43話 湯上りだね!
温泉から上がった葵 月夜と冬草 雪は、夏野 空や倉井 最中、春木 桜と合流した。
普段通りの夏野の姿に葵はホッとする。ひょっとして自分が夏野を傷つけたかもしれないと思っていたから。
「空君、いきなり走り去ったからビックリしたよ。何かあったのかい?」
「何も無いですよ! そう、あのときは湯あたりしそうだったんで、ソッコー出たんです! わたしも一緒にいたかったんですけど残念です!」
「そ、そうか……」
焦る夏野は早口で言い訳し、葵は苦笑いで答える。聞いていた冬草は、んなわけねぇだろ! と心の中で突っ込んでいた。
なんとか誤魔化せた夏野は冷や汗をぬぐった。でも、湯上りの葵からいい匂いがほわんと流れてくる。
辺りを見渡した葵は岡山みどり先生と岩手 紫先生を探す。
葵の様子に気がついた春木が教える。
「みどり先生と岩手先生は2人で休憩スペースにいるよー。ずっと話しているのって凄くない?」
「そんな所にいたのか。しかし、桜君は詳しいね」
「へへへ。あたしと最中でずっと先生たちを見てたんだ。あれだね、みどり先生が奥手でさー、岩手先生もなんだか照れてて面白いの!」
聞いた葵は腕を組むと片眉を上げ、視線を向けると倉井は頬を染めて気まずく顔をそらした。
「うむ、そうか。だが、それはのぞきでは?」
「違うって! 確認だって! もし先生たちとはぐれたら大変でしょ? それに…興味あるし」
「なるほど、確かにその通りだ。次はわたしも参加するとしよう」
ニカッと葵が笑むと春木もニッと返す。夏野も、わたしもー! と手を上げていた。
こいつら…そろいもそろってミーハーだろ! 野次馬根性すぎる! 冬草は呆れていた。
葵たちが休憩スペースに向かうと、みどり先生と岩手先生が談笑していた。
全員が揃うと昼食に向かう。
10人ほどが座れそうなテーブルのある店へと入り、それぞれが注文する。
ちゃっかり葵の隣に座った夏野は気分よさそうだ。葵の横顔を見ながら匂いをスンスンと嗅いでいる。
皆の楽しそうな顔を見ていた倉井は、海さんも来てくれればよかったなと思っていた。
前に2人で行った温泉はとても楽しくて、いつまでも離れたくなかったから。
ふぅとため息をつくと先生たちの様子を羨ましそうに倉井は眺めていた。
次々に料理が運ばれ、ワイワイと賑やかに食べ始める。
腹が減っていた冬草は天丼をがっつき始めた。
「ふふ。雪は豪快でいいなぁ。わたしには無理だが」
「はぁ!? ふざけんな! 黙って食え!」
葵の言葉に冬草が怒鳴る。葵は笑いながら刺身定食を食べている。
そこにスパゲティをフォークで巻きながら夏野が口を挟んだ。
「雪先輩の方がうるさいです! 楽しく食べましょうよ!」
「ふん!」
冬草は残りを平らげ水をゴクゴクと飲んだ。
みどり先生と岩手先生は相変わらず2人の世界にいるようで、葵たちの事を気にしていない。
春木は興味深そうに倉井と一緒に、そのみどり先生たちを見ていた。
食事が終わると併設の物産館へと葵たちは足を運ぶ。
みどり先生と岩手先生は休憩スペースに戻ってゆっくりするようだ。
夏野は葵にくっついて店内を物色しながら回っている。
春木は適当にお菓子をいくつか買うと、すぐさま休憩スペースに戻ってみどり先生たちの死角から2人を見ていた。
そして、さまざまな商品の並ぶ棚を見ながら倉井は海へのお土産を探していた。
すると冬草が倉井の横に現れた。
「なあ、お前が一番まともだと思うから聞きたいんだけどさ…」
「お前じゃないです」
ぶ然と答える倉井。冬草は頭をかいて恥ずかしそうにする。
「も、最中に聞きたいんだけど…」
「はい。なんでしょうか?」
正解した答えにニコリとする倉井。安堵した冬草が続ける。
