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37話 どうして?

 地底探検部部室に葵 月夜(あおい つきよ)が入っていくと、部員の夏野 空(なつの そら)倉井 最中(くらい もなか)が既に席についていて彼女に顔を向けた。

「今日は二人とも早いな! って、どうしたんだい? 空君、なにか視線が怖いぞ」

 最初は楽しく言っていた葵だが、ジッと見つめる夏野は真顔だったのに気がつく。

 恐々としつつ葵が二人に近づいていく。

「な、なにかあったのかな? 空君も笑って? 最中君?」

 愛想笑いで聞く葵にユラリと夏野は席を立った。

「月夜部長。聞きたいことがあるんですけど?」

「ゴクッ。な、なにかな?」

 つばを飲み込んだ葵が答える。まったく身に覚えがないのに空君が怖い! なんでこうなったかと葵は思い出そうとしていた。

 近づきながら夏野は顔を見上げると葵に指をさした。

「それ! それです!」

「は? なんのことだい?」

「その口調! いつからなんですか!」

「ええっ!? わたしの口調がおかしいのかい?」

「おかしいっていうか変です! テレビやドラマの教授みたいな口調なんです。最初はあまり気にしてなかったけど、近ごろ急に気になって夜も眠れないんです。責任とってください!」

「いや、そう言われても…だいたいなんで責任をとることに?」

 あまりの夏野の責めにうろたえる葵。なんだかわからないが私が悪いみたいになっていると葵は(あせ)る。

 葵は視線を倉井に向けて助けを求める。が、倉井は微笑んだだけだった。口出す気は無いらしい。

 ズンズンと迫って来る夏野に後ずさる葵。なんで部長の私がこんな副部長に(おび)えなくてはならないんだ…理不尽に葵は心で泣いた。


 意を決した葵は迫る夏野の両肩をつかんだ。

「わ、わかった夏野君! 話すから落ち着こうね! とりあえず座ろう! ほら!」

 無理矢理、夏野を席につかせると反対側へ葵は回って座った。

「で?」

 一言、夏野が問う。

 とりあえず、解放されてはぁ~~っと安堵(あんど)のため息をつくと、葵は長机の上に手を組んで夏野と倉井を見た。

「わたしは変だとは思わないが、空君が聞きたいようだから話すよ。つまり、わたしは最初、(あかね)先輩にギャル語を教えてもらってたんだが、そのままだと芸がないのでアレンジして使っているんだ」

「はぁ!? 作ってたんですか? 元に戻ってくださいよ!」

 葵の話しを聞いた夏野が両手をついて立ち上がるの見て、慌てた葵が言い訳した。

「無理だよ空君。すっかり慣れたし、元の口調なんて思い出せないからダメなんだよ」

「……」

 ガーーン! ショックを受けた夏野がイスに再び座りうなだれる。

 えっ!? そんなに…? 夏野のリアクションに、むしろ葵の方がショックだった。

 ずっとワザと言っているのかと思っていたのに素だったなんて。中学の頃、生徒会長のときに聞いた言葉遣いとえらい違いだ。容姿だけではなく言葉も急激に変わっていったのか…夏野はどうしたらいいのかわからなくなっていた。

 葵は夏野の方へ行くと泣きそうな彼女を抱きしめる。

「…なにかすまない、空君。その…我慢してもらえないか? これもわたしの個性だと思ってさ」

 いつもならドキドキするのに今日は違う。なんか温かくて包まれている安心感がある。しかもいい匂いだし…夏野はさっきまでの落胆した気持ちが落ち着くのを感じた。

 このままずっとこうしていたいな…。そう思う夏野のことをはぐらかすように葵が身体を離した。

「怒ってない? 頼むよ~~空く~~ん」

 情けない顔で葵が言ってくる。

 それを見て、プッと吹き出した夏野は再び倉井の隣に座った。

 倉井が夏野を見つめる。その視線に戸惑う夏野が聞いた。

「な、なに?」

「空ちゃんてかわいいね」

 微笑む倉井。慌てた夏野が顔を赤くして言い返す。

「なんでよ!? 最中ちゃんの方がかわいいでしょ! もー、なんなのよー!」

 あははと倉井が笑い、夏野も乾いた笑いで応じる。

 そんな二人を見て、もう安心だと葵は冷や汗を(ぬぐ)った。ますます夏野に頭が上がらなくなっていく葵。もはや部長としての威厳はなくなっていた。


「よし! 問題も片付いたし、部活の話をしようか!」

 先ほどの事を無かったことにした葵が元気に声をかける。

 夏野の倉井は顔を合わせて笑う。

 と、そこへ顧問の岡山(おかやま)みどりが入って来た。

「みんな揃ってるわね。ちょうどいいわ」

「何かね? ミドリちゃん」

 せっかくいつもの部活動に入るところだったのに思わぬ横やりを入れられて葵はすねていた。

 ニコニコとみどり先生が皆に近づいていく。

「今度、引越しすることにしたの。それで人手が足りないんだけど…よろしくね!」

「よろしくね。じゃないよミドリちゃん! なんでわたしたちが!?」

「だって葵さん力持ちでしょ。それに夏野さんや倉井さんがいれば助かるし」

「わたしはか弱いんだぞ!? こう見えて!」

 すごく嫌そうに葵が言うとみどり先生がプイと横向いた。

「そう……じゃあ、しょうがない。教頭先生に言っちゃおうかな、化粧道具のこと…」

「ぐっ! よ、喜んで…」

 奥歯をかみしめながら葵が折れた。ぱあっと明るい表情でみどり先生が両手を握る。

「ありがとう! それじゃあ週末に駅前集合でいいかしら?」

「わたしらの予定は無視なのかい? ミドリちゃん!」

「よろしくね!」

 葵の言葉を無視してみどり先生が笑顔で手を握る。もうダメだ。何言っても聞いてくれそうもない。葵は諦めた。

 ルンルン気分のみどり先生は席につくとお菓子を広げ始め、倉井がお茶を用意しだす。

 夏野も参加して三人で楽しそうにお菓子を食べ始めた。

 君たち流され過ぎじゃないかな…夏野と倉井の様子を見て葵は思った。

 こうして地底探検部一行は、みどり先生の引越しを手伝うことが決定した。


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