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44話 お昼だよ!

 深原(ふかばら)高等学校、2年B組の教室。

 冬草 雪(ふゆくさゆき)は、授業終了のベルが鳴ると同時に周囲に目を配る。

 ……いないな。同じクラスだが席が離れている葵 月夜(あおいつきよ)が、教室にいない事を確認するとホッと息を出した。

 転校して1週間。まさか数日で馴れ馴れしい人間に出会うとは思わなかった。

 自分がクラスで目立つ存在だと思ったが、葵も目立っていた。容姿的に。

 授業を見ていると、葵のまるで模範生のような振舞いに冬草は驚いていた。しかも学級委員長らしいし。

 観察していて特に人望があるわけでなく、周りの学生とは普通に話している感じだが、皆は一歩引いている印象を受けた。

 黙って黒板を見つめる姿は美人だ。茶髪の髪に耳につけている小さなピアスの横顔が雑誌に載っているモデルかと見間違う。

 その上、勉強ができるらしく、先生も特には注意していない。自分とは天と地ほどの差があるなと暗い気持ちで冬草は思っていた。


「雪! お昼だぞ!」

「おわぁああ!」

 突然後ろから声をかけられ、驚いた冬草がイスから飛び上がる。

 振り返ると葵がニコニコして嬉しそうにしている。

「ど、どどどこから来たんだよ!」

「うむ。背後から声をかけたら驚くだろうな、と予想して実行したところだ。実際、そうなった」

「わかってやってんじゃねえよ! バカ!」

「ところで雪、お昼はどうするんだい? 一緒に食べないか?」

「嫌だ! ふざけんなよ! これ以上一緒にいてたまるか!」

 急に立ち上がった冬草はダッシュして教室から出た。

 と、思ったら、ニコニコ顔の葵に首根っこをつかまれていた。

「それじゃあ行こうか。実は部室で(そら)君たちと食べているんだ。雪も部員だし、ちょうどいいだろ?」

「聞いてないのかよ! あたいはイ・ヤ・ダ!」

「そうか…ならしょうがない。行こうか」

 いやぁ~~と叫ぶ冬草を無理矢理連れていく葵。クラスの生徒たちはポカンと2人を見ていた。


 地底探検部、部室には夏野 空(なつのそら)倉井 最中(くらいもなか)がいて、ちょうどお弁当を広げているところだった。

「あ! 月夜部長! 雪先輩」

 嬉しそうな夏野が気がついた。

「もう始まっていたか! 遅くなってすまない!」

「大丈夫です。わたしたちもこれからだったんで」

 夏野は立ち上がると葵を自分の隣へと誘導する。冬草はしかたなく葵の対面に腰掛けた。

 いそいそと葵がお弁当を取り出すと、机の上に投げ出された冬草の昼食に驚く。

「雪! お昼はそれだけなのかい?」

「ん? そうだよ。文句あんの?」

 そこにはビニール袋に包まれたコッペパンとカレーパンがあった。信じられない顔をする葵。

「そんな食事だから雪は体が細いんだよ。見てご覧! 空君や最中君は愛情たっぷりお弁当でこんなに可愛く育っている!」

 急に褒められて隣の夏野は照れる。冬草はチッと舌打ちをした。

「雪のお母さんはどうなのかい?」

「うっせーよ! うちは片親なんだよ! お前のとこと違って忙しーんだよ!」

「それはすまなかった。そうだ! わたしが雪の分も用意しよう! それがいい! そうしたら楽だな。我ながら名案!」

 意外な事実を聞かされ、申し訳なさそうな顔で葵は謝る。だから、温泉の迎えに行ったとき、玄関には母親しか出なかったのかと思い出してた。

「はぁ!? なんでそうなるんだよ! いらねーよ!」

「ちょっとまって! わたしがもらいますっ!」

 冬草が怒鳴る中、慌てた夏野が立ち上がり参戦してきた。冬草の矛先が夏野に向く。

「お前は関係ねーだろ!!」

「めちゃくちゃありますよ! 雪先輩はずるい! 自分だけ月夜部長のお弁当作ってもらうなんて! わたしも欲しい!」

「いや、空君…」

「月夜部長のお弁当はむちゃくちゃ美味しいんです! それをむげに断るなんて! なにが気に入らないのか知りませんけど、人に当たり散らさないで! もう少し自分を見てくださいよー! だいたい、そんな格好しても自分自身は偽れませんから!」

