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47話 またやるよ!

 放課後、春木 桜(はるきさくら)が大きな丸いケースを持ち、陽が傾き校舎の影を残す廊下を歩いている。

「春木さん」

 誰かに呼び止められ立ち止まって振り向くと、そこには岩手 紫(いわてむらさき)先生がこちらに向かっていた。

「ちょっといいかしら?」

 岩手先生は春木の腕をつかむと、人気の無い廊下の端へと導く。

「なんですか岩手先生」

 怪しげな行動に春木は眉をしかめる。岩手先生が自分に用があるなんて思いもよらなかったから。

「みんなで行った温泉のとき、あなた、私とみどり先生を見てたでしょ?」

「ああ! はい!」

 意味が分かって明るく返事をする春木。岩手先生はあっけらかんとした対応に混乱し、手を額に当てる。

「その…よくないでしょ? 隠れて盗み見るような真似は…」

「すみませんでした! あたし、すごく興味があって。岩手先生って思ったよりも積極的じゃなくて、少しもどかしくて。頑張ってください!」

「え? ええ、ありがとう。だけどね、先生も見られると恥ずかしいから。あまり(おおやけ)にしたくないし」

 なぜか応援されて戸惑う岩手先生。しかもダメだしされている、年下の学生に。

 春木はニカっと笑うと先生の手を握る。

「絶対にうまくいってください! 応援してますから!」

 そう告げると手を離して再び大きなケースを持って歩き出した。ふと、止まった春木は振り返って岩手先生に手を上げて再び歩き始めた。

 ……どうしたらいいの私? 注意するつもりが励まされている。みどり先生の事は秘密だったのに……。

 ポツンと取り残された岩手先生は途方に暮れていた。


 その頃、地底探検部の部室では葵 月夜(あおいつきよ)夏野 空(なつのそら)冬草 雪(ふゆくさゆき)倉井 最中(くらいもなか)が次の探検先を調べていた。

「今回は少し遠出をして鍾乳洞なんかどうだ? せっかく雪もいるし、一度は見せた方がいいだろ?」

「江の島の鍾乳洞ならいったことあるぞ」

 葵の提案に冬草がツッコむ。

「えのしま? どの島だ? 佐渡島辺り?」

「ちげーよ。神奈川県にあるんだよ」

「わたし知ってます! サザ〇オールス〇ーズが住んでる島ですよね?」

 葵の疑問に冬草が答えると夏野が得意げに知識を披露する。

「ちげーよ、住んでないって。おまえら、少しはネットで検索しろよ…」

 (あき)れた冬草が言うと、なるほどと3人がワイワイとタブレットを取り出し調べ出した。

 楽しそうにあれこれ言い合っている葵たちを見て、冬草は吹き出した。


 バン!

