63話 革命だ!
寒さが強くなりつつある放課後の深原高等学校、地底探検部。
部室に集まっていた葵 月夜、冬草 雪、夏野 空、倉井 最中の4人は熱いお茶を飲みながら次の探検先を脱線しながら模索していた。
と、部室のドアが豪快にバン! と開いた!
なにごとかと全員が注目していると、春木 桜が黒いケースを手にスタスタと中に入ってくる。
そのまま葵らのいる長机にケースを置くと開いて中の楽器を取り出し掲げる。
「これはピア○カ! またの名を鍵盤ハーモニカ! あたしはこれで天下を取る!」
ジャジャーン! と、現れたのは小学校のとき音楽の授業で使った懐かしのピア○カ。細長い本体にピアノのような鍵盤が並び、ホース状の吹き口がついている。
部員たちが奇異の目を春木に向け、呆れた葵がツッコミを入れようと口を開きかけるが春木が先に続けた。
「言いたい事はわかってる! 吹奏楽部ではピア○カは無いって言いたいんでしょ? そんなことは百も承知なの! あたしは…あたしはこの相棒を使って全国の吹奏楽部に革命を起こす! 新しい時代の幕開けにするんだ!!!」
高らかな春木の宣言に部員たちは、おーーっとどよめいた。
いつもと違う、何かやってくれそうな雰囲気が春木にはあったからだ。
夏野が質問してくる。
「具体的にはどうやるの?」
「さすが空、痛いところ突くね。それはこれから考える。良い案ない?」
春木の返答を聞いていた冬草はずっこけた。おい! あんな啖呵切ったのに他力本願なの!? 冬草は心の中で叫んだ。
すると葵が手を上げ、春木は無言で指差す。
「わたしが思うに、ただ演奏するだけではダメだ。それでは他の楽器の音の強さに負けてしまうだろう。なんてたって1人だけのピア○カは弱い」
「そんなのわかってるよ! だからもっと目立つ要素が欲しいわけ!」
「ふふふ、まあ聞きたまえ。そこでわたしは踊りながら演奏するスタイルを提案したい!」
「ええっ! 踊る!?」
自分の予想外の提案に驚く春木。自信満々の葵はニヤリとする。
「そうだ! 楽隊の最前列で踊りながら演奏すればメチャ目立つこと請け合いだ!」
「それいいかも!」
葵の案に春木が飛びつく。
わ~すごい~と笑顔の夏野と倉井がパチパチと手を叩く。ノリの軽い2人に冬草はついていけないとジト目で見ていた。
それから春木と葵は振り付けを考え始めた。
夏野と倉井も加わって、あれこれと踊りを試している。だが、しょせん踊りの素人。どう見ても盆踊り的な振り付けになっている。
長机の横でイスに座っていた冬草は静観しようと決め、腕を組んだ。こいつらに関わると自分のイメージが壊れると思っていたからだ。
しかし、そんな冬草の思いとは裏腹に笑顔の葵が来る。
「雪~。頼みがあるんだけど?」
「な、なんだよ……」
「ただ踊ってるだけで寂しいんだよ~。そこで雪に歌って欲しいんだよ~」
「やだよ! 恥ずかしいし!」
「そう言わずに! 雪ってば歌が上手いし!」
嫌がる冬草を無理矢理立たせて葵が連れて行く。力では全く歯が立たない冬草は借りてきた猫みたいになっていた。
春木や夏野たちの前に立たされて歌ってくれとせがまれる。持っているケータイで音を鳴らせよ! とは思いつつも冬草は覚悟を決める。
とりあえず知っている東○音頭を冬草が歌うと感心したみんなが拍手を送った。
初めて冬草の歌声を聴いた春木と倉井は、凄く上手とベタ褒めだ。
気を良くした冬草は、自分の知っている祭り関連の歌を披露しはじめる。
葵たちは、それに合わせてオリジナルの振り付けを踊っていった。
早い日が沈む頃、部室の長机には踊り疲れた春木を始め、部員たちがいた。
葵だけはケロリとしてお茶を飲んでいる。空手の稽古を連日しているおかげで体力が有り余っていたからだ。
「思ったより雪が歌を知っているから驚いたよ。まさかあそこでア○パ○マン音頭が出てくるとはね」
「もうネタ切れだし、あたいも疲れたよー」
机の上で突っ伏した冬草が弱々しく答えた。
ハー、ハーと荒い息をつき、ぐったりした春木はイスにのけ反って座っている。
夏野は倉井からタオルを借りて汗を拭いていた。
なんとなくやり遂げた雰囲気になって、達成感が皆の間で流れている。
爽やかな汗をぬぐった春木が葵に笑みを送る。そこには、やったよわたし! ありがとうと目が語っていた。
葵は笑顔で頷き返すと、長机の隅にポツンと置いてあるピア○カに気がついた。
サーっと顔が青くなる葵。踊りに夢中になりすぎて、本来主役のはずの楽器のことを忘れていた……。
葵の表情が変わったことに気がついた春木は、その視線を追うと自身で置いたピア○カが目に入る。
「あ!? ピア○カ忘れてた! ダメじゃん! 意味ないじゃん!」
思わず立ち上がり叫ぶ!
ハッと思い出した夏野と倉井は顔を合わせる。そう、彼女たちもすっかり忘れていたのだ。
どうでもいい冬草はグッタリと机につっぷしたままだ。早く帰って風呂に入りたいと目をつぶりながら思っていた。
春木はイスに崩れ落ち、もう~ムリ~と白旗をあげた。さすがに、これから楽器の練習は体力がなさすぎる。
苦笑した葵はピア○カに近づくとそっとケースにしまう……。
こうして吹奏楽部への革命は、楽器に触れることなく始まる前に終わってしまうことになった。
少し前、ドアが開け放たれたままの地底探検部の前を、たまたま通りがかった生徒が何気なしにちらりと中を見て驚愕した。
やたら美声の祭りの音頭に合わせて、奇妙な踊りを一心不乱に繰り広げている一団が見えたからだ。
恐ろしくなった生徒はダッシュでその場から逃げていった。
しばらくして、ある部室では悪魔を呼び出す儀式をしているらしいと学校中で噂になり、また新たに怪談の一つが生まれた。




