61話 差し入れよ!
放課後、生徒会長の秋風 紅葉はお菓子の入って箱を手に地底探検部の部室へと軽い足取りで向かっていた。
この間から胸が落ち着かない理由は、明らかに冬草 雪の魅力的な唇を見てからだった。
今でも思い出すだけでドキドキする。
こんな初めての経験に秋風は自分の気持ちを確かめるためと、天使の倉井 最中に会って癒やされるため、三度部室のドアを開けた。
「生徒会長の秋風よ!」
言いながら中に入るとそこには寒そうにプルプルとスマホに向かって指を動かす冬草が一人、イスに縮こまっている姿があった。
顔を上げた冬草は秋風を見て目をしかめた。
「なんだよ?」
「一人なんだ? ちょっとラッキーかも」
冬草の視線を無視して気を良くした秋風がルンルンと隣に座る。
いきなりの急接近に冬草は慌てた。
「お、おいっ! ちけーよ! なんで真横に座るんだよ!?」
「いいでしょ。寒いし近い方が暖かいし」
うふふと秋風が笑顔を送る。綺麗に整った顔の秋風を見て、調子の狂った冬草はドギマギしながら机に置いてあるスマホに視線を向けた。
前に会った時もそうだが、どうもコイツと一緒だと相手のペースになってしまう。
きっと生徒会長という役職が尻込みさせる一因かと思ったが違うようだ。自分にはわからないが秋風に弱いようだ…冬草は憂鬱そうに思った。
秋風は持ってきた箱をいそいそと開けて中に入っている物を取り出す。
「はい! 差し入れどうぞ!」
両手で差し出されたのはシュークリーム。少し茶色が濃いものの、パウダーシュガーがかかって美味しそうだ。
つい受け取ってしまった冬草はどうしたものかとシュークリームを見て悩む。
「早く食べて」
「……」
頬杖をついた秋風が催促する。
さっきまで寒さに震えてゲームしていたのに、今はなぜか秋風に追い込まれている気がしてきた冬草は、仕方なしにマスクをあご下にずらしてシュークリームを一口食べた。
「!? う…うまい!」
「よかった~! 嬉しい! がんばって作った甲斐があった!」
冬草の感想に秋風は感激してホッとしている。あれ? と思い出した冬草がシュークリームを頬張りながら聞く。
「前に持ってきたクッキーも手作りだったんか?」
「あーあれ? 様子見だったから市販品だったの。ちょっとビニールに包み直したけど」
葵 月夜の予想が当たっていることに冬草は内心驚いていた。す、すげぇ…冬草の中で葵の評価がワンランク上がった。
秋風は答えながらも視線は冬草の唇に釘付けだった。かわいくモグモグしている唇がとっても、とっても、とっても素敵ぃいいいいーーー!!!! 内心、身もだえていた。
平静さを装いながらも冬草の唇を凝視して堪能していた秋風は、ふと机にあるスマホに目がいった。
そこには格闘系のアプリゲームが映し出されている。
「これってスト○ートフ○イターじゃない。好きなの?」
「まあね。強くないけど。秋風は詳しいのか?」
「私、ゲームが好きなの。家にはP○4があるし、FPSとかしてるよ」
「まじで!?」
一番の食いつき具合で冬草が秋風に迫る。意外な共通点に顔をほころばせた秋風が誘う。
「もし、冬草さんがよかったらウチでゲームする?」
「マジで!? いいの!?」
「もちろん!」
嬉しそうな冬草の態度に笑顔の秋風が頷く。
シュークリームを食べ終えた冬草はマスクを元に戻し、それを残念そうに秋風は見ていた。
と、視線を彷徨わせて冬草が照れながらボソッと言った。
「…雪でいいよ。名字の方はなんか照れるし」
「わかった。なら、私は紅葉って呼んでね」
ニコリと秋風が微笑み、自分のスマホを取り出すと二人は連絡先を交換した。
用が済んだとばかり秋風は席を立つ。
「一応、月夜たちの分もシュークリームあるから。気に入ったなら全部食べてもいいよ」
「あいよ」
照れ隠しで、ぶっきらぼうに冬草が答える。
帰り際、秋風は冬草の耳元に口を近づけると囁いた。
「あとで連絡するね、雪」
唇が耳に触れそうなぐらい近い。甘い吐息が耳にかかり冬草は頬を染めて固まってしまう。
秋風は素早く離れると振り返らずに部室を出て行った。
早歩きで秋風はトイレに直行すると、個室の扉を閉めて壁に背を押しつける。
ちょっと攻めすぎたかな? 自然に見えてればいいんだけど……。胸に手を当て激しく鳴り続ける鼓動を秋風は感じていた。
やっぱりこれは気の迷いじゃない。あのスッとした魅力的な唇だけじゃなく、彼女自身も好きなのだ。
ポケットからスマホを取り出し冬草の連絡先をロックし、グループ分けした。もちろん、特別枠に。
スマホ画面に映し出された番号を見ながら、秋風は次に会うための計画を練り始めていた。
遅れて葵と夏野 空、倉井が和気あいあいに地底探検部の部室へ入っていくと冬草が一人、両腕をだらんとたらしてボーッとイスに座っていた。
不思議に思った葵が聞く。
「どうしたんだ雪? 寒くないのかい?」
ハッと気がついた冬草は葵たちを見て顔を真っ赤にする。
「い、いや、熱いね! そうとも熱いんだよあたいは! もう体がチョー熱い!」
ガバッと立ち上がった冬草は、部室の壁側にある1つきりの窓へ行くと開け放った!
途端、ビューーっと冷たい北風が外から中へ流れ込んでくる。
「雪が壊れた!?」
「雪先輩やめてください~!」
驚く葵と慌てた夏野が窓際へとすっ飛んでいき閉める。
冬草は真っ赤になりながらあちー、あちーと叫んで上着のパーカーを脱ぎだし部室の中を回り始めた。
突然の奇行に必死な葵と夏野が止めている。
倉井は机の上に置いてあるシュークリーム入りの箱を発見すると、電気ポットでお茶を作ってモグモグと食べ始めた。
目の前で繰り広げられるドタバタに目を向け、今日の部活は無理かな…そう倉井は結論して、葵の妹の海にメールし始めた。




