211話 いつのまに!?
チュンチュンチュン……
小鳥の鳴き声にはたと目を覚ました冬草 雪は、窓から射す朝日のまぶしさに目を細めた。
「朝?」
つぶやきつつ、もぞもぞと体を動かす。ベッドの上でまだ眠気が取れず、毛布の暖かさが身にまとわりついている。
今日は学校だったっけ? そう、ぼんやり眠そうな目で考えているとパタパタと足音が聞こえた。
「雪まだ寝てるの? 朝ご飯できたから早く起きて!」
秋風 紅葉が声をかけて冬草の顔をのぞき込む。
「起きてるよ」
そう返してむくりと上半身を起こす。
はらりと布団がめくれると、白い素肌が現れた。そこには一糸まとわぬ冬草の姿があった。
「うっぉおお!?」
かーっと身体中を赤くしながら、あわてて布団を身にまとう。
ベッドの横でニコニコして立っている秋風をギロリと目を向ける冬草。
「見たな?」
「何を? 雪の裸なら昨日からずっと見てたけど?」
「ふぁっ!?」
驚きに目を開く冬草を秋風がクスクス笑いながらベッドに腰を落とした。
「覚えてないの? あ、でも雪ってあんまりにも感じすぎて気が遠くなったんだよね」
「あがぁ!?」
冬草の見開いた目に加えて口が大きく開いた。顔が赤みを通り越して紫色になってきている。
「そんな変な顔しないでよ。しょうがないなー」
笑いながら立ち上がった秋風は、たたんであった冬草の下着と寝巻きのスウェットを持ってくる。
そんな様子を見つめながら冬草は昨夜のことを思い出していた。
◇
借りていた家の契約を解除して、もろもろの手続きを終えて無事に引越しが終了し、冬草親子が秋風の家へと移ってきた。
何度も訪れているため間取りはバッチリ知っている冬草だったが、秋風の隣の部屋だったために緊張気味だ。
母も対面の部屋に越してきているとはいえ、環境の違いになれていない。だけど恋人と同じ部屋にならなくて少しほっとしているのも事実。
新しい部屋できちんと自分のものが収まっているのを確認した冬草はリビングへと向かった。
この日はちょっとした引越しパーティーをする予定で秋風親子と共同で準備をしていたのだ。
リビングのテーブルには料理やケーキが並んでいる。
早く帰宅した秋風の母も張り切って腕を奮っている。その横で娘の紅葉と冬草の母が楽しそうに肩を並べていた。
遅れてきた冬草に気がついた秋風が声をかける。
「雪。ちょうどできたのがあるから持っていってくれる?」
「おう」
料理が盛られた皿を受け取った秋風がテーブルへと運ぶ。白身魚と野菜の黒酢あんかけのようで、美味しそうな匂いが立ち込めている。
空いたスペースに置き、テーブルに並ぶ唐揚げやポテト、煮物などの料理を整理する。
そうしているうちに調理を終えた秋風や母二人が料理と飲み物を手にして来た。
「それじゃ、始めようか」
秋風の母が声をかけてイスに座ると、それぞれが腰を降ろした。もちろん秋風は冬草の隣だ。
皆がコップを手に乾杯してパーティーが始まる。親二人はビール、娘たちは未成年なのでウーロン茶を飲む。
ささやかだけど、温かいもてなしに冬草親子は楽しそうで、新しい家族に秋風親子も嬉しそうにしている。
いつも以上にお酒を飲みすぎた秋風の母が酔いつぶれて、早々にベッドに運ばれる。明日は間違いなく二日酔いだ。
三人はしばらく続きを楽しんで片付けをする。
冬草親子が多少遠慮気味なのは初日だからだろう。一週間を共にすれば硬さもなくなり馴染むに違いない。
そんな冬草たちを優しい目で迎える秋風。みんなが仲がいいのを微笑ましく見ている。
お風呂も入ってさっぱりした冬草は、なんとなく秋風の部屋にきていた。
