65話 寒いっ!
地底探検部の部室には葵 月夜をはじめ、冬草 雪、夏野 空、倉井 最中の部員たちが集まっていた。
部活動をしようとしたが、寒さでままならない。
このままでは確実に凍え死ぬと感じた葵は、イスに座ると倉井に手招きした。
「さ! 最中君ここへ!」
そう言うと自分の太ももをパンパン叩いて笑顔でアピールする。
渋い顔をした倉井はチラリと夏野を見る。ムスッとした夏野は嫌々頷いた。
仕方なしに葵の膝の上にチョコンと座る倉井。浅く腰掛けて、なるべく葵に寄りかからないようにしている。
「もっとくっつかないと意味がないぞ。さ、最中君!」
葵が倉井のお腹に手を回して引き寄せる。ぽむっと首元に葵の胸が当たり、倉井は収まりよく密着した。
あれ? 思ったより柔らかくて暖かい…なんとなく居心地がよくなる倉井。
「次は空君! 君はわたしの左腕にくっついてくれ! 雪は奥の棚から毛布を3枚を出して、わたしの右腕にくっついてかけてくれ!」
葵が指示を出すと夏野が待ってましたと言わんばかりに、イスを寄せて左腕に抱き着く。
やれやれと冬草は部室の奥に面倒そうに向かい、カラーボックスからきちんと折りたためられている毛布を見つけると葵の元に戻った。
夏野と倉井にそれぞれ毛布をかけ、自身もくるまると葵の右側に座り身を寄せる。
「どうだい? これだと暖かいだろ?」
自信満々な葵が言うと夏野が難しい顔をしてくる。
「月夜先輩! これだとまだ寒いです! 腕をわたしの肩に回してください!」
そう言うと腕を首にまわし、夏野が葵に抱き着いてきた。
夏野の頭が葵の首筋に当たって、髪がこちょばゆい。それにシャンプーのいい匂いがしてくる。
予想外にしっかり密着してくる夏野に恥ずかしくなってくる葵。めっちゃ胸を押し付けられている感触がしてくる。
倉井に同じことをしているのに、空君はちょっと近すぎるなと葵は思った。
思いのほか暖かくて冬草は、こりゃいいわとぬくぬくしていた。
4人が合体して暖まっていると部室に岡山 みどり先生と岩手 紫先生が仲睦まじく入って来た。
「ん? あなたたち何してるの?」
毛布から首から上だけを出している葵たちを見てみどり先生が笑う。
「うむ。あまりに寒いからこうして暖をとっているわけだ。おかげで何もできない」
真面目くさく葵が語ると、プッと吹き出す岩手先生。
ツカツカと葵たちに歩み寄り、みどり先生は倉井にかかっていた毛布を取り上げた!
「そんなに密集しているなら1枚はいらないでしょ! 私達が使うから!」
「ひゃ~~! さ、さむっ!」
「うぁあああ! ミドリちゃんは鬼だ!」
倉井と葵が叫び、さらに密着しはじめた。慌てた夏野と冬草が自分の毛布を葵たちにかける。
みどり先生たちは葵らの少し離れた横にイスを移動して座り、お茶を用意すると互いを包むように1枚の毛布をかける。
ふぅと息を出したみどり先生が岩手先生に微笑む。
「これで落ち着いたね、紫」
「そうね。でも、いいの?」
「いや、よくない! わたしたちの貴重な毛布を取り上げていいのか!?」
「いいの。子供は風の子っていうし。あの子たちも平気だから」
「ならいいか。もっとくっついてよ、みどり。寒いでしょ?」
「うん」
「いいから聞いてくれ! わたしの魂の叫びを!」
みどり先生たちの会話に割って入るが無視される葵。ぬぐぐぐと唇を噛みしめる。
「いいからほっとけよ。すでに自分達の世界にいるぞ?」
呆れた冬草が指摘し、唇を噛んだままの葵が手を回している夏野と冬草を寒さをまぎらわすようにギュッと自身に押しつけた。
そんなことにはお構いなしのみどり先生は岩手先生の肩に頭を乗せている。2人は楽しそうに話していた。
「月夜部長どうします?」
「……」
夏野が顔を上げて葵に聞いてきた。
この状態で気がついたが、葵の唇がすぐ目の前だ。事故に見せかけてキスできないかな? 夏野は悶々としていた。
葵は夏野の頭が動く度に首がむずがゆいのを我慢していた。顔をあげたお陰でくすぐったいのが無くなったが、逆に夏野の唇が首にふれている。柔らかい感触と浅く早い鼻息がゾクゾクと葵の背筋を刺激していた。
だんだんと恥ずかしくなってくる葵。頬が赤く染まっているが、皆には見えていないようだ。
夏野は沈黙している葵に再び尋ねた。
「月夜部長?」
「あ、ああ、すまん! なかなか難しい問題で頭を悩ませていたところだ」
「んなわけないだろ……」
思わず冬草がツッコミを入れるが葵は無視して話す。
「わたしは両手がふさがっているし、空君と雪も無理だ。もはや両手の空いている最中君だけだ、頼れるのは!」
「……」
「最中君?」
「……」
返事の無い倉井に葵は困惑する。目の前に最中君の頭があるのに無視するって何? 微動だにしない、おかっぱの後頭部を葵は見つめていた。
すると冬草が動いて倉井の顔を確認し葵に報告する。
「最中は寝てるぞ」
「……なるほど。暖かく、気持ちよくなってしまったのかな? とはいえ、ますます身動きがとれなくなった」
身を預ける倉井の体重を感じながら困る葵。
ギュッと抱きしめる手に力を込めた夏野が提案してくる。
「いっそのこと寝ます?」
「ん~~。そうだな~」
自分がやり始めたとはいえ、どうしょうもない。かといって、この毛布や人の温もりから出ると寒い。
葵が長く考えていると小さな寝息が右側から聞こえてきた。
首を巡らすと冬草が葵の腕に抱きついて寝ていた……。
慌てて左側を見ると夏野もいつの間にか目を閉じ幸せそうに寝ている。
ダメだ! こんなんでは雪山で遭難したら皆死ぬぞ! 葵は心を鬼にして全員を起こそうと思ったが、両手はふさがれ、足も動かせない。
もうムリ……葵は諦めると両目をそっと閉じた。
2人の楽しい時間を過ごしたみどり先生たちが立ち上がる頃、葵たちは完全に眠りに落ちていた。
岩手先生が心配するように彼女たちをのぞき込む。
「暖かそうに寝てる。でも風邪ひかないかな?」
「もう少ししたら起こしましょ」
笑うみどり先生を岩手先生が引き寄せ抱きしめる。そして、顔を近づけ甘い声で岩手先生が囁く。
「もう少しってどのくらい?」
「私達が満足したら、ね」
「それは長そう?」
2人は笑い合うと唇を重ねた。




