇけどケンカっぽいな」

「へ~意外! 全然知らなかった」

「いっとくけど秘密だからな? 言うなよ?」

「うん、わかった。なんか私達みたいね」

 冬草の腕に抱きついた秋風が嬉しそうに言う。腕に押し付けられる柔らかい胸の感触に頬を染めたまま冬草は固まった。


 紫先生は戸惑うみどり先生の両肩をつかむと笑顔を向けるが、みどり先生は泣きながら怒っている。

「あ~面白かった。みどりって意外と独占欲が強いのね」

「そんなのいいじゃない!」

「ごめんなさい、みどり。誤解だから。私は葵さんに話を聞いてただけなの」

「どういうことなの!?」

 紫先生越しに葵をギロリと眼鏡を通して睨むみどり先生。

 フッと笑ってカッコつけた葵が口を開いた。

「わたしから説明しよう。紫ちゃんはミドリちゃんの事を知りたがっててね。特に部活でのことを聞きたそうだったから、あれやこれやとミドリちゃんの面白エピソードを話したわけだ。おかげで爆笑を勝ち得たよ」

「はぇ!?」

 もはや涙が切れたみどり先生が驚くと紫先生が微笑む。

「だって、私の知らないみどりのことが気になって。おかげでいろいろな面が知れて良かった。隠していたわけじゃないけど、みどりの前では聞きづらいでしょ?」

 とんだ勘違いにみどり先生の顔が赤くなった。むしろ信頼するべき恋人を疑ってたことに申し訳なくなる。

 あのとき階段で見たのはお腹を抱えて笑っている姿だったのだ。

 しかも部活での話ということは……だんだんと恥ずかしさがこみあげてくる。

 自分のドジ話を聞かされたかと思うとみどり先生はさらに赤くなった。

 そんなみどり先生の肩を引き寄せ抱きしめる紫先生。

「誤解させてごめんなさい。でも、それだけ私のことを愛してくれてるのがわかって嬉しい」

「い、いいいいえ。私こそごめんなさい。独りよがりだった……」

 恥ずかしそうに紫先生の首元に顔をうずめるみどり先生。

 紫先生はギュッと抱きしめ笑う。葵は満足そうな表情で親指を上げた。


 なにこれ?

 目の前で繰り広げられるメロドラマに、夏野と倉井はポカンと口を開けて見ていた。


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