213話 3年後
バタバタと忙しなくネイビー色のドレスを着た夏野 空が部屋のドアを開けた。
「先輩! 準備は出来ました?」
「う、うむ。ちょっと待ってくれ」
そこには下着姿の葵 月夜が慌てて髪を直しているところだ。
肝心な夏野とお揃いのドレスはベッドに放り出したまま。
それを見た夏野はぷんすかと怒った。
「もー! 手伝うから早くして! このままじゃ結婚式に遅れちゃいますよ〜!」
「むう。わかっているがこ、このウェーブが難しいのだ」
カールアイロン片手に月夜は髪型のセットに四苦八苦しているようだ。
しょうがないなーと言いながら月夜からカールアイロンを奪った夏野が、かわりに髪を巻きはじめた。
「すまないな空。まあ、私よりずっと上手だからな」
「おだててもダメですからね。わたしが髪をしているうちに顔の方を仕上げてください」
「お、そうだな」
にこにこしながら月夜が化粧道具に手を伸ばす。怒ったフリをしていた夏野も楽しそうにしている。
少し顔立ちが大人になった月夜とあまり変わらない夏野。こうして二人は作業を続けた。
高校を卒業後、県立大学へ進学した月夜を追いかけ、夏野も同じ大学へと進んだ。
そのあと、大学一年の終わりになんとか誤解されないように告白して、夏野と月夜は付き合うことになったのだ。
しかもマンションの部屋を借りて同棲までする始末。あの奥手だった夏野とは思えない進み具合だ。
きっと高校に残されて悶々としていたのだろう。会えない時間を埋めるように夏野は月夜にべったりだった。
やっとくっついた二人に、遠くから見守っていたツキネはほっと胸をなで下ろしていた。
いつか月夜たちが地元の家を継ぎ、土地に根ざすしていくのだから。黄金の尻尾を揺らしてツキネは目を細める。
二人のいるマンションを眺めていたツキネは、そっと立ち上がると風と共にその場から吹き渡っていった。
きちんと支度をすませた月夜と夏野は時計を確認してほっと胸をなで下ろす。
まだ時間に余裕はあるが、ぐずぐずしていると本当に遅れることになりそうだ。
「忘れ物はないですね。では行きましょう!」
「おー!」
二人はマンションの部屋を出て行った。
この日は高校の部活の顧問だった岡山みどり先生と岩手 紫先生の結婚式。
式場は離れた場所にある専用の建物で、電車を乗りつないでいく。まだ二人とも車の免許を取得していないので移動はもっぱらバスか電車だ。
月夜と夏野はやや早歩きで駅へと向かう。
「しかし、やっと結婚とは。あの二人も長いお付き合いだな」
「ふふ。でもいいじゃないですか、それだけ好きあってるんですから」
「それもそうだな」
笑い合う月夜と夏野のスマホが同時に鳴った。
これはLI◯Eの着信音。
二人はバックからスマホを取り出し画面を見た。
「海ちゃんと最中はぎりぎりみたいですよ」
夏野のスマホには葵 海からのメッセージがきていた。
倉井 最中は生物学、海も地学のある関西の大学へ進んだ。
同じ関西でも大学の立地が別なので、お互いの中間地点にある部屋を借りているようだ。もちろん同居である。
こちらはまだ告白とかはしていないようだが、周りの目にはもはや付き合っているようにしか見えない。
なんとなくなし崩し的になりそうだ。そのまま同棲して結婚しそうではある。
そんな海と倉井のLI◯Eに微笑む夏野。深原市から遠方なので、久しぶりに会う二人の姿を想像していた。
一方、月夜のスマホには冬草 雪からきていた。
「ふむ。雪と紅葉は車で向かってるそうだな。サプライズでスイーツを持っていくそうだ」
「わぁ〜! いいですね! きっと新作ですよ。楽しみ〜!」
嬉しそうに月夜の手を握る夏野。少し照れた月夜が笑って誤魔化す。
恋人同士のスキンシップに慣れない月夜はすぐに照れてしまう。そんな月夜が可愛くて夏野は積極的にふれ合うようにしていた。
パティシエの修行から帰国した秋風 紅葉はすぐに冬草と籍を入れて母のスイーツ店を継いだ。あまりの素早い行動に周りは唖然としてたほど。
それまで工場に勤めながら秋風の母を手伝っていた冬草は、結婚すると退職して秋風と一緒に店を切り盛りしている。
店の評判は上々で、秋風が海外で学んだ修行の成果が出ているようだ。雑誌やメディアで紹介されるほど、休日にはちょっとした行列ができる人気店で支店も増えている。
月夜と夏野はたまに店に訪れたり、休店日に会ったりと交流は続いている。外国に行ってますますアピールが大げさになっている秋風に二人は苦笑しているが。それでも幸せそうな秋風と冬草にほっこりしていた。
夏野と月夜は手をつないで駅に向かう。
駅前では春木 桜と吹田 奏がおそろいの色違いのワンピースを着て待っていた。
「遅いよー! 早く、早く!」
手をぶんぶん振って夏野たちを急がせる春木。
パタパタと早足で夏野が月夜を引っ張って近づいた。
