2-4 静けさの戻る場所
翌日。
公園の入り口には、いつもより多くの住民が集まっていた。
朝の光が差し込む中、ざわざわとした声が広がっている。
「昨日の配信、見たか?」
「大河原がゴミ捨ててたって……本当なのか?」
「証拠動画、全部本物らしいぞ」
「真理さん、ずっと疑われてたのに……」
住民たちの視線は、一点に集まっていた。
その中心に――大河原克己が立っていた。
彼は顔色が悪く、昨夜の恐怖がまだ抜けていないようだった。
手は震え、視線は定まらず、まるで自分の影に怯えているようだった。
「説明しろ!」
「真理さんに謝れ!」
「お前が犯人だったんだろ!」
怒号が飛ぶ。
昨日まで彼を信じていた住民たちが、一斉に彼を責め立てていた。
大河原は膝をつき、震える声で言った。
「……すまなかった……
全部……俺が……やった……
真理さんを……悪者にして……
自分のゴミを……捨てて……
配信で……嘘を……」
その声は弱々しく、昨日までの威圧的な態度はどこにもなかった。
真理は少し離れた場所でその様子を見ていた。
胸の奥にあった重い塊が、ゆっくりと溶けていくような感覚がした。
住民の一人が言った。
「真理さんに謝れよ。
あんたのせいで、どれだけ苦しんだと思ってるんだ」
大河原は真理の前に歩み寄り、地面に手をついて頭を下げた。
「……本当に……すまなかった……
償いとして、公園の清掃を毎日やる……
自治会も辞める……
もう……迷惑はかけない……」
その姿は、
昨日までの“地区リーダー”の威厳とは程遠かった。
しかし住民たちは彼を許さなかった。
「もうこの地区にいられないだろ」
「出ていけ」
「二度と戻ってくるな」
「真理さんに謝ったくらいで済むと思うなよ」
怒りは収まらず、大河原はその場から逃げるように立ち去った。
彼の背中は小さく、闇は弱々しく揺れていた。
大河原が去った後、自治会は混乱に陥った。
「リーダーがあんなことしてたなんて……」
「清掃活動も嘘だったのか」
「真理さんを疑ってたのは、全部大河原の誘導だったんだな」
住民たちは互いに顔を見合わせ、
自分たちが騙されていた事実に気づき始めた。
「監視カメラの設置、もう一度話し合おう」
「真理さんに謝らないと……」
少しずつ、真理への誤解が解けていった。
その夜。
真理は久しぶりに窓を開けた。
腐敗臭は消え、夜風が静かに流れ込んできた。
「……やっと、戻ってきた」
真理は深く息を吸い、涙をこぼした。
玄関の前には、もうゴミはない。
虫もいない。
嫌がらせの落書きも、住民が消してくれたらしい。
真理はゆっくりと椅子に座り、夜空を見上げた。
そんな姿を久遠は闇から見守る。
やがて夜風を受けながら歩き出した。
闇が彼の足元で揺れ、
公園の闇に溶けていった。




