26話 お買い物
駅の出入り口の前──
おしゃれな私服で葵 海が1人、待っていた。
「海さーん!」
パタパタと倉井 最中が駆けてくる。
今日は私服のようで、可愛らしい服を着ている。
「お待たせしました?」
「そんなことないよ。まだ10分前だし。最中って几帳面だね」
笑顔で返す海。これでも年上として待たせてはダメだと最中は早く来たのだ。それでも海の方が早かったが。
倉井がショッピングモールに行ったことが無いと知って、海が案内してあげると休日に待ち合わせをしていたのだ。
「さ、行こうよ!」
「はい!」
2人は嬉しそうに互いに手を取ると電車に乗り込んだ。
電車を乗り換え駅を降り、バスに乗り継ぐと目的の施設が見えてくる。
倉井は目を輝かせて驚く。
「わぁ~。大きい!」
「そりゃ、この辺りで一番大きいイ〇ンだもん」
フフンと自慢する海。
そこは巨大なイ〇ンモール。県下最大の商業施設で、地元のテレビ局が何度も取り上げている。海も家族や友達とたまに訪れていたことがあった。
この2人の乗るバスはイ〇ン直行のシャトルバス。施設の目の前で停まり、乗客を降ろすとまた駅へと向かう。
イ〇ンモールの前に降り立った海と倉井は広々としたエントランスに入った。
「最中は見たい場所はある?」
「えっと、よくわからない…」
とまどう倉井に、海は入り口に備え付けられている館内マップを手に取ると彼女の前で広げる。
「この施設のマップだよ。今、この辺りにいるけど、どのエリアが見たい?」
「ふぁあー大きい! 今度は逆に迷うね?」
「ふふっ、そうね。じゃあファッションフロアに行こうよ!」
笑った海が提案すると倉井が頷く。
キョロキョロして物珍しそうにお店を見ている倉井の手を引いて海がフロアへと連れて行った。
2階にあるファッションフロアには有名ブランド店からカジュアルなセレクトショップまでズラリと並んでいる。
テレビなどの情報で知ってはいたが、実際に見ると圧巻だ。倉井は店の多さと人混みに、もう目がグルグルしていた。
海がヒョコっと首をかしげて聞いてくる。
「最中の好きな店とかある?」
「いえ…特には。あまり詳しくなくて」
「そう。じゃあ、適当に見よう!」
そう言うと海は近い店へ倉井と入っていく。
可愛いものや流行の洋服を手に取り互いに体に当てたりして2人は楽しむ。
いくつかの店を回り倉井に似合いそうな服を見つけた海は手に取って振り返る。
「ねえ、これはどう? って、最中!?」
そこにはいるはずの倉井がこつ然と消えていた。慌てて服を棚に戻すと海は辺りを見回す。
「うそ…どこ行ったの!? わたしがしっかりしとけば…」
倉井とはぐれないように気をつけなかった自分に腹を立てながら、海は人混みの中に彼女を探し始めた。
──ちょっと気になった服に足を止めて見ていたら、いつの間にか海さんとはぐれていた……。
倉井はどうしようかと困っていた。
すっかり浮かれていて、年下の海さんに甘えていたからかも…。だんだんとネガティブな思考におちいる。
人波に乗ってフラフラと進むと違うフロアへと踏み入れているのに気がついた。
大きい書店が目の前にある。奥行きがあり、無数の本棚が並んで商品を陳列していた。
…アパレルのお店はどこ? キョロキョロと辺りを見渡す。
どうすればいいのかわからなくなり、涙目になった倉井が呟いた。
「海さん……」
「もなかーーー! 見つけた!」
声にハッと振り返る。
人混みの中から海の姿を見つけると倉井の顔がみるみる笑顔になる。
倉井に駆け寄った海が手を握ってくる。
「よかった~~! 今日は絶対に離さないからね!」
「はいっ!」
ギュッと握ってくる海の力強さに倉井は嬉しくなる。見つけられてホッとした海は家に着くまでが戦場よと、覚悟を強めていた。
そして合流した2人は再び店を巡りだした。
雑貨屋に入ると倉井がリップクリームが並んでいるコーナーを見つけて選び始めた。
不思議に思った海が聞いてくる。
「最中ってリップが好きなの?」
「ううん。この間、月夜部長にしてもらってから気になってたの」
テスターを手に取り、クンクンと匂いを嗅ぎながら倉井が答える。
なぬ!? お姉ちゃんは最中になにしてんの!? どこにでも顔を出す姉に海はむかっ腹を立てていた。
海がこの場にいない姉に立腹している間、倉井は手に商品を持ちレジへと向かう。
あっと! またはぐれたらマズいと海もついていった。
店を出ると倉井は紙袋からリップを取り出す。
「はい、これ。海さんに」
「えっ!?」
驚きながら受け取る海に、もう1本同じリップを取り出して見せると倉井が微笑む。
「お揃いなんだ。ふふっ」
「し、しょうがないからもらっとく! なによー! 最中って意地悪!」
カーッと熱くなった顔で海がすねて、倉井はニコニコしている。
受け取ったリップを肩掛けカバンに入れながら海が倉井の手を引いて歩き始めた。
すると倉井が思いついたように言ってきた。
「あ、行きたいところありました!」
「えっ!? どこ?」
「あそこ!」
倉井が指さす先はフードコート。美味しそうな匂いが漂ってきてお腹を刺激する。
ああ、と海も気がついた。そういえばお昼がまだだったのを。
「しょうがないね。お昼はわたしがおごるから! いい?」
「はい!」
笑顔で頷く倉井。
思わぬプレゼントにテンション上がり気味の海は、お昼の他にデザートもおごっていた。
その後、2人はショッピングを楽しみながら、いくつかを購入してイ〇ンを後にした。
再び一緒に来る約束をして。




