69話 告白よ!
秋風 紅葉の部屋でゲームを楽しむ冬草 雪。
最近、すっかり秋風の自宅へ遊びに行くことが多くなった冬草。秋風が誘っていることもあるが、同じような趣味で話しが合い、格闘ゲームも遊べるのでつい行ってしまう。
この日も冬草がゲームをしていると、秋風がおやつを持って部屋に戻ってきた。
「今日はフェナンシェを作ったよ。雪は好きかな?」
「ありがと。紅葉のお菓子はどれも美味いから好きだな」
「ふふっ、そう」
嬉しそうにローテーブルに並べる秋風。格闘ゲームの対戦に負けた冬草がちょうどいいとテーブルに向かう。
最初の頃よりもドキドキはおさまっているが、やはり2人きりだと緊張が残る。冬草はにやけ顔をしないよう気をつけていた。
秋風の隣に座ると冬草は前から思っていた疑問をぶつけてみた。
「そういえば、両親とは一度も会ったことないけど、2人とも忙しいのか?」
「言ってなかったっけ? 母だけなの。でも、忙しいのは本当ね」
「マジかよ! ウチも同じだよ!」
まさかの同じ境遇に冬草は驚き、そして同じ悩みをかかえているのかと思うと嬉しくなる。
だが、秋風は残念そうに冬草を見た。
「ん~。雪の所とは事情が違うと思うよ? 父は私が小5のときに事故で亡くなったし」
「……そうか、そうだよな! ゴメン、変なこと言って」
とんだぬか喜びに慌てて謝る冬草。よく考えれば当たり前だ。皆、同じような家庭の問題を抱えているわけではないから。
何かあるなと察した秋風はジッと冬草の目をのぞき込む。
秋風と2人のときはマスクをはずしているので、冬草は裸を見られているような感覚になり、恥ずかしくてつい目をそらす。
ふぅと息を出した秋風はそのまま語り始めた。
「私、父が亡くなったときすごく荒れたの。とっても大好きだったから。ずっと小学校では生徒会長をやってて、6年でも同じ。でも、それまでと違って他の人を拒絶して自分の中に引きこもってた。表面上はいい顔してたけど、中学に入るまではずっと外に出ずにゲームばかりしてた。中学に進級する時にこっちに引っ越してきて私は変わったの、月夜と出会ったから」
「月夜と?」
いつもはっきりしていて実直な印象を持っていた冬草は、秋風の意外な一面に驚いていた。
やっと目を合わせてくれた冬草に秋風は微笑む。
「そう。今はずいぶんギャルになったけど、前は違ったの。あいつあれでも中学時代は3年間ずっと生徒会長だったの。私は副会長。私よりも成績は優秀で運動も上、おまけに演説も上手だった。不思議と彼女は私につきまとって遊びに誘ったり、強引にどこかへ連れて行かれたりもした。最初は鬱陶しかったけど、そのうちだんだんと楽しくなってきて……いつしか父への悲しみも薄れてきたことに気がついたの。そのときには周りへの接し方もずいぶんと良くなって友達も増えた。それからは、私の目標は月夜になったの。けど、今のアレ見た?」
「お、おう」
淡々と説明していた秋風の態度が急に変わり、ビビる冬草。
「無茶苦茶じゃない!? 校則は守らないわ、授業もサボるわ……呆れるよ! おまけに変な部を作ってるし! おかげで目標がなくなったじゃない!」
「あはははは! 笑える! でも、強引なところは同じだよ。あたいも無理矢理、部活に入らされたもん」
「やっぱり!」
笑う冬草の言葉に納得する秋風。
見かけは変わってもやっていることが同じな葵 月夜に2人は顔を合わせて笑う。
お茶を飲んで一服した秋風は、そっと冬草の手を握る。
ドキリとした冬草に秋風が静かに聞いた。
「次は雪の番」
「えっ……」
戸惑う冬草の手をギュッと握る秋風。実はドキドキしてそれどころじゃない冬草は、手汗を気にしていた。
「つ、月夜から聞いてないのか?」
「聞いてないし、ちゃんと話して。雪の事、知りたいから」
秋風の目に浮かぶ真剣な眼差しに冬草は観念して視線を落とし話し始めた。どちらにしろ、秋風には知られる予感がしていた。
「……わかったよ。あたいのマ、母さんは早くにあたいを生んでずっとパートとか仕事しててさ、それでクソ親父はパチンコやらギャンブルやってて、いつもいないくせに金が無くなると母さんにせびりに来てた。断ると殴ってくる最低なヤツさ。あたいは母さんを守りたいけど、やり方がわからないからグレたんだ。イキがってたら相手もビビると思ってさ。でもさ、ヤツの方が強いからいつもボコボコに負けてた。そのたびに母さんが涙して謝ってきて、それがすごく悔しかったんだ。で、とうとうヤツをボコボコにしたときは気持ちよかったね。したら、アイツ、殺すとか言いはじめてんの。笑えるよね。でも、母さんが怖くなって、このままだと2人ともダメになるって言うから、ヤツが追って来られないような場所に引っ越したんだ」
