34話 無理なものは無理!
放課後──
『地底探検部』部室のドアを開けた夏野 空と倉井 最中は中の様子を見て驚いていた。
部室の床に部長の葵 月夜が倒れていたからだ。
「つ、月夜部長ーー!?」
慌てて駆け寄った夏野が葵を抱き起す。体中を調べるがどこにも血は流れていないようだ。
ケガが無くてホッとした夏野が葵をゆする。
「月夜部長! 月夜部長ってば!」
「う……う…」
夏野の呼びかけに気がついた葵が薄目を開ける。
「あ…空君か。すまない。どうやら気を失っていたようだ」
ヨロヨロと夏野の手を借りて立ち上がる葵。
夏野が事情を聞いてきた。
「何があったんですか月夜部長?」
「うむ。それが、部室に1人でいたら、黒いあいつがいたんだ。またの名をゴキ○リともいうが」
不思議そうな顔をしている夏野を見て葵は続ける。
「つまり、恐怖で怯えたわたしは部室の隅へ逃げたんだが、ヤツが飛んで向かって来たのだ。さらに逃げている間、とうとうヤツがわたしを捕らえたそのとき、気が遠くなったわけだ」
呆れた夏野が葵の腕をピシャリと叩いた。
「そんなことで倒れてたんですか!? すごく心配して損した!」
「怒らないでくれよ~。苦手なんだよー」
情けない声を出しながら葵が夏野に迫る。
「空君だってゴキ○リは苦手だろう?」
「うっ…」
「ほれ、素手でさわれるのかい? ゴキ○リを」
「い、いえ…」
ぐぐっと顔を寄せる葵に視線を逸らす夏野。確かにゴキ〇リは嫌いというか気持ち悪い。だけど月夜部長には言われなくない…。
夏野は弱点だらけの葵に責められるのが嫌だった。これではいつもとは逆だ。
「あの~」
倉井の言葉に2人は同時に振り向く。
「これ、いましたけど…?」
葵たちに差し出される手には例の黒いヤツが握られていた。
「ひっ!!」
ビビった葵が夏野に抱き着く。夏野は役得とばかりにギュッとしていた。
「も、ももも最中君!? さ、さすが地底人だ…。わたしとは違うようだ」
「どうします?」
きょとんと聞いてくる倉井に青くなった葵が窓を指さす。
「いいから早く外に捨てて! 窓から早く! あと、窓は素早く閉めて~!」
キャーキャー言う葵をよそに倉井は窓を開けるとゴキ〇リを外に放り投げて閉めた。
トコトコと近づく倉井に葵は再び悲鳴を上げた。
「最中くーーーん! それ以上近づかないでくれぇええ! て、手を洗ってもらってもいいかな? お願いだ!!」
ギューーっと夏野にさらに抱きつき怖がる葵。
プフゥと笑った倉井は手を洗いにトイレへと部室を出ていった。
ゆっくりと夏野から離れた葵は額の汗をぬぐった。
「ふぅ。恐ろしかった…。地獄の片りんを見たな…」
ぐったりとイスに腰かけた葵に夏野が隣にくる。
「月夜部長…。ちょっと怖がりすぎです。そんなんじゃダメですよ?」
「だが、どうしてもダメなんだよ…もろもろが」
ガックシとうなだれた葵を見て夏野は立ち上がると冷蔵庫から水のペットボトルを取り出して差し出す。
「そんなに怖いのって、何かトラウマがあるんですか?」
「ありがとう。なに、たいした話じゃないが…昔、ちょうど同じような時期に家の裏手によくいたんだ。落ち葉が積まれたところがフカフカでわたしは夢中で遊んでいたんだ。で、ある時、ちょっとした好奇心で落ち葉を掘ってみたんだ。そしたら朽ちた葉っぱの他にゲジゲジがわんさか湧き出てきたんだ…。慌てて逃げようとして落ち葉をかき分けたら、そこにもゲジゲジどもが……」
話ながら思い出したのか自分自身を抱きしめて震え始める葵。
「月夜部長……」
そんな経験したらトラウマになること間違いなしと、一気に同情した夏野は座っている葵を抱きしめた。
「大丈夫です! わたしがいますから怖くありませんよ!」
「空君……。意味がわからないが、ありがとう」
安心したのか葵も夏野に身を持たせる。
これって合法的に抱き合えるチャンスじゃないの!? と、葵の頭をなでながら密かに夏野は興奮していた。
「あ!」
部室に戻って来た倉井は抱き合う2人を見てタイミングの悪さに慌てた。
「ご、ごめんなさい! い、いますぐ出ますから!」
顔を赤くして、くるりと背を向けた倉井に気がついた2人。
焦った葵が声をかける。
「ち、違うんだ最中君! これには訳があるんだ! 空君も助かったけど、もう大丈夫だから!」
夏野から身を離すと部室から出ようとする倉井を慌てて追いかける葵。
なんとか連れ戻して説明するとフフと笑って納得した倉井は夏野をチラリと見た。バツが悪そうな顔で苦笑いで返す夏野。
とりあえず落ち着いた3人は長机のイスに腰を降ろした。
葵の顔をジーッと見て倉井が質問する。
「月夜部長って苦手じゃないものってあるんですか?」
「普通は逆の質問じゃないかな最中君。だが答えよう。猫とか犬は大丈夫だ。あとは、怖くなければ平気だと思う……」
答えながらも尻つぼみになっていく葵に倉井はクスクスと笑う。
「海さんから聞いてましたけどカワイイですね」
「どんな反応なんだね? 最中君……」
なにがカワイイのかさっぱりな葵が困惑して呟く。
……やっぱり魔性の女だ。自分だったら怒っていたところを最中ちゃんは好意に変えている。
意外な女子力の差に夏野は愕然とした。といっても、この部室には女子しかいないが。
葵月夜の妹と親しくなっていた倉井は、姉の事を愚痴りながらも愛情のある海の話で、あれこれと姉妹について詳しくなっていた。
だからつい、姉を通して妹を想像すると可笑しくなってしまう。なんだかんだで仲の良い姉妹が倉井は羨ましく思っていた。
「おっと! もう、こんな時間か…今日は帰ろうか?」
時計を見て驚いた葵が2人に言う。
「そうですね。なんだか今日は疲れました。結局、騒いで終わったんで」
夏野が横目で葵を見ながらガクッと首を垂れた。ヒッと短い叫びを上げる葵。しばらくは夏野に頭が上がらなさそう。
「ふふっ。それでは早くしましょう!」
立ち上がった倉井が楽しそうに夏野と葵を立たせる。
3人は部室を出るとワイワイと話しながら学校を後にした。




