45話 いないの?
放課後の地底探検部、部室の前。
生徒会長の秋風 紅葉は1つ深呼吸して、ドアノブに手をかけた。
「ちょっといいかしら?」
そういいながらドアを開けると、中にいた葵 月夜と冬草 雪が振り返った。
「紅葉!? いったい何の用だい?」
意外な人物に葵が驚く。そう、かって一度も生徒会長がこの部室に来たことがなかったから。むしろ緊急事態かと葵は警戒していた。
「ち、ちょっとプリントを渡すのを忘れてて。それで届けに来たの。生徒会長の私が直々に」
「そうかい。ありがとう、紅葉。言ってくれれば取りにいったのに」
「いえ、いえ。ちょうど手が空いてたから」
キョロキョロしながら秋風が部室へと入って来る。
秋風の行動を不思議に思ったが、葵は手を差し出す。
「プリントは?」
「えっ!? ああ、そうね。待ってて」
手に持っていた書類をまごまごしてなかなか取り出さない秋風。じれた葵が言葉を発する前に、秋風が思い出したように冬草に向いた。
「あなたは…?」
「なんだよ!?」
「彼女は冬草雪。我が部の新入りで大切な友達だよ。最近、転校してきたから紅葉は知らないだろうけど」
冬草がガンつけする前に葵が慌てて紹介する。なるほどと秋風は思い出す。
「あー、あなたね。葵にけしかけて返り討ちにあった噂の転校生って」
「おい!? 噂になってんのか!」
真っ赤になった冬草が驚く。ニヤニヤしている葵が黙って冬草の肩に手を置いた。
「なに、ニヤついてんだよ。恥ずかしいだろ!」
「フフフ、わたしは雪を一目見た時から思ったよ。これは、またとない逸材とな」
思わぬ告白に冬草はドキドキしながら聞いてきた。
「な、なんのだよ?」
「もちろん、ギャルだ。雪の細い足こそ短めのタイトスカートが似合うと…」
「お前、そんな目であたいを見てたのか?」
呆れた冬草が目を細めて葵を見た。だが、葵は気にしていないようだ。
「あなたたちを見ていると、この部がなんなのかわからなくなってきた。アホね」
そんな2人のやりとりをみていた秋風がため息をつく。
と、そこへ夏野 空と倉井 最中が部室へ入って来た。
「今日は早いですね。月夜部長、雪先輩!」
嬉しそうな夏野がパタパタと葵たちの元へ小走りでかけてくる。
そこに倉井を発見した秋風が頬を染めて近づいてく。
「こんにちは、倉井さん。久しぶりね。覚えてる? 生徒会長の秋風紅葉よ」
「あ、はい」
なんで自分に来たのかわからない倉井はあいまいに答えた。
秋風は倉井の手を持ち微笑む。
「今日はたまたま偶然、この部室に来る用事があって。そしたら、倉井さんとまた会えたので嬉しい」
「はい?」
どうなっているの? どう対処していいかわからない倉井は葵を見て目で助けを求めた。
ピンときた葵が近づいて秋風の手を外すと、耳元で囁く。
「最中君について情報が欲しければついてきてくれ」
ギョッとした秋風は倉井に会釈すると無言で葵の後について部室を出ていった。
ホッと胸をなで下ろした倉井がイスに座ると、すでに腰掛けていた夏野が興味津々に聞いてくる。
「生徒会長がなんで最中ちゃんに用があるの?」
「わからない。今日で会うの2回目なのに…」
困惑している倉井が答えた。
「ふん! どうせ一目惚れかなんかだろ?」
腕を組んだ冬草が言うと、夏野の倉井は目を丸くして注目してきた。
「えーーっ! ど、どどどどうしよう最中ちゃん!」
「わかんないよ空ちゃん……」
やたら動揺している夏野が驚いたままの倉井に聞く。立場が逆じゃね? 冬草は思った。
夏野が身を乗り出して、今度は冬草に聞いてきた。
「雪先輩ならわかります?」
「わかるわけないだろ! 一目惚れなんかしたことねーし。適当にあしらえばいいんじゃね?」
「その、あしらえ方を聞いてるんです!」
「わ、わかんねーよ。断ればいいんじゃね?」
何故か夏野に責められている気がしてきた冬草は冷や汗をかいてきた。なんでコイツはいつも強気なんだ? なんとなく葵が怖いと言っていたことに冬草は納得してきた。
イスに座り直した夏野がため息をつく。
「もー。何て言えばいいんですか…。『生徒会長はわたしを好きかもしれませんけど、お断りします』って? ちょっと自意識過剰じゃない?」
「あははは! あれだな、先手必勝ってやつ」
笑った冬草が答える。他人事の先輩にムッとした夏野が倉井に聞いた。
「どうするの最中ちゃん?」
「……とりあえずは現状維持。困ったら海さんに相談する」
不安そうに倉井は問題を先送りにした。
そこに葵がニヤニヤしながらプリントを手に持ち戻ってくる。なにかいいことがあったようだ。
すかさず夏野が葵に声をかけた。
「月夜部長! 生徒会長が最中ちゃんのこと好きみたいなんですけど!?」
「なんだ知ってるのか」
意外そうな顔で葵が答えると夏野が驚く。
「えっ!? 月夜部長は知ってたんですか?」
「うむ。部活の予算会議のときにピンときたよ。さきほども、ちょっとした話しをつけてきたんだ」
得意げに語る葵に珍しくプンプン怒った倉井が立ち上がって近づく。自分の事を勝手に交渉の材料に使われるのが嫌だったのだ。
「なにしてるんですか月夜部長! そういうのはやめてください!」
「違うよ最中君! 勘違いしている。わたしは紅葉に最中君はシュークリームが好きかもしれないと伝えただけだ。部に差し入れしてくれたら皆が喜ぶと付け加えてね」
「……あまりよくないですからね? 今回はしょうがないけど」
慌てて葵が説明すると、機嫌が直った倉井が弱々しく注意した。
食い物に弱いなー、あんたらそれでいいの? 冬草は葵の話しでニコニコしている倉井や夏野を見て思った。