 豪快に部室のドアが開くと、春木が大きな丸いケースを持って入って来た。

「またか! 桜君。こんどはどの楽器かな?」

「ふふん。いくら万年補欠だとしても次の手は考えてあるの! 凄いでしょ!」

 さすがになれた葵が聞くと自信満々に春木が答える。

「前にも言ったが、一つの楽器に集中すべきだ。ほら、空君も何か言いたそうな顔をしてるよ?」

「空は黙ってて! いいの! あたしの才能は一つじゃないから!」

 そう言うと春木はイスを手に持ち、部室の奥へと行く。夏野はハハハと乾いた笑いをしていた。

 初めて見るやり取りに冬草は倉井にそっと聞く。

「これはなんのコントだ?」

「桜ちゃんは吹奏楽部なんだ。補欠だから新しい楽器にチャレンジしてレギュラーを狙ってるの」

 倉井の答えに冬草は疑問に思った。

「つか、なんでここで?」

「さあ?」

 苦笑いで倉井が答える。


 イスに腰かけた春木がケースを開け中身を取り出す。

 そこには丸い小太鼓が出てきて、いそいそとセットする。

「これはスネアドラム。吹奏楽部には欠かせないリズムを刻む打楽器。あたしは太鼓の達人になる!」

 そう宣言するとスティックを握り、タッタカ、タッタカと叩いて練習を始めた。

「……」

 部員全員が無言で見つめる。とうとう吹く楽器をあきらめたのかもしれない。

 オホン! と咳をした葵が部員たちへと振り返った。

「さ、続きをしよう。幸い今回は高音でも低音でもない。微妙なリズムだが、慣れれば大丈夫だろう」

「いいのかよ、それで…」

 冬草は平然としている葵たちにツッコむ。


 とりあえず葵たちは話し合いを再開した。

 ときおりリズムが崩れたり、連打する音が聞こえるが、葵の言っていた通り、そこまで気にはならない。

 夏野が手を上げて提案してきた。

「はい! わたし、遊園地がいいと思います!」

「いや、空君。もはや地底とは関係ないよね?」

「そんなことないですよ。ほら! ここに巨大迷路を探検ってありますよ!」

「地上だよね? 地下じゃないよね?」

 夏野がスマホの画面を見せながら主張するのを葵がたしなめる。

 まったく話しを聞かない夏野をあきらめ、葵は倉井に振った。

「最中君はどう思う? 他に地底都市とかあるかい?」

「えっと、海さんと一緒に行きたいです」

「……」

 場所ですらない倉井の発言。しかも、照れながら告げる倉井に、葵は言葉が喉に詰まり無言だ。

「どこでもいいんじゃね? あたいは気にしないよ」

 冬草が助け船を出すと、それに乗った夏野がたたみかける。

「じゃあ決まりですね! やった! 遊園地ーーー!」

 嬉しがる夏野を前に葵は説得を諦めた。空君ってば、いつもそう……葵は押しの強い夏野に弱かった。


 と、そこに岡山(おかやま)みどり先生が部室に入ってきた。

「あら? 春木さんは楽器やってるのね」

「ミドリちゃん! 聞いてくれよー、次は遊園地になってしまったんだ」

 気がついた葵が助けを求めてみどり先生の元へと来た。

「いいわね! 岩手先生も呼んでもいいかしら?」

「ミドリちゃん……」

 両手を合わせて喜ぶみどり先生に、デートする気満々だなと葵は(あき)れた。

 ふと気がつくと太鼓の音がやんでいる。

 葵は部室の隅に目を向けるとドラムセットがポツンと置いてあるだけで、誰もいない。

 長机の方に振り向くと、春木が夏野や倉井と一緒にタブレットを見ながらワイワイと楽しそうにしている。

 葵が声をかけようと手を上げたところで、冬草がおもむろにドラムに近づいてスティックを拾うと、興味本位に叩き始めた。

 ぎこちない叩き方でリズムがまったくとれてない。

 それを見なかったことにした葵が春木に近づく。

「桜君! ドラムはどうしたんだい?」

「あきた」

「はい?」

「だから飽きたの! だって叩いてるだけじゃん! つまんない!」

 もう、何しに来たのか根本から否定する春木。もはや怒る気が失せた葵は一緒に楽しんだ方がいいとの結論に達した。

「いや、そういう楽器だし……仕方ない、とりあえず片付けて欲しい。そのうち、雪が壊しそうだ」

 言われて春木が部室の奥にあるドラムを見ると、冬草がノリノリでメチャクチャな乱打を1人、繰り広げていた。

「せんぱ~~~い! やめて~~~!」

 慌てた春木がドラムへとすっ飛んでいく。


 息を切らした春木がドラムをしまって、長机に戻ってくる。後ろからは冬草がストレス発散できて満足げな顔でついてきた。

 皆がそろうとお菓子の袋を開け、電気ポットでお湯を沸かしてお茶をいれるとくつろぎはじめる。

 タブレットで訪れる遊園地のホームページを表示させ、あれこれと期待と想像を膨らませて楽しむ。

 冬草は楽しそうに夏野らと話している春木を見て、コイツも行く気満々なんだと温泉のときを思い出していた。


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