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212話 告白するぞ!

 春木 桜(はるきさくら)吹田 奏(ふきたかなで)夏野 空(なつのそら)の家へ来ていた。

 この日は夏野のバイトがないので、学校が終わってから帰宅途中に寄った形だ。

 自室に飲み物を持ってきた夏野は待っていた春木と吹田へと差し出す。

 温かいお茶を飲み、おつまみのせんべいに手をのばして落ち着ける。

 ポリポリと食べ始めた春木と吹田に向けて夏野は覚悟を決めるて宣言した。

「わたし、明日、月夜(つきよ)先輩に告白する!」

「おー! やっとだ! 頑張って!」

「わぁ〜すごいです! いつ言うのかとドキドキして待っていたかいがありました!」

 パチパチと手を叩いて喜ぶ春木と吹田。特に事情を長いこと知っていた春木は感慨深げだ。

 そう、明日は卒業式。三年生は学校からそれぞれの進路へ向かって旅立つ日。

 この日を逃せば高校での告白チャンスは永遠にない。

 なかなか奥手の夏野だったが、さすがに後がないと一大決心をしたのだ。

 春木はお菓子をつまみながら思った。長かったなぁ、と。

 入学してからずっと聞かされていた葵 月夜(あおいつきよ)の恋心にやっと決着がつくようだ。あれこれ相談されていた身としては、肩の荷が下りた気分。

 仲がいい二人のことだから大丈夫だと思うが、万一の場合はお互い(はな)(ばな)れになるのでショックは少なさそうだ。

 一方、吹田はずっと夏野と月夜が付き合っていると勘違いしていたので、やっと正式になるんだなと楽観的に喜んでいた。


 そんな春木と吹田の態度に気を良くした夏野が続ける。

「それでは計画を発表するね」

「「おー!」」

「チャンスは一度きりだから、やっぱり式が終わった後がいいと思うんだ。それで月夜先輩を校舎裏に連れていって(こく)るつもりなの。どう?」

 真剣な表情の夏野に春木は親指を上げてにかっとする。

「いいんじゃないの! いけるよ!」

「わぁ〜! なんだか今からドキドキしちゃいそうですね!」

 吹田にいたっては聞いた感想だ。

 それでも二人が夏野を応援している姿勢に夏野は勇気づけられる。

 夏野はすくっと立って拳を突き上げた。

「明日はやるぞぉーー!!!」

「「ファイト〜〜〜!!」」

 つられて春木と吹田も拳を上げた。


 ──翌日。

 快晴な空の下、深原(ふかばら)中学校・高等学校の門には、『中学校・高等学校合同卒業式』と飾り付けられた看板が立っている。

 在校生たちが門を抜けて学校の教室へと向かう。

 教室では式の始まる時間までのミーティングがそれぞれ行われており、先生と生徒が最後の別れの挨拶を交わす場だ。

 月夜や冬草 雪(ふゆくさゆき)秋風 紅葉(あきかぜもみじ)は楽しそうに雑談を交わしている。

 そんな中で月夜は冬草と秋風の雰囲気が変わったことに、おやと気がついた。

 前までは冬草に遠慮がちな部分が見えていたのが、すっかり無くなっている。秋風の手も自然と冬草にふれているのに気にした様子もない。

 何かあったなと思う月夜であったが、それがなにかは不明だ。下手に聞いても無粋だろうと月夜は流していた。

 やがて担任が現れて生徒たちへこれからの流れを説明し、卒業するにあたって別れの言葉を述べる。

 中学と高校を合わせた六年を通った生徒、転校して期間の短い生徒もいる。それぞれの胸に学校の思い出がよみがえっていた。

 感極まって泣く生徒もいるし、楽しそうに笑う生徒もいる。だけど皆の顔には充実した学校生活をおくっていたのがうかがい知れた。

 もちろん月夜たちは楽しそうにしている方で、笑顔で話している。

 親しげな冬草と秋風の様子を見ていた月夜はふと思った。紅葉が外国へ出たら雪は寂しいだろうと。どこか外へ連れ出すのもいいかもしれない。

 そうしている内に体育館へと向かう時間になり、教室の生徒がぞろぞろと向かう。


 体育館に集合すると合同卒業式が(おごそ)かに始まった。

 先生の挨拶にはじまり、に卒業証書が手渡される。そして校長の式辞に生徒代表による門出の言葉が送り出される。こうしてつつがなく式は終了した。

 長いようで短い学校生活の終わりを噛みしめる生徒たち。体育館から出た生徒たちはすぐに帰宅する者、校庭で後輩と言葉を交わす者たちなど思い思いに最後のときをすごしていた。