月夜に話したときよりも詳しく聞かせた冬草は、恥ずかしさよりも、秋風に嫌われないかが気になっていた。
相手の反応が気になって目を上げると、涙をためた秋風がそこにいた。
握っていた手を離し、冬草を抱きしめる秋風。
「……雪は強いね」
「いや、えっと!?」
囁く秋風。柔らかく温かい感触とふわっとするいい匂いに冬草はガチガチに固まってしまう。
体を離した秋風は冬草の顔の両側を両手で包み微笑む。冬草は身動き出来ず固まったままだ。
「私、雪が好き」
「で…でも紅葉は最中が好きなんだろ? あたいじゃないじゃん?」
前に自分が勝手に予想して、ずっと気にしていた倉井 最中の事を冬草が聞く。
「バカね。倉井さんは天使なの。天使は愛でる物なのよ。わかる?」
「いや、サッパリわかんねぇ……」
「はっきり言えば、妖精とかと同じレベルの“可愛いから好き”なんだ倉井さんは。わかる? でも、あなたは違う。こんなに綺麗な顔で…とってもステキな唇をしてる。それに雪の全部が好きなの。わかった?」
言いながら秋風が冬草の顔をなで、震える指先でそっと唇をなぞる。心臓が爆発しそうで、頭から湯気が出るくらい真っ赤になる冬草。
もはや頭が真っ白で何も考えつかない……意識を失いそうだ。そんな冬草の顔から手を離した秋風は、再び両手を握る。
「今は返事はしなくていいから。私が好きなのはちゃんと憶えておいて」
「……おう」
辛うじて返事をした冬草。
それから秋風が話題を変え、冬草に何かを話していたようだがまったく頭に入ってこない。手作りフィナンシェも食べたが、味もわからず、いつ食べ終えたかもわからなくなる冬草。
ぎこちなく立ち上がると今日は帰ると秋風に告げてフラフラと玄関へ向かう。
急に様子が変わった冬草を心配した秋風が送ろうかと勧めたが、かたくなに大丈夫と言い張って帰って行った。
本当に大丈夫かな? ギクシャク動く冬草の背中に目を向けながら秋風は思った。
冬草の姿が見えなくなるまで見送った後、足早に自分の部屋へ戻るとベッドにダイブして抱き枕に顔をうずめる。
「ひゃぁあああああ~~」
告白した恥ずかしさと、あの唇にふれた嬉しさで、秋風は足をばたつかせ変な叫びを上げていた。
──ふと気がつくと冬草は自宅の洗面台にある大きな鏡の前に立っていた。
どうやって帰って来たのかまるで覚えていない。覚えているのは秋風の言葉と両手を添えられた頬の感触。もうずっと耳と頬ににこびりついて離れない。
鏡に映る自分の顔をただボーっと見つめていた。
「雪ちゃん? どうしたの変よ? 帰ってきても何も言わないし」
心配した母が娘の後ろから恐る恐る聞いてきた。
ハッと覚醒した冬草は、鏡に映る母の姿を見つけてどう説明したらいいのか混乱した。
すると泣きそうな母が背中から優しく抱きしめてきた。
「ひょっとしていじめられたの? 誰かに何かされた!?」
「ち、ちがうよ! ママは勘違いしてるよ! そうじゃないって!」
「……じゃあ何?」
母の問いに頬を染める冬草。秋風の言葉が頭の中でこだまする──
「す、好きって言われた……」
「はい!?」
「だ、だから! 好きって言われたの! か、顔が綺麗って言われて……」
真っ赤になって告げた娘に母は理解した。この子、告白されたの初めてなんだ、と。
次第に母の顔が喜びに溢れてきて、さらにギュッと抱きしめる。
「本当に!? 凄いじゃない! どんな人? 返事はしたの?」
「い、いや、返事はまだだけど……」
「駄目じゃない! その子は勇気を振り絞って告白したのに! 雪ちゃんて奥手なんだから!」
「だ、だって…」
「待って雪ちゃん。こんなところじゃなくて、ちゃんと聞くから。リビングに行きましょ」
抱きしめたまま、嬉しそうな母が冬草を連れていく。
温かいお茶を出してソファーに座った母娘。
根掘り葉掘り聞く母に、ポツポツと恥ずかしそうに話す娘。
聞きながら母は思った。ここに引っ越してきて正解だったと。すぐに友達もできたし、今度は恋人も! 間違いなく良い方向へ進んでいる。
娘が照れながら話す様子に母はほっこりしていた。




