76話 学校だよ!
休みも終わり、雪がいまだ多く残る市立深原高等学校。
生徒会室では新年度の準備が始まっていた。
生徒会長の秋風 紅葉が上座の机で書類に目を通している。副会長の山口 拓は秋風の斜め向かいの机で書記の女子とイスを並べていた。その反対側には風紀委員長の氷河 岬と会計の男子がいる。
機嫌のよさそうな秋風は鼻歌交じりに整理していて、その姿を見て山口は冬休みの間に会長に何かあったなと悟った。
美人だが我の強い秋風は、今まで好きな人に一方的に言い募っては玉砕していたからだ。それを知っていた山口は、上手くいく相手が世の中にはいるもんだなと妙に感心していた。
しかも、早く仕事を終わらせるようにせかせかと動く秋風に生徒会の面々は不思議な面持ちでいた。
放課後の地底探検部の部室には葵 月夜を始め、夏野 空、冬草 雪、倉井 最中の部員たちが揃ってカーボンヒーターの前にいた。
暖かいこの場所から離れがたい部員たち。葵はその場で話し始める。
「こうして新しい年になったので、部として目標を決めたいと思うがどうだろうか?」
「いいと思いまーす!」
真っ先に夏野が賛同し、冬草と倉井は頷いた。
そんな部員たちを見て満足そうに笑顔になった葵が続ける。
「よし。では何か希望はあるかな? ちなみにわたしは東京か大阪に遠征したいと思う。空君には申し訳ないが山口県の秋芳洞はどう考えても難しい」
「あっ、大丈夫です! あれは言ってみただけですから! 月夜部長たちと行けるならどこでもいいです!」
慌てた夏野がフォローする。しかし、以前に軽く言ってみたことをずっと憶えてくれた葵に夏野は嬉しくなっていた。
そこに冬草が口を挟む。
「あたいは行ったことがない大阪がいい。東京は知ってるし」
「なるほど。むしろ東京に詳しい雪に案内してもらう方が楽できるのだが?」
「絶対にイヤだね! メンドーだし!」
提案に拒否する冬草を葵は苦笑いで応える。
「最中君はどうかな?」
「わたしは…海さんが一緒ならどこでもいいです」
「……」
遊園地の時もそうだったが、なぜ妹が第一なんだと葵は疑問に思う。すっかり2人は親友ということなんだろう…そう葵は結論づけていた。
そこに顧問の岡山みどり先生が部室に入ってきた。
「暖か~い。やっぱり外は寒いねー」
「ミドリちゃん! 今年の目標はあるのかな?」
「んん? そうね…紫先生と一緒に住むことかなー」
「いや、そっちじゃなくて。部としてなんだが……」
照れもせず、サラッと同棲したい願望を生徒に告げるみどり先生に葵は顔をしかめる。
「あははは! やだっ! そっちね! 部としては存続のために新学期で来る1年生を何人か欲しいところね」
「それは切実な願いだが、身近な目標すぎる!」
笑って誤魔化すみどり先生。つい本音が出てしまって、岩手 紫先生がこの場にいなくて良かったと胸をなで下ろしていた。
まだ外は寒い冬なのに、この人は春真っ盛りだ。部員たちは羨ましいとも嫉妬ともとれる眼差しでみどり先生を見ていた。
そんな視線も気にせず折り畳みパイプのイスを持ってきて、葵たちの隣に座るみどり先生。
「それで目標は決まったの?」
「うむ。部員たちに異論なければ大阪になりそうだよ」
「そう! 楽しみ~! 串カツとかたこ焼きとか食いだおれしそうね!」
もはや部のなんたるかを忘れて食に走るみどり先生。呆れた葵がツッコミを入れる。
「ミドリちゃん…一応、部活で行くんだからね? 梅田地下街を探索するんだからね?」
「わかってるって! 葵さんて心配性なんだから。ホント楽しみ~」
嬉しそうなみどり先生に、もはや何を言っても無理そうだ。葵は他の部員に振ることにした。
「皆も異論はないかな?」
「はい! それでいきましょう! 大阪に決定っ!」
元気よく夏野が結論を下す。冬草と倉井はコクコクと頷いていた。
相変わらず強引だなと葵はニコニコしている夏野を見て思った。
と、部室のドアが開かれ、秋風が颯爽と入って来た。
「こんにちは皆さん」
「「紅葉!?」」
ニコリと挨拶する秋風に葵と冬草が同時に驚く。
「何しに来たんだい?」
葵の質問を無視して余っているパイプイスを手に取ると冬草の隣に置いて座る。
「お、おい!?」
慌てる冬草の腕に秋風が抱きつくと、あっけにとられている部員たちに言い放った。
「私達付き合ってるから。よろしくね」
「あ、はい」
思わず返事をする葵。腕を抱かれて冬草は真っ赤になっている。
なにもこんな堂々と宣言しなくてもいいのに…しかも胸が押し付けられて柔らかい感じが気持ちいい……。冬草はめちゃくちゃ恥ずかしくて視線をさまよわせている。
「えっと、おめでとうございます」
やっと事情が飲み込めた夏野が祝いの言葉を口にし、なぜか倉井はパチパチと拍手を送っている。
照れた秋風が真っ赤になっている冬草に笑顔を向けた。
「嬉しい。皆さんいい人ね」
「何もこんな時に宣言しなくてもいいのに……」
「それじゃあダメでしょ? ちゃんと部員のみなさんに言わないと私が遊びにこれないじゃない」
「まあ、そうだけど」
秋風と冬草がイチャイチャとしはじめて、他の部員たちは置いてけぼりだ。
そこにみどり先生が聞いてきた。
「生徒会はどうしたの秋風さん?」
「ちゃんと必要分は終わらせてますからご安心を」
「そう。あまりみんなの前で親密な行為は控えてね?」
「はい」
元気に返事をする秋風に対し、部員の全員は自分の事を棚に上げているみどり先生を半目で見ている。皆は心の中で、お前もだろー! と叫んでいた。
真面目な顔で秋風が冬草に注意する。
「周りの目があるからキスは控えないとね?」
「いや、しねーし。紅葉はどこでもする気満々なのかよ……」
突然何を言い出すのかと冬草が呆れると秋風が目を丸くする。
「えっ? ダメなの?」
「だっダメだろ! そういうのは2人きりのときにするもんだろ?」
「わかった。それじゃあトイレに行かない?」
「行かねーよ! それだよ、それ! そういうのがダメって言ってんじゃん!」
「ホント雪って恥ずかしがりなんだから。自分だってしたいくせに」
「……」
真っ赤になった冬草が押し黙る。ニコリとした秋風が抱きつく腕をさらにギュッとしていた。
こういうことを先ほど言ってたんだけどな。と、みどり先生は2人を見てため息をついていた。
その横で葵と夏野、倉井はタブレットを取り出し、予行練習の名目でネットで梅田地下街のバーチャル体験をワイワイと始めていた。
久しぶりに見る地下街はテナントが少し変わったようで、夏野と倉井は新しい発見をすると声を上げて喜ぶ。
葵はチラリと秋風を見て、大阪に行くことになったら間違いなく彼女はついてきそうだなと面倒くさそうに考えていた。




