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78話 見舞いよ!

 喫茶店のバイトが終わり、家路につく葵 月夜(あおいつきよ)

 マスターの都合で通常よりも早く店を閉めたため、まだ夕日が出ていて白い雪をオレンジに染めていた。

 葵は早く帰って温かい風呂に身を沈めたいと頭に浮かべながら雪道を進んでいた。

 帰り道、葵の母が自宅で行っている子供相手の空手道場に通う小学生の山森 里(やまもりさと)が、川のそばでウロウロしているのを見つけた。

 何事かと葵が近づくのに気がつくと、結んだおさげを揺らして駆けてきた。

「月姉ちゃーーん! いいところに会ったよ!」

「どうしたんだい里ちゃん? 今日は道場はないだろ?」

「ちがうよーお使いのとちゅうだったんだよ」

 そう言うと葵の手を引いて川岸まで連れてくる。

「ママからたのまれてソースとしょうゆを買ってきたの。でもね、とちゅうでころんで川に落としちゃったの」

 説明しながら里が差す指先に、幅8メートルはある川の中腹で水面から出ている岩にビニール袋が引っかかっているのが見えた。

「里、泳げないからお願い! 月姉ちゃんとってきて!」

「むぅ、なんとも冷たそうだ」

 両手を合わせてお願いする里に川を見た月夜が身震いする。川は幅広だが底は浅そうだ。岩の上には雪が残っていて冷たさを演出していた。

 やれやれと月夜がカバンを置くと靴と黒タイツを脱ぎ始め、タイツを靴の上に載せるとジャブジャブと川に入っていく。

「ヒッ! つ、冷たいが我慢だーーー!」

 痛いほど冷たい水に気合いで声を上げる葵。それを近くで見ていた里は両手で自分を抱き、震えて寒さに共感していた。

「ぬぅーー! これはキツイ!」

 そう言いながらもビニール袋の元まで来た。幸い、水深はひざ上ほどなので足が刺すように痛い以外は大丈夫だ。

 体の芯を貫くような冷たさに耐えながら、ソースと醤油の入ったビニール袋を手に取り持ち上げると岸にいる里に見せる。

「ありがとー月姉ちゃん!」

 里が口に手をかざしてお礼を言う。ニヤリとした月夜は格好つけようとジャンプして、その場ですっころんだ!

 ドバシャ~ン!