 だんだんヒートアップしてきた夏野が葵の言葉をさえぎり続ける。

 最後の言葉が胸に刺さった冬草は、急に立ち上がるとイスを蹴っ飛ばして部室を飛び出した。ガシャガシャとイスが転がる音が響く。

「ゆきーーーーー!」

 葵が慌てて追いかけていく。

 部室には興奮している夏野と成り行きを見ていた倉井がポツンと残されていた。

 はぁ~~っと大きく息を吐き出し、気持ちを静めた夏野がイスに座ると頭を()れた。

「やっちゃった……言い過ぎたね、わたし」

「空ちゃん……」

 倉井が夏野の背中をさすりながら語りかける。

「帰ってきたら謝りなよ?」

「うん……」


 冬草の後ろ姿を追う葵は校舎裏で彼女を捕まえ、暴れないよう抱きしめる。

「雪! 空君は悪気があって言ったわけじゃないが、傷つけてしまってすまなかった! わたしからも謝るよ! だけど、雪ももう少し怒らないで言葉に出してほしい。そうじゃないと伝わらないよ?」

「うっせーバカ! 初対面からズカズカと遠慮無くきやがって! あたいの何が分かるって言うんだよ!?」

 冬草が葵の胸ぐらをつかんで叫ぶ。

「わからないから聞いているんだろう? 何が嫌なんだい? 友達だろ? まあ、この場合、嫌でも友達だけど」

「そういうところだよ! バカ………」

 葵の胸倉をつかんだまま冬草は顔をうずめ泣き始めた。

「ふふ」

 微笑んだ葵は泣きじゃくる冬草を優しく抱きしめていた。

 葵の豊かな胸に顔をうずめたまま冬草は、ポツポツと身の上を語りだし葵は黙って聞いていた。


 しばらくして部室に戻った葵と冬草。

 冬草の目は泣きはらして赤くなっていたが、どこかスッキリした表情で葵の隣に立っている。

 2人に気がつくと夏野は慌てて飛び出し冬草に謝った。

「雪先輩! さっきはごめんなさい! わたし言い過ぎました! その、傷つけて……」

「いや、いいよ。あたいも悪かった」

 頭をかきながら照れた冬草が答える。葵は2人を優しい目で見ていた。

 冬草が長机に向かう中、夏野は葵に近寄ってつま先立ちになり、耳元でそっと(ささや)く。

「ありがとうございます。本当に助かりました」

 月夜はニコッと微笑んで(うなず)いた。


「さ! 仲直りしたし、食事の続きをしよう!」

 葵が2人の肩を抱きイスに座らせる。倉井はモグモグとすでにお弁当を食べている。

 ちなみに蹴っ飛ばされたイスは夏野が元に戻していた。

 葵と夏野、冬草は3人でお弁当を分け合いながら食事をする。

 冬草は照れながら、葵と夏野からおかずをもらっていた。

 よく考えればこんな経験は初めてだった。前の学校ではいつも1人でいたから、誰かと一緒に食事なんてしたことがなかった。わだかまりが解けた冬草は、楽しそうに食事をする3人を見て口の端を緩ませていた。

 そこに微笑みながら葵が言ってきた。

「まあ、雪は思ったよりも乙女だな。空君も気をつけないと。繊細だからね」

「うるせーよ」

「そうですよ! なんだかんだ月夜部長が一番デリカシーがないです! もう少し気をつけてください!」

 冬草の軽めの返しに同調した夏野がたたみかける。

 思わぬ反撃に葵は笑って誤魔化していた。

 事の成り行きを見ていた倉井は、いい人たちに囲まれて自分は幸せだなと微笑んだ。


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