206話 バレた?
地底探検部の部員たちは厳しい寒さに耐えられず、部室から移動していた。
困り顔の岡山みどり先生が職員室の自分の机についている。その後ろに部員たちが並んでいた。
「これって何?」
「ミドリちゃん。我々は気がついたのだよ。部室より職員室の方が暖かいと。なんてたってエアコンがあるからな」
てっきり迎えに来たと勘違いしていたみどり先生だったが、代表して葵 月夜にこう言われてはしかたがない。
とはいえ、他の職員から注目されているのはマズイ。どう考えても顧問のみどり先生の責任だ。
なんとか別の場所に誘導できないかと考えを巡らせたみどり先生。
「たとえば職員室ではなくて、視聴覚室はどう?」
「鍵がかかってて入れなかった。ミドリちゃんが鍵を借りてくれるなら別だが……」
「無理でしょ。だって別に用事がないじゃない? それでも部活に関連したことなら使用許可がおりるかもしれないけど」
その言葉を聞いた夏野 空が元気に手を挙げた。
「はい! はい! ありますよ、ちょうどいいのが! 洞窟探検ドキュメントが! それを見ながら研究するって名目でどうですか!」
「おおー! 空君は冴えてるな!」
「えへへ」
月夜に褒められ夏野が喜んでいる。
そんな大きな声で言われたみどり先生は涙目だ。この職員室にいる先生たちに知れ渡った行き当たりな計画を教頭先生に言いに行くのだ。
「あのね夏野さん、そういうことはこっそり言ってくれると嬉しいのだけど……」
「あっ!? す、すみません! つい」
「まー、そう言わないでくれミドリちゃん。空君も悪気があったわけじゃないんだ。むしろ部長として積極的に部に貢献して素晴らしい」
「えへへへ」
またまた褒められた夏野がだらしない顔で照れている。
この新旧部長コンビはまったく食えない二人だ。根はいい子だが、月夜は見た目ギャルなのに理屈っぽいし、夏野はいつも元気でど直球な性格だ。
この二つが合わさるとみどり先生は流されていくばかりである。もっとも今までも流されっぱなしだったが。
それに他の部員たちの期待に満ちた視線を受け、みどり先生はため息をついて立ち上がった。
なんとか恥ずかしさを我慢して鍵をゲットしたみどり先生は、視聴覚室のドアを開けると部員たちへ解放した。
鍵を借りようと教頭先生の机に向かうと、無言で渡されたみどり先生。教頭先生の顔には後で話がありますと書いてあった。
返すときに説教があると思うと気が重いみどり先生であった。
それでも部員たちは嬉しそうに、ひんやりする視聴覚室に入ると真っ先にエアコンに向かっていった。
エアコンの運転を開始し、設定温度を上げる。暖かな強風が吹き始めた。
ほ〜っとした部員たちだが、まだ寒いので皆で固まっている。もちろんみどり先生もその中にいた。
しばらくして部屋が暖まってきたところで夏野が動いた。
「それじゃあ、セッティングしますねー」
黒板の上にあるスクリーンを下ろし、機材を立ち上げる。なれた手つきにみどり先生はいつの間に覚えたのかと不思議に思った。
それよりも夏野は職員室で言っていたことを本当に実行するようだ。
視聴覚室に備え付けのパソコンで目的の動画を検索して呼び出すと、プロジェクターと接続されているのを確認して映像を流し始めた。
あまりにも夏野の手際が良かったので、みどり先生が聞いてきた。
「夏野さんって機械に詳しいの?」
「そうですねー。そんなに詳しくはないですけど一通りですよ。極地で機械が壊れたときに不自由しないようにですけど」
「はあ」
極地ってどこ? 南極? 夏野の言っている意味がわからず、みどり先生は遠くを見た。
固まっていた部員たちはそれぞれ離れて自由に席に座り始めた。みどり先生は最前列に、その後ろには月夜と夏野が座った。
暖かくなった室内で夏野が選んだ映像がスクリーンに映し出されている。