「えっと、この部って何だ? 今日だって部活じゃないだろ? 変だ!」
「ふふっ。そうですね、わたしも思います。でも楽しいから」
「なんだそれ!? 答えになてないぞ!」
怒る冬草にクスッと笑う倉井が続けた。
「部活はちゃんとやってますよ? 地下街や洞窟に行ったりして。あとは親睦会みたいな感じだと思う。わたしもこの部に入って浅いから……」
「んだよー。あたいとあんまり変わんないのかー」
再び頭をかいた冬草は情報の少なさに残念がる。そして、全く自分を恐れない倉井に感心していた。
「あ、でも、みなさんとても優しいですから。雪先輩も心を開いてくださいね?」
微笑む倉井にチッと舌打ちした冬草がポケットからマスクを取り出す。
「開きたくもねーよ」
そう言ってマスクをつけると、倉井に背を向けて歩いていってしまった。
フフと笑って見送った倉井は商品を再び選び始めた。
休憩スペースに戻ったみどり先生と岩手先生は、冷たい飲み物を手に空いているテーブルについた。
座って伸びをしたみどり先生が岩手先生を見て微笑む。
「今日はいっぱい話せてよかったです先輩」
「私も。こんなに話したのは初めてね。大学のサークルでも、あまり会話なんてなかったし」
「学校でも席は隣でしたけど、なかなか時間がなくて…」
「ふふっ、そうね。あなた去年までは2つの部活を掛け持ちしてたから大変だったでしょ?」
「好きでやっていたから平気でしたよ。でも、まさかミシン部の方が廃部になるなんて思わなかったけど……」
「地底探検部には葵さんがいるからねぇ。彼女って、とぼけた振りしてしたたかな感じがする」
「ほんとに!」
2人は笑う。
飲み物で喉を潤した岩手先生が続けた。
「大学のサークルにいたとき、あなたを見てたのに気がついた?」
「えっ、私を!?」
驚いたみどり先生が背筋を伸ばし、岩手先生は笑う。
「ふふふっ、だと思った。同じ学校に赴任してきたときは嬉しかった」
「いえ、だって、先輩はサークルで常にグループにいたじゃないですか? 私なんて高嶺の花だと思っていたのに」
慌てたみどり先生が聞く。気が動転して岩手先生の後の方の言葉を聞き逃していた。
ちなみに2人の入っていたサークルは手芸ハンドメイド。部員の9割が女子が占めていた。
当時、人気のあった岩手先生の周りにはいつも人だかりができていて、1学年下のみどり先生たちにはとても近づける存在ではなかったのだ。
その先輩がいる学校で偶然会って、まさか自分を見ていたと言われたみどり先生は戸惑っていた。
薄く笑った岩手先生はイスを少し移動させ、みどり先生に近づく。
「本当よ。離れてても、あなたを目で追ってた」
「……先輩」
頬を染めたみどり先生がうつむく。でも、内心では高鳴る胸を押さえていた。まさか、憧れの先輩が自分を気にしていたなんて夢みたいだ。
しかし、岩手先生は向こう側のテーブルで春木がこちらをガン見しているのに気がついた。イスを移動していなかったら気がつかなかったはず。
急に恥ずかしくなった岩手先生はコホンと咳をして誤魔化す。
「だ、だから、今日は嬉しかった。誘ってくれてありがとう、みどり」
「い、いえ。私も…」
照れたみどり先生が言葉少なく返す。フフと笑った岩手先生が顔を近づける。
「お礼に今度は私からランチを誘っていい?」
「はい! いつでも!」
顔を赤くしたみどり先生が笑顔で応えた。
その頃、葵は夏野に物産館を連れ回され、各種お土産を買わされていた。
やたらテンションの高い夏野に苦笑しつつ、葵は物産館を楽しんでいた。その姿は初めて葵の家に泊まりに来たときを思い出させたからだ。
バラバラだった皆は、やがて合流すると再びバスに乗り込み『丸のみ温泉』を後にした。




