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66話 私が作る!

 ガチガチに緊張した冬草 雪(ふゆくさゆき)が黒いダッフルコートのポケットに両手を突っ込んで、開いた鉄製の門の前で立っていた。

 目の前には平屋だが、広く綺麗に整えられた庭を持つ大きな家が堂々と構えている。

 平屋といっても天井は高く、2階建て程はある。庭には池があり、鯉らしき赤と黒のまだら模様な魚の泳ぐ姿が見えていた。

 横にいた桜色のコートを着た秋風 紅葉(あきかぜもみじ)が冬草の背を押す。

「いつまでも突っ立ってたら寒いでしょ? さ、早く!」

「お、おう……」

 冬草は堅い挙動でぎこちなく庭へと足を踏み入れると先を歩く秋風の後を追っていった。

 前日に秋風から遊びに来ないかと連絡があった冬草は、速攻行くと返事をしていた。秋風の誘い文句は自宅でゲームをしないかだったが、冬草はその言葉の裏にもっと違う意味を感じ取っていた。

 シュークリームを食べたあの日から、冬草は秋風に対してとんでもなく意識していたからだ。


 キョロキョロしながら不審な装いで冬草は、秋風がドアを開けて待っている広い玄関に入る。

「どうぞ上がって。それと今は私だけしか家にいないから」

「えっ!? ま、マジかよ……」

 ブーツを脱ぎながら冬草は喉を鳴らした。ただでさえ緊張しているのにこれ以上ってあるのか? ってぐらい緊張していた。

 両手とも汗でぐっしょりだ。葵 月夜(あおいつきよ)の家に行ったときでさえ、こうはならなかった。

 そんな冬草とは反対に平気そうな秋風が廊下を先に歩き、自分の部屋へ案内する。

 ドアを開けた先にあったのは8畳ほどのシンプルな部屋だ。

 カーペットを敷き詰めた部屋の窓際にあるベッドには大きな抱き枕が寝ていて、ローテーブルや白い机に本棚がある。特に目を引くのは壁際に設置された大きな液晶テレビ。60インチぐらいはありそうだ。テレビの乗っているローボードの棚にはゲーム機が整然と並んでいるのが見えた。

 かわいいぬいぐるみやグッズが少しあるが、あまり女子っぽくない雰囲気がしている。

 秋風はネコクッションを持つと冬草に渡す。

「はい。手元が寂しいでしょ? ちょっと待っててね」

「おう……」

 受け取りながら、なんとか声を出すと秋風が部屋を出て行った。

 ヤベー、さっきから一言しか口にしてない……。冬草はクッションを両手で抱きしめるとローテーブルの横にあぐらをかいた。

 さっきからいい匂いがしてるし、なんだか落ち着かない。ソワソワと冬草は部屋を見渡して観察していた。


「お待たせ!」

 紅茶ポットにカップ、美味しそうなケーキを乗せたトレーを持つ秋風が戻ってきて、ローテーブルに置くと冬草の隣に座った。

「おう」

 照れながら冬草がネコクッションで顔を隠した。照れすぎてどんな顔をしたらいいのかわからないから。

 自分以上に緊張している冬草を見て秋風は笑う。思ったよりも意識しているかなと、秋風はもう一押しと気を引き締めた。

 そっとネコクッションを降ろして顔を現した冬草に秋風が笑顔を見せる。

「なにを恥ずかしがってるの? あと、私といるときはマスクを(はず)して」

「は、恥ずかくないし……」

 ブチブチと言い訳しながら冬草がマスクを外す。ひさしぶりに冬草のステキな唇を見て、はわわと秋風は心の中で萌えていた。

 なんとか心を落ち着かせると秋風は笑みを送る。

「先にゲームする? それともケーキ?」

「ゲーム!」

 間髪入れず冬草が答える。とてもこんな雰囲気のままではケーキは無理だ。たとえ食べたとしても緊張して味がしなさそうだ。

 クスりと笑った秋風は液晶テレビの前に冬草と一緒に移動した。


 秋風はP○4とハードディスクを起動し液晶テレビをつけ、無線コントローラーを2つ取り出すと1つを冬草に渡す。

「何する? やっぱり格闘系?」

「とりあえずそれで……」

「わかった」

 冬草の隣にちょこんと座った秋風がコントローラーを操作し、ハードディスクからゲームを呼び出す。

 大画面に現れたゲーム一覧に冬草は目を見張った。

 そこには、とても女子とは思えないラインナップがずらりと並んでいたからだ。格闘系はもちろんオープンワールド系シューティングにアクションなど冬草の知らないタイトルが(あふ)れていて驚く。

