60話 鉱山に行こう!
肌に冷たい北風が吹く中、地底探検部の面々は暗くて先の見えない寂れた、細いトンネルの前に並んでいた。
もう何十年も使われていないようで、地面のアスファルトは所々はげて土色を見せている。軽自動車が辛うじて入れるような大きさで、2人並んで歩けるぐらいしか幅がない。
白いもこもこジャケットに短いスカート、黒いタイツをはいた葵 月夜は、ミリタリーコートの夏野 空の後ろに怖々と立っている。
横には黒いダッフルコートに身を包んだ冬草 雪と薄手で紫色のダウンジャケットを着た倉井 最中も並んでいた。
「う~~寒っ!」
冬草が手をすり合わせて寒さをしのいでいる。冷え性な冬草は、こんなことならホッカイロジャケットを下に着てくるべきだったと後悔していた。
夏野の横から、ひょっこり顔を出した葵がトンネルを覗き込む。
トンネルはカーブしているようで、暗闇の先に薄明かりがなんとなく見える。
「うむ……暗いなぁ。やっぱり戻るべきか……どう思う空君?」
「いきましょうよ! このトンネルの先に鉱山があるんですよね。私がいますから!」
「うぅ……。どうしてこんな時にミドリちゃんはこないんだよぉー」
頼りにしていたみどり先生に予定があるからと断られ、恨み節を葵は呟く。
聞こえていた倉井は、ぷっと吹き出し手で口を覆い笑いを隠す。
冬草は、どうせ岩手先生とデートだろと、心の中でツッコミを入れていた。
葵を引っ張りながら夏野がトンネルへと足を踏み込む。
「さ、行きましょう!」
「ひぇえええ……」
及び腰でついていく葵の後ろを笑顔の倉井と冬草がついていく。
暗くてじめじめしているトンネルにビビリつつ、葵は夏野の腰にしがみついている。
またこの体勢……遊園地のお化け屋敷のときと同じだ。抱きつかれると期待していたが、やはりダメだったと夏野はガッカリしていた。
それでも自分のお尻に葵の柔らかい大きな胸が押しつけられている感触を夏野は全神経を集中して興奮していた。
ゆるやかなカーブに沿ってトンネルを進むと、すぐに出口と思われる太陽の明かりが見える。
「月夜部長。ほら! すぐに出口ですよ!」
「おおおぉ! 明かりだ! 助かった……」
急に元気になった葵がスッと立ち上がり先を急ぐ。
「ちょっ! 待って下さいよ~~!」
今度は夏野が腕を引かれて葵に連れて行かれていく。後ろの2人はやっと歩行スピードが上がったと喜んだ。
トンネルを出た一行は枯れた木々に囲まれた山道を感想を言い合いながら進んでいく。
やがて鉱山の入り口らしき場所に出た。
錆びた鉄骨に支えられた四角い入り口はいかにも廃鉱を思わせた。
近くには看板が立てかけられており、そこには鉱山の所有者などの情報がかすれた文字で書かれていた。
先ほどのトンネルより広く明かりの無い坑道を見て葵が喉を鳴らす。
あからさまに怖がっている葵に冬草が聞く。
「ホントに行くのか?」
「も、もももちろん。す、少し先を見てみようじゃないか……」
「月夜部長。強がっても足が震えてますよ?」
夏野がツッコミを入れると葵はジトッと目を向ける。それは違うよ、武者震いだよと目が語っていたが夏野はスルーした。
たまらず吹き出した倉井をよそに、3人は身を寄せ合うと坑道へと足を運んでいった。
暗闇の坑道に葵がカチッと小型のLEDライトをつける。念のために持ってきて正解だったと葵は独りごちた。
それを見て夏野は、なんでさっきのトンネルで使わなかったのかと不思議に思った。
黒く汚れているコンクリートが周りを包んで、真っ直ぐに延びているのを照らす。思ったよりも頑丈そうで、葵たちは崩落の心配がなくてホッとした。
明かりの届かない奥から、ゴウゴウと地下からわき上がる謎の音に葵たちはビビる。その頃には怖くなった倉井も葵の背中にくっついていた。
「……何も無いな。もう少し先を見て、変わらないようだったら引き返そう」
葵が皆に確認すると、全員が無言で頷く。
何か言ってくれよぅ…寂しくなった葵は思った。
10歩ほど進んだ時、奥から大きな明かりが葵たちを眩しく照らした!
