表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/213

49話 買いにいくよ!

 ジャージ姿の葵 月夜(あおいつきよ)とオシャレ着の夏野 空(なつのそら)は、やや古い2階建ての家の前に立っていた。

 葵は夏野と顔を合わせるとニヤリと笑う。

「いくぞ、空君!」

「はい! 月夜部長!」

 2人は互いに(うなず)くと、深く息を吸った。


「「ゆ~き~ちゃ~~ん! あそぼ~~~!」」

 2人が声をそろえて大声で呼ぶと、間髪空けず2階の道路側にある窓が勢いよく開く。

「うっせーよ! 目立つだろ! なにやってんだーー!」

 黒いパジャマ姿の冬草 雪(ふゆくさゆき)が、血相を抱えて窓から上半身を出して怒鳴った。

「やあ雪。今日は買い物に行こう!」

「付き添いでーす」

 ニコニコと葵と夏野が答えた。

 すると1階のドアが開き、冬草雪の母親が出てきた。30代半ばのようで若く、スレンダーな薄手のワンピースを着ている。肌寒いのに。

「こんにちはー月夜ちゃん。今日はどうしたの?」

「こんにちは。はじめまして夏野空です」

 葵が会釈し、夏野が明るく言うと冬草の母は手を合わせて喜ぶ。

「あなたが空ちゃんね。雪ちゃんから聞いてるよ~。月夜ちゃんもいつもお弁当ありがとねー。助かるわ~」

「いえ、いえ。当然ですよお母さん、友達ですから」

 なぜか葵は得意げに返す。2階からダダダダと階段を駆け下りる音が聞こえた。

 冬草の母は気にせず続ける。

「さ、どうぞ、中に入ってゆっくりして! 雪ちゃんたら、最近楽しそうで良かった! これもあなたたちっつぶ…」

「ママやめて! いいから中にいてよ!」

 慌てた冬草が母の口を手でふさぎ玄関から遠ざける。

 後ろ手にドアを閉めた冬草が睨んできた。

「お前らなんでピンポンしないんだよ!? 月夜が前に来た時は鳴らしたろ!」

「うむ。気分で」

「ママって……」

 葵と夏野がそれぞれ言うと冬草は顔を赤くした。

「おいっ! 空は忘れてくれ! 家ではいいだろ!」

 吹き出した夏野が笑いをこらえている。

 誤魔化すように冬草が早口でまくし立てた。

「今日は何しに来たんだ? 何の約束もしてないだろ? しかも2人揃って何だよ?」

「買い物の誘いにきたのだ」

「月夜部長がジャージなんで服を買いにいくんです。ついでに雪先輩のも」

 葵の補足に夏野が説明する。理解した冬草が眉をひそめる。

「服ならいっぱいあるよ。なんであたいが関係してくるんだ?」

「だって、雪先輩っていつも黒いじゃないですかー。私服が黒すぎです」

「そうなんだよ。雪にはギャルとしてもう少しカワイイ服を着て欲しいんだ」

 今度は逆に夏野の言葉に葵が補足する。こいつら……息ピッタリだな、冬草は思った。あと、ギャルには絶対にならないと誓った。


 しかたないので冬草は着替える間、葵たちをリビングに通して待ってもらうことにした。

「誘ってくれてありがとねー。急に転校して心配してたけど、雪ちゃんにすぐ友達ができてよかったー」

 冬草の母が嬉しそうにお茶を持ってくる。

「当然ですよお母さん。ああ見えて乙女ですからね雪は」

「ふふふ、ありがとう。この家って広いでしょ? 親子2人だと部屋が余っちゃって。賃貸でも格安だったから、アパート借りるよりもお得よね。駅からは少し離れてるけど」

 おしゃべり好きらしく冬草の母はリビングのソファーに座った葵たちに楽しそうに話している。

「玄関での会話が聞こえてたけど、服を買いに行くのね? 私もあの子の服を買うのは賛成! 確かに黒いよね? あははは」

 笑う冬草の母に同意した葵たちも笑った。

 そこに黒ずくめの私服に着替えた冬草がやってきた。

「母さん、変なこと言ってないよな? ちょっと出かけてくるから」

「あら、ママでいいのに」

「あーー! いいの! ほら行くよ! さっさと外に出ろ~!」

 恥ずかしがった冬草が葵たちを玄関へと追い出す。笑った葵たちは言われるまま外へと出た。


 冬草の自宅から出た葵たちはバス停へと歩いて行く。

 疑問に思った冬草が聞いてくる。

「どこにいくんだよ? 駅前には服屋なんてなかったぞ!?」

「うむ、良い質問だ雪。これからバスに乗り、ユ○クロへと向かう所だ」

「は?」

 葵の説明に驚く冬草。ユ○クロなんて、ありふれたチェーン店だと思っていたので意外だったから。

 クスクス笑った夏野が続けた。

「本当ならイ○ンがよかったんですけど、電車乗り継ぎで遠いから。ユ○クロならバスで15分ですよ!」

「……」

 自慢げに話す夏野に言葉が出ない冬草。

 東京にはユ○クロなんて溢れるほどあったのに……。しかも中野区育ちの冬草は、古着やセレクトショップなどアパレルの多い地域にいたため、地方との差を痛感させられた。

 楽しそうに話しながら前を歩く葵と夏野を見て、これも慣れかなと冬草は思った。