「ごめん〜。待った?」
「待ちくたびれたよー。L◯NEしても既読しかつかないし。返事してよー」
「忙しくて確認しただけだった。ごめんね」
「来たからいいけど。とっとと行くよ!」
「だね」
笑って謝る夏野に、しかたがないなと苦笑で返す春木。その横で吹田は手を振って月夜に挨拶している。
春木と吹田は月夜と夏野のいる同じ大学へ進学していた。
月夜は大学でも地下世界探索サークルを立ち上げ、春木と吹田も所属していた。もちろん夏野も一員だ。
高校のときとあまり変わらないサークル活動をしているが、さすが大学生だけあって行動範囲が広くなっている。
北海道から福岡へと全国地下街ツアーなどを企画し、一般の学生からも同行者を募集したりしてサークル活動を広めている。
吹田は吹奏楽部を兼任していて得意なトランペットを吹いて活躍している。さすがに春木は楽器を諦めたようだが。
付き合いの長い四人の関係はとても良好。ただ、吹田はいまだ春木に想いを告げていないのが、今のところの心配事だ。
その場と関係なく思い出したように月夜はスマホを取り出した。
「そういえば川岸さんから連絡がきたぞ」
言いながらスマホ画面を皆に見せる。
そこにはオリジナルキャラのアバター二人がひょこひょこ動いてフリートークをしている映像があった。
「あー、そういえば言ってましたね。Vtu○erをやっているって」
思い出したように夏野は配信動画に注目している。
「そうなのだ。どうやらアイドルグループを脱退して川岸さんと蟹屋さんとペアを組んで中の人をやってるそうだ」
「へ〜。初めてビジュアル見ましたけど、どっちが誰かわかりませんね」
「うむ。声質が似ているから判別が難しいのだ。だから気にしないようにしている」
「いいんですか、それで?」
月夜と夏野の見ている画面には二・五次元キャラが楽しそうに会話している。
以外と好評なようで、再生回数もなかなかのものだ。今のところは成功してていい感じ。
とりあえず月夜は集まった四人をスマホで写真を撮ると、そのまま川岸へ送信した。動画のお礼と短くメッセージをのせて。
四人は電車に乗り込むとシートに座り一息いれる。この時間なら式場には間違いなく間に合う。
落ち着いたところで夏野が春木に話しかけてくる。
「ねえ聞いてよー」
「いやだ」
「な、なんで!?」
「なんでじゃないよ。いっつもお惚気話じゃん」
「そんなことないし。この話は違うから」
「いや、わかる。最初は月夜先輩のグチを言ってて、最終的に惚気るんだよ毎回」
「聞かないとわかんないよ? 聞いてみようよ」
「それなら別の話がいいなー」
「最近付き合いわるくない? 前はもっと聞いてくれたのにー」
「ふっふっふ。そりゃ大学生だもんね。大人になったってことだよ。さすがあたし」
「一年ぐらいじゃ変わらないよー」
「間に私がいるのだが。そういう話は本人のいない場所でするものじゃないかね?」
夏野と春木に挟まれて居心地悪そうに月夜が注意するが、まるで聞いていないように押し問答をしている。
どうやら月夜と付き合っているのが嬉しい夏野は、ことあるごとに春木に二人の関係を話しているようだ。
耳にタコができてうんざり気味の春木と聞いてもらいたい夏野。毎度のことに吹田はクスクスと笑っている。
そんな二人を見て、楽しそうだからいいかと息をはいた月夜は夏野と握っている手を見た。
みどり先生たちとも会うのも久しぶりだ。
高校を卒業してからは夏野たちに会いにたまに顔を出していたけれど、妹が進学してからはあまり行かなくなった。
懐かしの地底探検部はかろうじて存続しているようだ。これも妹の海が部員をかき集めてきたからだが。まめで面倒見がいい海は後輩たちに連絡をよくしている。
部活動も今はゆるい感じで街ブラしたりハイキングをしたりして、楽しみながら行っているようだ。もはや部の目的とは遠いところになっているが。
しかし、前もそんなに変わらなかったなと月夜は思い出して苦笑していた。
自由に楽しめればそれでいいのかもしれない。大学のサークル活動も似たようなものだし。
気がつけば夏野と春木は、吹田を加えて違う話題で盛り上がっている。
このときを待ってましたと月夜も加わり、にぎやかに式場へと向かうのであった。
更新が遅くてすみません。
そして、この話で完結いたしました。
いままでお読みいただきありがとうございます。
最初は気が向いたときに書いていければいいなと始めましたが、いつの間にか5年近くたってました。
最後の方は話が思いつかなかったりと自身の発想力のなさにガッカリですが。
それでも最初と最後の構想は元々あったので、比較的楽に落ち着きました。
お付き合いいただいた方々へ本当にありがとうございました。
他の作品も楽しんでお読みいただければ幸いです。
だもん




