62話 お使いだよ!
葵 月夜の自宅──
てきぱきと大きな荷物を運ぶ倉井 最中に葵の母が声をかける。
「手伝ってもらってありがとうね、最中ちゃん。せっかく遊びに来てもらったのに」
「い、いえ……」
照れた倉井が俯く横を小さな箱を両手に持つというより、挟んだ葵月夜が通りすぎる。
「月夜! なにあんたは楽してんの!? もうちょっと最中ちゃんを見習いなさい!」
「お母さま、この荷物は予想以上に重いんだよ。まるで鉛の塊のようだ」
うそぶいて月夜は逃げていく。
後ろ姿を見送った母がため息をついて苦笑いを倉井に向けた。
「ごめんね、あんな娘で。学校でも大変でしょ?」
「いいえ。とても楽しいですよ。海さんもいますし」
ニコニコと倉井が答えると、葵の母はその可愛さに思わず頭をなでる。
「ホント良い子。もう家族にしちゃいたいぐらい!」
頬を染めた倉井がなすがままでいると葵 海が箱を持って出てきた。
「お母さんやめてよ! 最中が迷惑がってるでしょ! もう!」
海が倉井を押して母から離していく。ふふと仲が良い二人を見て母は微笑んだ。
この日、倉井が海と遊ぶ約束をしていたので訪れると、なにやら葵家の女3人が慌ただしくしていた。
なんでも県の学芸員をしている叔父さんに家の倉から一部を届けて欲しいと依頼があり、目録にある物をまとめているところだったのだ。
本家ではないが、この家も相当古いようで鎌倉時代後期頃からの所蔵品が数多くあるようだ。
そんなわけで荷造りが終わった段ボール箱を車のトランクに運ぶのを、倉井は必然的に手伝っていた。
数にして十数点ほどの荷物を積み終え確認すると母がゴツイ4WDのオフロード車に乗り込む。
当然のように助手席に月夜が、後部座席に海とつられて倉井も乗り込んだ。
「じゃあ、行くよ。シートベルトしてね」
そう言い、月夜たちがシートベルトをするのを確認すると葵の母は車を始動し、道路へと走らせていく。
目的のわからない倉井が隣に座る海に聞く。
「海さん、どこに行くの?」
「叔父さんの働いている所。前に行ったイ○ンの近くにあるんだ。だから、わたしたちは便乗するってワケ。遊んで帰れるから」
海は言うとウインクして笑顔をつくる。
あーなるほど! と納得した倉井は笑みを返した。
電車なら2時間はかかるところを車だと30分ほど早く着いた。
そこは県の関連施設のようで、広い駐車場に3階建ての横に長いコンクリート製の建物があった。
葵の母は建物の入り口に近い場所に車を止め、娘たちと倉井に顔を向けた。
「着いたよ。月夜はこれを」
そう言ってメモを月夜に渡す。
「ん?」
受け取りながら月夜が目を通すとそこには買い物リストが羅列されていた。
「イ○ンに行くんでしょ? ついでにお使いしてきて」
目が笑っていない母がニコニコと有無を言わさない迫力で話す。
3人は黙って頷くと静かに車から降りてイ○ンへと向かった。
せっかく倉井と2人きりで遊ぶ予定だったのに、邪魔な姉の存在に海は少しすねていた。
徒歩5分ほどで巨大なモール街をもつイ○ンへと着く。
再び訪れた倉井が、わぁーっと嬉しそうにしているのを見て月夜は疑問を口にする。
「おや? 最中君は初めてではないんだ?」
「はい。前に海さんと一緒に……」
「いーの! お姉ちゃんは黙ってて!」
はにかみながら答える倉井に海が姉に食ってかかる。しかし、気にしない月夜は笑う。
「わははは、なんだか妹が2人に増えたみたいだ。楽しいなぁ」
「……」
すると海と倉井は互いの目を合わせると頬を染めて黙った。
あれれ? なにかマズイこと言った? 月夜は混乱した。誤魔化すように早口で続ける。
「よし! 先に買い物をしよう! えっと、食品はこちらかな? どこかな~~」
月夜が2人の手を引いて無理矢理歩き始めた。
海と倉井は気まずそうに頬を赤くして笑い合う。
広い売り場に棚が無数に並ぶ食料品売り場に着いた3人は、メモを見ながら買い物を開始した。
目的の品物を迷いながらも探しつつ、3人であれこれ言いながら買い物カゴに入れていく。
なんだかんだ仲の良い姉妹に倉井はニコニコと笑みを浮かべていた。
しかし、レジの列に並んだときに新たな問題が発覚した。
青い顔した月夜が妹の海へ告げる。
「財布忘れた……」
「お姉ちゃん!? もー! バカ! いつもそう!」
「違うんだよ海! 荷物を届けたら、そのまま帰ると思うじゃないか? 決してワザとじゃないんだ! ね?」
「前も自分の財布を忘れたじゃん!?」
「そんなこと言わないでおくれよぉ~。次はちゃんとするからさぁ~」
怒った海に言い訳しながら情けない顔で月夜がムギュっと妹を抱きしめる。
「頼むよぅ海~。こんなときは海しかいないんだよぉ~」
「もー! しょうがない! 今回が最後だかんね!」
体を離した海は照れながら言うと自分の財布をいそいそと取り出した。
前にも同じやり取りしてるよね? 倉井は一瞬デジャブかと思ったが、毎度の事なのかなと姉妹を見て吹き出した。
目的の買い物は終わったが予想以上に時間がかかってしまい車に戻ることにした。
せっかくの休日を予定外のことで潰された海は倉井に謝る。
「ごめんね最中、こんなことになって。つまんなかったでしょ?」
「ううん。とっても楽しかった」
「それは何よりだ。ほら海、最中君の笑顔はいいね。海も笑って!」
「うっさい! バカ姉貴!」
倉井の返事に気を良くした月夜が乗ると海が怒る。
ワーワーと言い合いする姉妹に倉井は楽しくなって笑った。
車に戻るとすでに用事を終えた母が待っていて、月夜から買い物袋を受け取った。
膨らんでいる袋から、ちょこんと飛び出ていたポテトチップスのパッケージに母は慌てて中を確認する。
「ちょっと!? なんでお菓子とか増えてるの!? メモには無かったでしょ!?」
「うむ。どうやら最中君が食べたいと目で訴えていたので、わたしはしかたなしに、しょうがなく、涙を呑んでお菓子なんかを加えたわけだ」
月夜の言い訳に母が眉をしかめながら倉井を見る。
恐ろしくなった倉井は、顔を青くして首をブンブンと勢いよく横に振った。もちろん倉井はそんな訴えはしていない。
母は月夜の耳元に顔を寄せると囁く。
「明日の朝、道場に集合!」
ヒッと短い叫びを上げて月夜は頷き、それを見ていた海はクックックと笑いをこらえている。
母親は海と倉井にニッコリと笑みを送って車に乗るよう指示を出した。
黙って月夜たちが乗り込むと再び車が走り出す。
しばらくすると賑やかさが戻り、皆が話し出した。
葵家の日常に触れ、倉井はこんな家族の一員になれたら毎日が楽しいだろうなと微笑んで見ていた。