 派手な音を立てて川に全身で落ちる月夜。あちゃ~と里は手で目を覆った。

「ヒャアアアアアーーーーアッ!!」

 次の瞬間叫び声を上げた月夜が川から身を起こすと岸までダッシュしてきた。


 ポタポタと水をたらしながら葵は里に水を抜き、ソースと醤油についた水を切って再度入れたビニール袋を渡す。

「どうぞ、お嬢さん。フッ、お礼はいいからっハクショイ!」

 震えながら盛大にくしゃみをする月夜に里は笑う。

「アハハ! ありがとう月姉ちゃん! だいじょうぶ?」

「うむ。すこぶる寒いが大丈夫だ。心配はいらないよ」

 笑顔で里と別れ、タイツと靴を履きカバンからハンカチを出してふきながら家を目指してダッシュで帰って行った。

 乾いたタイツは暖かい…少なくとも一番冷えた足が守られているのが唯一助かったと葵は思っていた。

 ──翌日、葵月夜は風邪を引いて熱を出し学校を欠席した。


「お姉ちゃん大丈夫? 今日は大人しく寝てなよ、いい?」

「ううっ、(うみ)が優しくてお姉ちゃんは嬉しいよ!」

「バカ! 心配なんかしてないから!」

 朝、おかゆを下げに来た妹の海に感動する姉の月夜。照れた海は姉の布団を整えてから静かに部屋を出て行った。

 昨日は帰ってすぐに熱い風呂に入ったのにと月夜は自分の不運ぷりにガッカリしていた。それでも薬を飲んで効いてきた感じがしていた。

 熱っぽい吐く息に震える身体。布団にくるまると月夜は部の皆はどうしているかなと思いながら目を閉じた。


 数時間たったのか、回りのザワついた雰囲気にふと月夜は目を覚ました。寝てる間に汗をかいたのか下着などが濡れているのを感じ不快だ。

「あ! 月夜部長起きましたか! ずいぶん心配したんですよ!」

 いの一番に夏野 空(なつのそら)の顔が月夜の視界に飛び込んできた。

「大丈夫ですか?」

「まさかホントに風邪とは思わなかったよ」

 倉井 最中(くらいもなか)冬草 雪(ふゆくさゆき)もいた。

 月夜はむくりと体を起こす。

「心配かけてすまない。もう大丈夫だから」

「ダメです! 寝ててください!」

 慌てた夏野が掛け布団ごと月夜を倒した。しかたないと寝ながら月夜は話す。

「いや、汗をいっぱいかいたから着替えたいと思ってね?」

「わかりました。最中ちゃん、タオルをお願い! わたしは着替えを! 雪先輩は目を閉じて座ってて!」

「はいっ!」

「はぁ? なんでだよ!?」

 倉井が元気に返事をして部屋を出ていき、意味が分からんと冬草は目を閉じた。

「月夜部長、着替えはどこですか?」

「うむ。下着はタンスの1番上の引き出しだよ。着替えのパーカーなどは押し入れの中だ」

「わかりました」

 必要なことを聞いた夏野は壁側にあるローチェストに向かい、引き出しを開ける。

 そこには言われた通り下着が整然とたたまれていた。

 あれ!? これってお宝の山……目の前にある下着に心を奪われ夏野は釘付けになる。

 ブラが大っきい…何カップだろ? 1つを手に取り広げる。黒のレース柄でセクシーだ。それを頭に乗せると興奮してパンツをあさり始める夏野。もはや本来の目的を忘れていた。


 いつまで目を閉じてるんだと、思ったより待つ時間が長くてしびれを切らした冬草が薄目を開ける。

 ローチェストの前にいる夏野の頭にブラが乗り、下着を物色しているのが見えた。

 ブーッと吹くと慌てて夏野の元へと行く。幸い寝ている月夜は気がついていないようだ。

 ピンク色のヒラヒラ付きパンツを手に取った夏野は、広げて形を確認すると匂いを嗅ごうと近づける。

 と、腕を冬草につかまれ、耳元で(ささや)かれる。

「お前、何してんだよ!?」

「ハッ!?」

 正気に戻った夏野はパンツを握りしめるとエヘヘと笑って誤魔化す。

「いくら好きでも、それはダメだろ?」

「ち、違うの! ついフラフラと、あまりに魅力的すぎて……」

 アタフタと小声で言い訳する夏野。はぁとため息をついた冬草。

「いいから空は向こうで正座して後ろ向いて目を閉じてろ。あたいが代わりにやるから」

「……うぐぐ」

 ガッカリとうなだれた夏野が、トボトボとローチェストから離れると寝ている月夜に背を向け正座し、目を閉じた。

 その様子を確認した冬草は適当に下着を選ぶと押し入れに向かい、服を取る。

 ちょうどそこへ倉井がタオルを持って部屋に入って来た。

「持ってきました!」

「よし! 月夜を起こそう。手伝ってくれ!」

「はい!」

 先ほどまでは夏野が指示を出していたはずなのに、今は後ろ向きで正座して目を閉じてる。しかも頭にはブラが乗っている。

 倉井は何があったのかと不思議に思いながらも冬草を手伝った。


「すまないな、雪に最中君」

「いいから脱げよ、汗をふけないだろ」

 ゴソゴソと服を脱ぐ音がする……目をつぶっている夏野は耳に全力を集中していた。

「うむ~、何か恥ずかしいんだが?」

「いいから手を上げろよ。よし、胸とか下は自分でふけよ。最中は大丈夫か?」

「はい。背中は綺麗になりましたよ」

 聞こえる会話に悶々とする夏野。月夜部長の裸体が見たい! というかガン見したい! 欲望が渦を巻く。だが、目を開ければ冬草に怒られそうで怖い。

 夏野は欲望と恐怖の間で彼女たちの会話を聞きながら揺れていた。

 想像の中で一糸まとわぬ月夜部長がいる。

 夏野を誘惑するように両手で大きな胸を隠しウインクする月夜部長……もうダメっ!

 クワッと両目を大きく開けて振り返り月夜たちを見る!


 そこには着替え終わって再び布団に寝ている月夜がいた……。

 視線に気がついた冬草がニタリと勝ち誇ったような笑みをくれている。

 遅かった……夏野は誘惑に早く負ければ良かったと、後悔して頭を()れ両手をついた。ポロンと頭のブラが畳に落ちる。

 一方、倉井は、なんで空ちゃんは月夜部長のブラを頭にかぶってるの? と言い出せずいた。


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