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59話 デートよ!

 休日の朝。

 アパートの自室で壁に掛けてある姿見の自分を見て、岡山(おかやま)みどり先生は服装をチェックする。

 普段の岩手 紫(いわてむらさき)先生に合わせて落ち着いた色でまとめている。

 きっと気に入ってくれるはず。満足したみどり先生は眼鏡の位置を直し、鏡に映る自分に微笑んだ。

 今日は告白してから初めてのデート。

 下着も新調して気合いを入れたみどり先生の戦闘力は高い。もちろん化粧も前日に葵 月夜(あおいつきよ)に電話してナチュナルメイクの手解きをしてもらった。これも紫先生が気に入っているようだから。

 ベージュのブランドバッグを手に取ると軽い足取りで玄関に向かう。

 久しぶりのデートにみどり先生はウキウキしながらアパートを後にした。


 電車に乗り込み、ターミナル駅を目指す。

 紫先生とは地元の駅ではなく、ターミナル駅にあるド○ールで待ち合わせをしている。

 地元だと他の生徒や先生に見つかるかもしれないし、それに、なんとなく恥ずかしいからだ。

 駅に着いたみどり先生は腕時計を確認する。

 ちょうど10分前だ。ド○ールは駅前にあり、みどり先生が立っている場所からも店舗が見えている。

 とりあえずスマホで駅についたよとLI〇Eすると、待ってるとカワイイスタンプがすぐに来た。

 慌てたみどり先生は急いでド〇ールへと向かった。

 店内に入ると奥の席に紫先生が座っており、みどり先生を見つけると微笑み小さく手を振っている。

 遊園地で見たよりも気取ってなくて、ずっとナチュラルな服装な紫先生。おかけで美人度がアップしているように見える。

 キラキラ輝く姿に、みどり先生は夢かと思った。

 対面の席に座りつつ紫先生に声をかける。

「ごめんなさい遅くなって」

「ううん、私が早かっただけ。楽しみにしてたし。何か頼む?」

 はにかみながら答える紫先生に、そういえばとみどり先生はコーヒーを注文しにカウンターへと席を立った。


 再び席に座り、落ち着いたみどり先生。

 互いに目を合わせると照れて()らす。紫先生は頬を染めてみどり先生を上目遣いで見た。

「その、私、恥ずかしいけど初めてなの、お付き合いするのって。だからよろしくね」

「ええっ! 先輩……」

 驚くみどり先生。いつも余裕そうな雰囲気から紫先生は経験豊富かと思っていた。

 自分が初めての人になるなんて……。みどり先生は目の前で恥ずかしそうにしている紫先生に胸がキュンキュンしていた。

「いやだ。そんなに驚かなくてもいいじゃない」

「だって先輩は人気あったし、モテモテだったじゃないですか!」

「先輩は禁止! あと、敬語はなし!」

 みどり先生の言葉を無視してムスッとする紫先生。

 2人は見つめ合った後、静かに笑う。

 しばらく話してから紫先生とみどり先生はド〇ールを出た。


 さり気なくみどり先生の手を握って嬉しそうに紫先生が聞く。

「さ、どこに行く?」

「そうね…って! なんで!?」

 何かを発見したみどり先生が慌てて紫先生と建物の陰へと隠れる。

「ど、どうしたの?」

「シー」

 なにごとかと聞く紫先生の口を手でふさぐみどり先生。

 2人は建物からそっと通りを見る。

 そこには葵 月夜(あおいつきよ)夏野 空(なつのそら)が楽しそうに話ながら歩いていた。

「あれは葵さんと夏野さんね」

「どうしてココにいるわけ!?」

 紫先生が確認すると、みどり先生が疑問の声を上げた。

 そっと紫先生が聞いてくる。

「とても仲が良さそうね。2人とも付き合っているの?」

「いいえ。夏野さんが熱を上げてて、肝心の葵さんは意識してないみたいだけど」

「へ~。だとしたら何か用があるのね」

「たぶんね。ホント、間が悪い」

 苦笑するみどり先生は紫先生の手を取ると、葵たちと反対方向に歩き始めた。


 その頃、葵の横にいた夏野は周りをキョロキョロと見渡した。

「あれ~、いないですねー」

「うむ。雪からの情報によると、ミドリちゃんがド〇ールに入っていったようだが」

「店にもいませんでしたよね」

「そうだね。せっかくデートを観察しようとしたが無理かも。とりあえず(ゆき)と合流しよう」

「はーい」

 2人は駅に方向を変えて歩き出す。

 そこにはスマホ片手に黒いパーカーを着た冬草 雪(ふゆくさゆき)が待っていた。

「雪! どうだった?」

「…あたいも何やってんだか。見失ったよ」

 近づきながら葵が聞くとスマホをしまって冬草が歯を見せる。

 笑う夏野が隣に来た。

「そんなこと言っても、最初に先生たちを見つけたのは雪先輩じゃないですか!」

「う~、だって気になったからさー」

 後ろ頭をかく冬草の肩に笑顔で葵は手を置く。

「それはさておき、もう一度探して見つからなかったら、今日は他で遊ぼう!」

「あ! いいですね! 今度は3人で手分けして10分後にここで落ち合いましょう!」

「それなら、あたいもいいよ!」

 葵と遊べると、はしゃぐ夏野に冬草も同意した。

 こうして葵たちは別々の場所へと向かった。


「ちょっ!? 今度は冬草さんが!?」

 通りの向こう側に見覚えのある姿を認めたみどり先生が驚く。

「今日は偶然が多いね?」

「絶対に違うよ、紫。私たちを探してるのよ」

 地元から離れたターミナル駅でこんなにも部員たちと出会うなんて、意図的すぎる。

 邪魔したいのか応援したいのか、葵たちの行動にみどり先生は悩みはじめた。

 その様子を見た紫先生は、握ったみどり先生の手を引いて見つからないように駅へと導いていく。

「ここは戻ろうよ。良かったら私の部屋に来る?」

「えっ……行く!」

 紫先生の提案に戸惑いながらもみどり先生は頬を染める。

 初めての紫先生の部屋……。今日は思った以上に関係が進展するかもしれない。みどり先生は勝負に勝った気がして心の中でガッツポーズを決めた。

 ソワソワして、はやる気持ちを落ち着けつつ、みどり先生は紫先生と電車に乗り込む。

 ど、どうしよう…。紫先生は内心、焦っていた。

 思わず誘ってしまったが、経験の無い身で無謀だったかもしれない……。みどりに幻滅されないかしら?

 チラリと隣に座るみどり先生を見る。紫先生の視線に気がつき微笑んできた。

 余裕のある笑みを見て紫先生は落ち着いた。

 そうね、みどりに任せましょ。そう思うと気が楽になって紫先生も微笑み返した。

 2人の思いを乗せて電車はガタゴトとレールの上を走っていく──


 ターミナル駅周辺を探していた葵たちは、みどり先生たちを見つけられず、これ以上の探索を断念した。

 遊ぶことにした3人は、近くにあるカラオケ店に入ると歌い始める。

 意外に冬草は歌が上手く、夏野は普通だ。

 だが、葵が歌い出すと夏野と冬草は悶絶した。

 あまりにもヘタだったから。

 カラオケの残り時間は葵の歌のレッスンに費やされて、あっという間に時間がすぎた。


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