 バス停に着いた葵たちは、時刻表を確認するとバスが来るまでには少し時間がある。

 3人は屋根付きのベンチに腰掛けて待つことにした。当然の様に葵を挟んで夏野と冬草が座った。

 ふと思い出したように夏野が葵に聞いてくる。

「そういえば、最中ちゃんの家に行くときに着ていた服はどうしたんですか?」

「あれは妹に買ってもらったものなんだ。だから大切にしまっているよ。それに、わたしには堅い感じがするし……」

「ええー! とっても清楚な感じで似合ってたのにー! また着てくださいよー」

 残念がる夏野に興味津々な冬草が口を挟んできた。

「なにそれ!? あたいも見たい! どんな感じなんだよ?」

「秋らしいシンプルでオシャレなジャケットに、ふわっとしたスカートでとっても素敵だったんです!」

「なんだと……すげーみたい! 写真はないのかよー」

「そうなんです。撮り忘れてて、つくづく残念です」

 葵を挟んで盛り上がる2人。しかも当人を放って置いて。

 そんなに好評だったのかと、褒めまくる夏野と残念がる冬草に葵は頬を染めて恥ずかしがった。


 そうこうしているうちにバスが来て乗り込む。

 地方のバスに初めて乗った冬草は夏野に教えられながら後ろのドアから乗り込んだ。

 一番後ろに座った3人。バスが走り出した。

 ちんたら走って行くと思っていた冬草は、スピードを上げて走るバスに驚き、加速にビビっていた。

 温泉に行ったときは人が多いのと緊張していよく分からなかったが今は違う。前もこうだっけ? と冬草は思った。

 葵と夏野を見るが、2人は平然としていた。これが地方の日常かよ……。冬草は修行が足りぬと目を閉じた。

 目的地に着き、バスを降りた3人はユ○クロの前へと立った。

 見慣れた看板になぜかホッとする冬草。まだなじめない地方での生活に、知っている店を見て安心したのかもしれない。

 そんな冬草をよそに、2回目だよと葵が嬉しそうに夏野と話していた。


 店内に早速入ると、各売り場を見て回る。

 葵が蛍光ピンクにゴールドの模様の入ったギャル服を発見し、手に取ろうとして夏野が阻止していた。

 あんな派手な服なんか誰が着るもんかと、鼻で笑った冬草が黒い服を手に取ると夏野が奪って棚に戻した。

「2人とも極端すぎ! チラシを参考に考えましょう!」

 憤慨した夏野はそう言うと、レジ近くに置いてあるチラシを持ってきて葵と冬草に見せる。

「このモデルを参考にしましょうよ? ね?」

「いや、空君。地味すぎる……」

「めちゃめちゃ白じゃん!」

 夏野の提案も2人にダメ出しされる。夏野は流行の服を2人に着て欲しかったが断念した。

 も~~! っと唸った夏野は妥協して、葵と冬草の許せるギリギリのラインに沿って服を選んでいった。

 とりあえず、いくつか選んだ服を試着してもらった。

 ドキドキしながら夏野が試着室の前で待つと、最初に葵がカーテンを引いて現れた。

「どうだい? ちょっとギャル度が低いがいいだろ?」

「ハイ! めちゃ可愛いです!」

 長袖ゆったりニットにショートパンツの葵の姿。夏野は夢中でスマホで写真を撮る。

「うむ、これに決めた」

 そう言うと照れた葵が急いでカーテンを閉める。早い撮影会の終わりに、ちぇーっと夏野は残念がる。しかし、今撮った写真はスマホの壁紙に速攻で設定していた。

 ついで、冬草がカーテンを開ける。

 薄ピンクのシャツにグレーのカーディガンを羽織り、スキニージーンズをはいた姿が、いつも着ている黒い服装とのギャップでとても新鮮だ。おずおずと冬草が聞いてくる。

「ど、どうだ?」

「いいですよ! 普通です! チョーかわいい!」

 夏野は喜び、とりあえずスマホを向けて写真を撮りはじめた。

 頬を赤らめ照れた冬草は無言でカーテンを閉めた。


 2人は試着した服を購入し、夏野はインナーをいくつか買っていた。

 満足げな葵と冬草を見て夏野は安堵(あんど)した。これでお出かけの際も目立つこともなくなったから。

 気になる服やオシャレ談義をしながら3人はユ○クロを出ると、隣接する回転寿司屋へと足を向けた。

「雪は大丈夫かな、回転寿司だけど?」

「そんなの死ぬほど行ってるからへーきだよ」

「わ~~すごい! さすが東京の人ですねー! わたしたち、ここは2回目なんですよ!」

 葵の問いに平然と答えた冬草を尊敬な眼差しの夏野が褒める。

 照れながらも、この辺ってホントに何も無いんだなー、と改めて冬草は思った。

 それでも久しぶりに親子以外で食べた回転寿司は楽しくて、賑やかに進む食事が冬草の心を温めていた。


あけましておめでとうございます。


引き続きお読みいただけると嬉しいです。

どこまで続くかわかりませんが、頑張ります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