「ひぃいいい!」
驚いた葵は夏野に抱きつく!
うそ! ラッキー! と夏野は、そんなことをしている場合じゃないのに葵の胸に嬉々として顔を沈めた。
その姿を見て、どんな状況でもブレない夏野に倉井は感心していた。冬草はビビって葵の腕に抱きついている。
「誰!?」
奥から人影が声を上げる。
人の声に勇気が出た葵が震えながら小さな明かりを向けた。
そこには以前、倉井の住む地下世界へのエレベーターにいたスラリとした中性的な美人の盛戸 沙知がアウトドアジャケットに身を包み、大型のライトを手にして立っていた。
「盛戸さん!?」
驚いた倉井が呼ぶと相手も気がついたようだ。
「あ! 最中ちゃん? どうしてここに?」
「私たちは探検しにきたの。盛戸さんこそ、どうして?」
盛戸は倉井たちに近づきながら答えようとすると、素早く動いた葵に阻まれた。
「久しぶりです沙知さん! 考え直してくれましたか? まずは友達から……」
「いやぁあああああああ~~~~!」
急に眼前に現れシャキっとした葵に、拒絶した盛戸が出口に向かって逃げだした!
「ま、まってくれぇーーー!」「もう! 月夜部長ったら!」
慌てた葵と文句を言いいながら倉井が追いかけていく。
その後を夏野と冬草が追う。状況がわからない冬草が夏野に聞いてきた。
「これって何なの?」
「盛戸さんは最中ちゃんの知り合いで、月夜部長は…部長は、その…盛戸さんを気に入っているみたい……」
夏野の苦虫を噛んだような含みのある言い方に冬草は首をかしげた。
坑道の外に夏野たちが出ると、両膝をついてガッカリしている葵に盛戸をなだめている倉井がいた。
「ますますわかんねェ…」
現場を見た冬草が呟く。
どうせ月夜部長が盛戸にしつこく迫ったから拒否されて、最中ちゃんに怒られたんだろう。夏野は推測する。
葵に近づいた夏野が声をかける。
「どうしたんですか?」
「む、空君か。沙知さんと友達から始めようとしたけど無理だったよ……。こんなに拒絶されたのは初めてだ。私のハートはビックバンだよ……」
「元気出してくださいよ月夜部長。わたしがいますから!」
「んん? それって、どんな意味なんだい?」
夏野の言葉に不思議そうに葵がチラリと顔を向け聞く。
つい本心を言ってしまい、慌てた夏野が取り繕う。
「わ、わたしたち部のみんながいるって意味です! ほら、立ってくださいよ~!」
誤魔化すように葵の腕を取って立ち上がらせる夏野。これ以上質問させないようにしている。
その様子を見ていた冬草は、やっと夏野の想いに気がついた。
あー、なるほどねーと、いままでのことを思い出すと夏野の行動に合点がいった。冬草は葵のことが好きだと思っていたけど、夏野のことを見ても全然なんともない自分に驚いていた。
……これって違う好きなんだなと、改めて認識した冬草はニヤニヤと二人を見ていた。
なんとか立ち直った葵は再び盛戸に謝り、なぜ坑道の奥から出て来たのかを聞いた。
この廃鉱山には地底から地上へのエレベーターがあり、たまに使用していると盛戸は嫌そうな顔で話した。
こちらにあるエレベーターは2人乗り用の高速タイプなため、荷物がないときの連絡や定期メンテナンスのために訪れているようだ。
そう言う事かと納得した一同は、怖い所じゃなくてホッとして顔をほころばせていた。
一人、葵に恐怖していた盛戸以外は。