 月夜たちは地底探検部の顧問の岡山(おかやま)みどり先生に挨拶をしている。

「それでは部のことはよろしく頼む」

「他にないの? お疲れ様とか? ありがとうとか?」

「うむ。ミドリちゃんにはこれからも頑張ってもらわないと困るからな。それにOBとしてちょくちょく来そうだし」

「それはそれで頭が痛くなりそうだけど」

「わははは。安心してくれ、悪いようにはしないよ」

「最後まで変わらなくて安心した」

 いつも通りの月夜に苦笑するみどり先生。変に湿った空気より、これはこれでいいのかなとみどり先生は思った。

 そんな中、夏野たちが駆けつけてきた。

「月夜先輩〜〜! 卒業おめでとうございま〜す!」

「空君! わざわざすまないな」

「いいえ。学校で会えるのがこれで最後だし、ちゃんとお祝いしたいですから」

「そうか。ならよかったよ」

 ニコニコしている夏野を見て月夜はほっと胸をなでおろした。前のように泣きつかれたらと思ってそわそわしていたのだ。

 春木や吹田、倉井 最中(くらいもなか)に月夜の妹の(うみ)も来て場が賑やかになる。

 皆で楽しく話していると夏野が月夜の袖をちょこんと引っ張ってくる。

「ん?」

 顔を向けた月夜に夏野がこそっと話してきた。

「あ、あの…あとで校舎裏にき、きてもらっていいですか?」

「うむ。あとでだな」

「はい! 絶対ですからね?」

「う、うむ」

 なにか最後は脅迫めいた感じに月夜は不安を覚えつつ言葉を返す。何かしたかなと思ったが最近は良好な関係だったはずだ。

 そんな月夜の心配をよそに返事を聞いた夏野は笑顔で倉井たちと話し始めた。


 一通り挨拶も終わり、帰宅しようとの流れになった。

 いつのまにか夏野の姿が見えないのを確認した月夜は、すでに校舎裏へ向かっているのだろうと少し(あせ)る。

 このままでは倉井と海と一緒に帰ることになりそうなので、適当に忘れ物をしたと言い訳して先に行ってもらうことにした。

 校舎裏へ月夜が向かうと思った通り夏野がすでに一人立っていた。

「すまない空君。なかなかきっかけがなくてね」

「い、いいえ、大丈夫です」

 なぜか緊張気味な夏野に月夜は不思議に思い、首をかしげる。

 覚悟を決めた夏野がぎゅっと両手を握って伏し目がちに口を開いた。

「あ、あのっ。あの。つ、つつつ付き合ってくださいっ!!」

「もちろん。そうだと思ったよ」

「はぇ!?」

 月夜の言葉に顔を上げて驚く夏野。思った以上にすんなりと返事が聞けて拍子抜け──

「前に言っていたろ? 鍾乳洞の秋芳洞(あきよしどう)に行く約束をしていたじゃないか。このタイミングだということは春休み中に実行するつもりだな。そんなにかしこまることではないと思うが、私はいつでもいいぞ」

 にこりとする月夜。なんの疑いもなく自分の言葉を確信しているようだ。

 違うよ! そっちの付き合うじゃないよ! ちゃんと空気読んで! そう口に出かかった夏野は、

「そ、そうなんですよー。あんまり皆の前で話すと大きくなりそうで怖かったんですー」

 エヘヘと愛想笑いで誤魔化す。みごとにひよった。

 そう、べつに今でなくてもいいじゃないかと夏野は自分に言い訳を始めた。

 よく考えたら同じ大学に行くつもりだし、まだバイトも一緒だ。つまりあと五年は大丈夫なはず。その間にいい感じで告白しても遅くはない。たぶん。

 そう考えた夏野はちょっと心が軽くなった気がした。それに一緒に旅行ができるのだ。今はそれで十分幸せだ。


 結局、月夜と夏野は旅行の話で盛り上がってしまう。

 夏野は元々行きたかった場所だし、月夜は初めて行く山口県に興味津々だ。

 だが、夏野がふと校舎の角に視線を向けたとき、多数の頭があることに気がついた。

 よく目を凝らすとみどり先生をはじめ、地底探検部の部員たちが全員揃ってこちらを(のぞ)いてる。

 きっと春木が言い回ったに違いない。

 全員がガッカリした表情で夏野を見ていた。つまり、皆は期待していたようだと夏野は冷や汗をかいた。

 なんだか恥ずかしさと期待にそえなかった恐縮とで夏野の耳は真っ赤になった。

 それでも月夜の笑みに癒される夏野であった。


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