57話 ランチだよ!
昼休み、地底探検部の部室では葵 月夜、夏野 空、冬草 雪、倉井 最中の部員たちと春木 桜が、ワイワイと楽しそうにお弁当を広げてランチの準備をしていた。
そこに岡山みどり先生と岩手 紫先生がやって来た。
「こんにちは。みんな揃ってるね」
「私もお邪魔しますね」
挨拶すると2人は並んで座ってお弁当を置く。
クスクス笑った岩手先生が葵たちに話す。
「いつも、お昼になるとみどりって職員室からいなくなってたの。探しても見つからない訳がわかったわ。まさか部室で食べてたなんて知らなかったから」
「なるほど。ずっとミドリちゃんを狙っていたんだね、紫ちゃん」
葵が親指を立てながらニヤリとすると、思いっきり図星を突かれて岩手先生の顔が赤くなる。
「からかわないで葵さん。さ、紫も気にしないで食べましょう」
みどり先生が注意するが葵は笑って誤魔化している。
そうして先生たちも加わり、部員たちと楽しくお昼を始めた。
地底探検部の部員たちと一緒にお昼を食べる光景は岩手先生には新鮮だった。
和気あいあいに、みどり先生と言葉を交わす生徒たち。授業中は大人しい倉井も積極的に加わっている。
転校生の冬草もすっかり馴染んでいるようだ。夏野と葵たちに混ざり、おかずをやりとりしている。
なんとも仲の良い雰囲気に岩手先生は微笑んでいた。
岩手先生の視線に気がついたみどり先生が頭をかたむけて聞く。
「どうしたの?」
「ふふ、皆が楽しそうでいいなって思ってたところ」
「そうね。いつもこんな感じだけど、紫がいると新鮮というか嬉しい」
長机の下で握っていた岩手先生の手をギュッとして、みどり先生が可愛く微笑む。
照れた岩手先生はおかずを箸でつまむ。
「利き手がふさがっているから食べさせてあげる。はい、あ~んして」
「はわぁ」
変な声を出したみどり先生が口を開け、おかずを受け取る。
「美味しい?」
「……うん」
頬を染めながらモグモグするみどり先生。嬉しそうに岩手先生は自分で食べると、再びみどり先生におかずを差し出す。
2人はイチャイチャとお弁当をつついていた。
それを見ていた葵がニヤリと冬草に顔を向ける。
「雪。口を開けて?」
「絶対にイヤダ! 恥ずかしいだろ!」
「わひゃし、あいへま~~~ふ!」
ギロリと睨む冬草とは反対に夏野が口を開けてアピールする。笑った葵は箸で唐揚げを取って夏野の口に入れた。
「どうだい?」
「おいふぃでふ!」
モグモグしながら嬉しそうに答える夏野。ついで葵はひとつ唐揚げをつまむと倉井に向けた。
「さ! 最中君も!」
「い、いえ。わたしは…もごもご」
無理矢理に倉井の口へと押し込みご満悦な葵は、無言で口を開けて待っている春木にも唐揚げを放り込む。
まるで雛に餌をやる親鳥になった気分。いつか雛たちは巣を旅立つのねと、飛んでいく小鳥を思い浮かべて葵はしみじみしていた。
そこに卵焼きを持った夏野が葵に迫る。
「今度は月夜部長です!」
「フゴォ!」
何か言おうとして開けた葵の口に突っ込まれる。モグモグと噛みながら、こんなところでも強引だなと葵は思った。夏野は頬を赤らめて嬉しがっているし。
と、倉井に春木もそれぞれ箸でおかずを持ち葵へと迫る。
「あーーん?」
「ありがとう。だけどもういい…おぶぅ!」
ししゃもと小松菜を同時に口に入れられ、頬張る葵。ウシシと春木と倉井は笑う。
食べ物で頬を膨らませた葵がふと横を見ると、冬草が恥ずかしそうにプルプルとウインナーを箸で持っている。
「ほれ…」
弱気に来る冬草にあきれた葵は、自分からウインナーにパクついた。
葵たちが目の前でみどり先生と岩手先生の真似をして遊んでいるのに、2人は自分たちの世界に入って気がついていない。
お弁当を食べ終えるとお茶を用意して、みどり先生と岩手先生は長机の隅で寄り添って笑い合っている。
そんな2人見て冬草はため息をついた。
「あからさまにイチャついてるぞ、先生たち……」
「確かに甘い雰囲気だな。とはいえ、学校では人目もあるし2人きりの時間が難しいのだろう」
葵の理解ある言葉に意外だと冬草は驚いてマジマジと顔を見た。その前に、あたいらが見てんだろ! と心の中でツッコミをいれた。
ニッと口元を上げた葵は、部室奥の棚へと向かうと手に地図を持って戻って来た。
「本当は放課後に発表しようと思ったが、これを見てくれ!」
バサっと長机に地図を広げる。
そこには隣駅から少し離れた場所に赤くマーカーで丸が描かれていた。
冬草や夏野たちは、おぉーっと感嘆の声を上げる。倉井が頭をかたむけ聞く。
「これは?」
「うむ。なんと隣駅に廃鉱を発見したんだ。地図にあるように駅から山へ向かい、トンネルを抜けた先にあるようだ。地下都市とは違うが探検できそうだ」
「すごいですっ! 月夜部長! 行きましょう!」
地図に指を置いて説明する葵に夏野が拳を握って喜ぶ。
フフフと薄く笑った葵が背中を向け、顔だけ横にして指を額に当てた。
「我ながら恐ろしいな…。この観察眼が……フッ」
「おい、なに恰好つけてんだよ! ちゃんと調べろよ、部長だろ!?」
すかさず冬草がツッコむ。
と、夏野が葵をかばう。
「雪先輩いいじゃないですかー。無粋なことを言わずに行きましょうよー」
「いや、だって、絶対に行き当りで発見したっぽいし」
「確かにそうですけど、楽しそうだからいいじゃないですか!」
「認めるのかよ!」
「そうですよ。月夜部長が計画立てて調べたのって見た事ないですから。そんなことより行きましょう!」
「ま、まあ、いいけどさ……」
明るく言う夏野に、なんとも呆れた冬草が折れた。
しかし、その横で葵は自分の評価の低さに打ちひしがれていた。倉井はそんな葵を見て笑う。
腕を組んだ冬草はチラリとイチャイチャ中のみどり先生たちを見る。
「先生たちは誘うのか?」
「うむ、一応顧問だからな。声をかけてみるが望み薄だな」
苦笑いで葵が答える。
そこに春木が元気に手を上げた。
「あたしは無理だよ!」
「桜君はそもそも部が違うじゃないか。というか、最近一緒に部活動しているおかけで部員かと勘違いしそうだよ」
「うそ! ショック~~!」
「いや、そんな顔されても困るんだが……」
あからさまに嫌そうな顔をする春木に葵は眉を下げた。
2人のやり取りに冬草が吹き出し笑う。
夏野と倉井は地図を見ながら新しい探検先について、あれこれ想像を膨らませて話していた。