それは世界でも有名なトルコのカッパドキアにある地下都市。巨大な地下都市で作られた経緯や誰によるものかは不明だが、古代ローマ時代に迫害されたキリスト教徒が避難所として使われていたことでも有名だ。
外国のドキュメンタリーのようで日本語の字幕がついている。
月夜の隣に座った夏野が聞いてきた。
「どうですか? 古代の地下都市ですけど」
「うむ。なかなかいいチョイスだ。カッパドキアに注目するとは空君はグローバルスケールだね」
「えへへ」
褒められて笑顔になる夏野。月夜も古代の地底都市の珍しい映像に満足そうだ。
「しかし不思議なものだな。太古に岩を削って地底に都市を作るなんて」
「ですね。排気もしっかりあるみたいだし、本気度が違いますよね」
「うむ。そんな人たちが古代から現代へと受け継がれて、最中君へと続いていくと思うと面白い」
「ですね」
二人は映像を見ながら感想を言い合い、はるか未来の地底都市へと思いを馳せていた。
他の部員たちは早々に飽きて持ってきたスマホを見たり、秋風 紅葉と冬草 雪は隅っこでいちゃいちゃしていた。
三十分ほどでドキュメンタリーが終わると、夏野は部員からリクエストを募って映像を流し始めた。
今度のは倉井 最中と葵 海が推しているトビネズミの映像だ。小さなネズミの体にカンガルーのような大きな後ろ足で、ぴょんぴょんと広大な砂漠の中を飛び跳ね進んでいく。
わぁ〜っと嬉しそうな黄色な声が倉井と海からあがる。こんな大きな画面で見られるなんて滅多にないから。
予想通り部活とは関係ない方向性に向かっていく。まあそうだよねとみどり先生は持参してきたお菓子に手を出した。
ぽりぽりとお菓子を頬張り、部員の流す動画をぼけっと見ていたみどり先生の耳に月夜と夏野の会話が聞こえてきた。
「そういえば真夏で暑いときに視聴覚室が開いていたのはなぜだろうか」
「ありましたねー。あのときは涼しくて助かりましたね」
「うむ。まさにオアシスだったな。思うのだが、鍵がないと入れないとなると生徒が勝手にしたとは難しくないか?」
「確かにそうですね。少なくても先生たちの誰かが開けて閉め忘れた可能性が高いですね」
「その線が濃厚だな。だいぶおっちょこちょいな先生がいたもんだな」
「あはは。でも、そのお陰でわたしたちが使えたから良かったですよね」
「だな。わはははは」
そんな声にみどり先生はゾッと冷や汗をかいていた。
今の話で、その場に自分と紫先生がいたことにはまだ気がついていないようだ。まさか学校で密会していたとは部員に言いづらい。
おっちょこちょいとはえらい言われようだが、ここは黙ってやり過ごすことにしたみどり先生。
「そういえば、あのときみどり先生がいませんでしたね」
「うむ、確かに。ミドリちゃんは部室にいたんじゃないか? 蒸し暑さに汗を流しながら」
「あははは。ものぐさな先生っぽい。そうかも」
「そこでアイスを食べて冷たいお茶を飲んでいたのかもしれないな」
「誘えばよかったですね」
「うむ。可哀想なことをしたな。次は誘うようにしょう」
想像で取り残された人扱いしているようだ。
ごくっとお菓子を飲み込んだみどり先生は振り返って抗議しようと口を開きかけて、慌ててやめた。
そんなことをしたら部員たちと同じ空間にいたことがバレバレだ。ぐぬぬと歯噛みしたみどり先生は、あとで岩手 紫に話そうと心に決めた。
同棲しているアパートに帰ったら愚痴るつもりのようだ。そうだとしても笑われて終わりな気もするが。
部員たちは暖かな空調で楽しそうに過ごしている。
まあ、しかたないかとみどり先生は再びお菓子に手を伸ばした。こうして暖かなところにいると心が広くなって、多少のことなら許せそうだ。
そんなみどり先生は、後ほど教頭先生に説教されることをすっかり忘れていた。




