48話 相談です!
駅の近くにある喫茶店。
広いテーブルが備え付けてある15席ほどの店内は、家族でもゆっくりできるような造りになっていた。
もちろんメニューもファミレス並にバラエティに富んでいる。
ライバル店が少ないこの場所では、地域住民の憩いの場やお食事処としてよく利用されていた。
夏野 空は1人、入り口に立つと意を決して中へと踏み込んだ。
カラン、カラン──ドアについているカウベルが鳴ると「いらっしゃーい」どこからか迎えの声が聞こえた。
席の合間の通路を歩き、目的の人物を探す。
すると向こうからやって来た。金髪を後ろにまとめ、喫茶店の制服に身を包んでいる茜先輩が現れた。
「あれれ? 空ちんじゃん! どうしたー? ツッキーはいないよー」
「違います。茜先輩に会いにきたんです。バイトはいつ終わりますか?」
キョトンとした茜先輩は自分を指さす。
「あたしを? あはははー。心変わりしたの空ちん?」
「違いますから! 相談したいことがあるんです!」
「そっち? なるほどねー。ちょっと待っててー」
そう言うと茜先輩は夏野を近いテーブル席に座らせて、厨房へと引っ込んでしまった。
手持無沙汰な夏野は、早く来ないかなとイライラしながら待っていた。
「ごめんよー。はい、これ」
「わざわざありがとうございます」
しばらく待っていると茜先輩が温かい紅茶を持ってやってきて、夏野がお礼をいうと向かいへ座った。
不思議に思った夏野が頭をかたむけて聞く。
「そんなところに座ってバイト、大丈夫ですか?」
「へーき、へーき。空ちんは知らないと思うけど、この喫茶店ってさ、おばさんがやってんだ。あたしは知り合いだからお安いバイト代でこき使われてるってわけ。で、今はお客が少ないから話しても大丈夫なんだー」
「偉いですね! 茜先輩! 尊敬します!」
目をキラキラさせた夏野が褒めると、茜先輩は照れて紅茶を飲んで誤魔化した。
その様子にフフと笑むと、真顔にすぐ戻り、夏野は身を乗り出す。
「ちょっと聞いてください。月夜部長と同じクラスの転校生って知ってます?」
「噂ならねー。なんでもツッキーに勝負を挑んで、ソッコー負けて大泣きしたって聞いたよー」
冬草 雪と葵 月夜の噂が、3年生まで広がっていることに夏野は驚いた。しかし、微妙に違うところが噂だなと夏野は思った。
茜先輩が相手を知っていることに安心した夏野は、今までため込んでいた胸の内を話した。
雪先輩がどうやら月夜部長のことが好きなことや、月夜部長はいつも雪先輩を気にしてて、優しくしている所を見て嫉妬していること、もっと自分にかまって欲しい願望も洗いざらい茜先輩にぶちまけた。
話を聞き終えた茜先輩はプッと吹き出すと笑い始めた。
「アハハハハ! 面白~~い!」
「何笑ってるんですか! こっちは真面目に話したのに!」
ヒーヒーと腹を抱えて笑う茜先輩にムッとした夏野が怒った。
「ああ、ごめーん。だって、それってまんま空ちんなんだもん」
「はぁ!? わたし?」
驚く夏野に茜先輩がウインクする。
「だって、あたしが空ちんに感じたことと同じだからさー。ウケるね?」
「それじゃあ……」
夏野はハッと理解した。茜先輩も同じ様に自分を見てたことに。
紅茶を飲み干し、お代わり入れた茜先輩が続ける。
「あたしのときは、空ちんとツッキーがずっと一緒にいたからさ、いつもモヤモヤしてた。チラチラってツッキーを見てたけど、アイツは気がつかなかったし。なにを言いたいかっていうとー、気持ちはわかるってこと」
「そんなこと言われても、わたしは譲りませんからね?」
「おー! 一途だ~~」
そう言うと茜先輩は再び笑った。