 秋風はその中から冬草がスマホで遊んでいたス○リートフ○イターを選ぶ。

「驚いたでしょ、かわいいのがなくて。わたし好きなのよね、戦うやつ」

「い、いや、あたいも格闘もの好きだし、銃を撃つのも好きだから全然問題ないよ!」

 秋風の告白に慌てて冬草がフォローする。そんな秋風は冬草に微笑む。

「ありがと。そういってくれると嬉しいな」

「お、おう」

 照れた冬草が視線を外して頬を指でかいた。

 それから2人はス○リートフ○イターで遊び始めた。

 久しぶりの家庭用ゲーム機で遊ぶ冬草は、最初コントローラーに苦戦していたが慣れると楽しくなってくる。

 先ほどまで緊張して固くなっていたのが徐々にくだけてきた。

 さすがに持ち主だけあって秋風は強く、冬草は10回対戦して1回も勝てなかった。

 それでも秋風は冬草に上手と言って褒めていた。

 しばらく楽しく遊んだ後、2人は休憩することにしてローテーブルへ移動した。


 温かい紅茶を飲んでゲーム熱を冷ました冬草はふっと笑む。

「しかし意外だな~、生徒会長はもっと真面目なヤツかと思ったよ」

「真面目だけど?」

 キョトンした秋風に冬草は笑った。

「あはははは、面白い! あたいとつるむなんて真面目じゃないでしょ?」

「そう? 雪は別に不良じゃないでしょ?」

 むすっとした秋風が答える。自分をはぐれ者として見ていない事に冬草は照れた。

 すると秋風は露骨に話題を変えてきた。

「ケーキも食べて?」

「そ、そうだな。…モグモグ、うまい!」

「でしょ? 私が作ったから。愛情が入ってるし」

「凄いな……前のシュークリームも手作りだろ? も、紅葉は何かやってるのか?」

「別に。母の手伝いしてるから。話してなかったけど母はパティシエやってるんだ。それでお店を手伝ってるの」

「へ~。そうなのか」

 冬草は納得してケーキの残りを食べた。どうりで店で出るような……ここで冬草はハッとした。“愛情が入ってる”とか言ってなかったか? 確認しようと冬草が口を開くより先に秋風が聞いてくる。

「雪は何か料理とかしないの?」

「あたいはからっきしだよ。よくフライパンを焦がしてマ、母さんに怒られてた」

「うふふふふ。お母さんも大変でしょ、お弁当作ったりとか」

「いや、お弁当は月夜(つきよ)に作ってもらってるから母さんは楽してるけど」

「ちょっと! 月夜がお弁当を作ってるの!?」

「そ、そうだけど……」

 突然急変した秋風の態度に冬草はびびる。それまでの(なご)やかな雰囲気が台無しだ。


 なんでこんなところに葵 月夜(あおいつきよ)が出てくるんだと、ライバル視している名前が出て秋風は憤慨した。

 眉を寄せた秋風がタジタジになっている冬草に迫る。

「どうして?」

「だ、だって、母さんは忙しいし、あたいも料理できないから……」

「わかった。これからは私が作るから」

「え!?」

「いいから。スマホ出して」

「あ、はい」

 言われたまま冬草がポケットからスマホを取り出すと秋風が奪って突きつける。

「今から月夜に電話して、お弁当を作るのを断って」

「え…」

「早く!」

 戸惑う冬草に憤慨している秋風が追い立てる。しぶしぶ冬草は葵に電話した。

 4コール目に葵は出た。

『どうしたんだい雪。ヒマすぎて遊んで欲しいのかな?』

「いや、違うんだけど。その…えっと…つまりだな……」

『んん? どうしたんだい?』

 言いあぐねている冬草にイライラした秋風がスマホを取り上げる。

「あーもう! 私、秋風だけど!」

『あれ、紅葉!? 雪と一緒にいるのかい?』

「そんなことはいいの! 明日から雪のお弁当はいらないから! これからは私が作るから!」

『と、突然どうした!?』

「いままでありがとう月夜。でも大丈夫、これからは私が雪の面倒みるから。じゃあね!」

『ちょっともみ』

 ブチッ。

 途中で通話を切った秋風が、満足そうな顔で冬草にスマホを返す。冬草はそんな秋風をポカンと見ていた。

「これでよし! 明日から私が雪のお弁当作るから。いい?」

「おう……」

 晴れやかな顔で告げる秋風に、ついていけない冬草はぼんやりと(うなず)いた。


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