ベッドの上に座る冬草の隣には秋風がいる。
「今日はありがとな。こんなに歓迎されて嬉しいよ。ママも喜んでた」
「当たり前でしょ。義母さんになる人だし、雪はお嫁さんだし」
「よ、嫁って……」
秋風の言葉にびっくりした冬草が顔を向けた。確かに付き合っているが『嫁』とは飛躍しすぎじゃないかと。
にやりと意地悪く笑った秋風が見つめ返す。
「違う?」
「い、いや。そうじゃないけど……」
「言い方が嫌なら奥さんにする? それともバートナー? うちの人?」
「うぁーーー! 言い方じゃねぇよ!」
恥ずかしさマックスな冬草が顔を真っ赤にさせて声をあげる。
クスクス笑った秋風が身を預けてきた。
「好きに言ったらいいじゃない? 私も奥さんでもいいし、妻でもいいよ」
「そうじゃなくて気が早いっていうか。なんていうか……」
気恥ずかしい冬草が明後日の方に顔を向けている。耳まで真っ赤なのでまるわかりだ。
冬草の早い鼓動を感じながら秋風は密着して嬉しそうにしている。相変わらずの愛が重い。だが、冬草もまんざらでもなさそうなのも変わっていないようだ。
しばらく無言で甘い時間をすごしていると冬草がぽつりとつぶやいた。
「あと、どれくらいこうしていられるんだろうな」
「……そうね」
学校の卒業はすぐ目の前だ。高校を出たら冬草は社会人に、秋風はパティシエの修行に旅立ってしまう。
先のことを考えると寂しくなってくる。いつもの当たり前が変わってしまうから。
秋風のからかうような顔もすぐに求めてくるように密着してくるようなことも、しばらくはおあずけだ。せっかく新しい場所でやり直して幸せになった気分でいたのに、また遠くなっていくような気持ちになる。
孤独感に身を震わせた冬草は、温かさを求めて秋風を抱きしめた。
「紅葉がいないと寂しくなるよ……」
黙って抱き返す秋風は離したくないように手に力を込めてくる。
二人は抱き合ってベッドに横になった。
「雪……」
秋風が顔を寄せてキスをしてくる。
それは情熱的な激しさで冬草は一瞬で目を閉じトロンとなった。まるで寂しくなったスキマを埋めるように冬草も応えていく。
優しくそっと秋風が冬草の服に手をかけ、するりと脱がしていく。キスに夢中な冬草は気がついていない。
秋風の指が冬草の身体を愛しそうにふれた。
「んん」
敏感に反応した冬草が声をだす。
これ以上は待ってくれと言えないでいる冬草を見透かすように、秋風の指が身体のあちこちにふれてくる。
鼓動の音が大きく響き、体が熱くなる。完全に冬草は秋風を受け入れ入れるように力を抜いた。
そんな冬草を全身で愛し始めた秋風。
こうして二人は肌を重ねひとつになった。もちろん途中で冬草は気が遠くなっていたが。
◇
思い出した冬草は全身が赤くなる。
そうなのだ。とうとう昨夜は秋風念願の愛し合うことが成就したのだ。決して冬草が流されたわけではないはずだ。
冬草はいそいそと毛布をまとって下着と服を着ると、ニコニコして待っている秋風と並んでリビングへ向かう。
「今日は一緒にお風呂に入ろうね」
「……おう」
秋風の言葉にうつむきながら応える冬草。恥ずかしいけど嬉しいような不思議な感覚だ。
一線を越えたせいか、あまり抵抗感がない。
嬉しそうに秋風は冬草の頬にキスをした。
ちなみに朝食に集まっていた二人の親から小言を聞かされた。
冬草の声が大きいから、もうすこしボリュームを下げてくれと。どうやら冬草と秋風の交わりは筒抜けだった模様。
二人は真っ赤になって謝った。
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