相談相手を間違えたかと思って、紅茶に口をつけた夏野にジッと見ていた茜先輩が微笑む。
「空ちんってさ、けっこうカワイイじゃん? 乗り換えようかなー」
ブッと紅茶を吹いた夏野が慌てる。
「な、ななななに言ってるんですか!」
「いや、ホント。最初見たときはヘナチョコかと思ったらさー、案外しっかりしてるし。負けず嫌いだよねー」
「ほっといてください! なんでそうなるんですか!」
「だって、ツッキーが好きなヤツって、いっぱいいるじゃん? あたしなんて、ひょっとしてムリ? みたいな感じだし。空ちんなら脈ありそうしょ?」
「ないし! 月夜部長のこと諦めるならそれでよし! むしろ嬉しいです!」
褒められて照れながら夏野が強がる。
「よいしょ!」
茜先輩は声を上げると夏野の隣に移動し、焦る夏野。
「なんですか!? なんで隣に?」
「おちかづきにー。あたし、空ちんのこともっと知りたいし」
「別に知って欲しくないですから! ひゃーー! くっつくなー!」
夏野に体をあずけて身を寄せる茜先輩。端の席で逃げられない夏野が騒ぐ。
しかたなしに離れた茜先輩がため息をつく。
「空ちんが雪ちんに嫉妬してるの聞かされてもさー。あたしができる事、ないよ?」
「そんなの知ってます。愚痴を聞いて欲しかっただけです」
不貞腐れた夏野が紅茶を飲んだ。
スネ顔の夏野を見て茜先輩は口元を上げる。
「前も言ったけど相談ならいつでも乗るよー。そしたら会えるもんね?」
「なんで月夜部長には奥手で、わたしには積極的になるんですか? 意味わかんない」
「だって、もう言っちゃたし。しょうがなくね?」
怒る夏野にタハハと笑う茜先輩。
あっけらかんとする茜先輩につい夏野は吹き出した。
「プッ! もういいですから! でも、茜先輩がどうしようと、わたしの気持ちは変わりませんから!」
「つれないな~。また来てよ。したら歓迎するから」
「来ないし!」
夏野は立ち上がると、すがりつく茜先輩をどかして席から離れる。
急いで店を出ようとして、夏野が振り返った。
「紅茶ごちそうさまです。あと、茜先輩は惚れっぽすぎます。その内、きっといい人が見つかりますから」
「んじゃ、今は空ちんでいいじゃん?」
「それが嫌なんです!」
舌を出した夏野が背を向けて喫茶店を出ていった。
後姿を見送った茜先輩はポソッと一言呟いた。
「やっぱ、カワイイじゃん。空ちんってば」
その夜、夏野は電話で友人の春木 桜に今日の出来事を話していた。
あまりにも自分の理解を越えた展開に、誰かの感想を聞きたかったのだ。
話を聞いた春木は電話の向こうで爆笑していた。
「笑いごとじゃないんだからね? わたし困ってるの!」
『アハハハハ! モテ期きたじゃん! あんなポンコツ部長よりいいんじゃないの』
「うっさい! これで月夜部長に勘違いされたら目も当てられないよー」
『それじゃあ、茜先輩も誘う? 遊園地に。アハハハハ』
「もーー! 絶対に誘わないし!」
からかう春木に夏野は呆れた。
『はー、笑った。空っていつも面白いよね。だけど、真面目な話、さっさと告ればいいじゃん』
「そんな簡単にはいかないよ。それに今の部の雰囲気が壊れそうだし……」
『そうだねー。確かにあそこって居心地いいもんね』
「はぁ。まいったなぁ~」
夏野がため息をつく。
『でも、あたしは空は凄いと思うよ。ずっと部長だけだもんね。あたしには羨ましいよ』
「桜はいないの?」
『いたら真っ先に報告してるよ。誰かいないかなぁ~』
今度は夏野が笑う。
2人は眠くなるまで話していた。
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