2-2 闇が拾う証拠
夜の公園は、昼間の喧騒を忘れたように静まり返っていた。
街灯はまばらで、光の届かない場所では闇が濃く沈み、
まるで地面そのものが呼吸しているように揺れていた。
アズラのドローンが、音もなくその闇の上を滑るように巡回する。
真理が送ってきた依頼文と、地区の地図、過去の苦情記録が
アズラの視界に重ねて表示されていた。
『監視カメラがないなら、私が“目”になるわね』
アズラは淡々と言うが、
その声にはわずかに怒りが滲んでいた。
真理の孤独な訴えを読み取ったからだ。
ドローンは民家の防犯カメラ、道路の交通監視カメラ、
公園照明の点灯ログ、自治会の掲示板の更新時間まで解析し、
ゴミが捨てられる“時間帯の癖”を割り出していく。
『ふむ……毎晩、午前1時〜3時の間に増えてるわね。
しかも、ゴミの種類が日によって偏ってる。
これは“家庭ゴミの排出者”が固定されてる証拠よ』
アズラはさらに、自治会の内部資料を解析した。
大河原克己が管理している“清掃活動チャンネル”の投稿時間、
彼の家の電気使用量の変動、
さらには彼のスマホの位置情報まで照合する。
『……やっぱり。
大河原、毎晩この時間帯に外出してるわね。
しかも公園の近くを必ず通ってる』
アズラの声は冷たかった。
その頃、久遠は公園のゴミ山に立っていた。
存在感ゼロの彼は、誰にも気づかれずゴミ袋を開けていく。
「……うわ、これ昨日の弁当の匂い残ってるじゃん。
闇の仕事よりキツいんだけど」
『愚痴は後で聞くわ。
中身を見て。捨てた人の“生活の癖”が必ず出るから』
「生活の癖って……俺、ゴミ鑑定士じゃないんだけど」
『闇の鑑定士でしょ。似たようなものよ』
「似てねぇよ」
久遠は渋々、袋を漁る。
だが、すぐに違和感を覚えた。
「……アズラ、これさ。
ゴミ袋の結び方、毎日同じだぞ。
しかも“左手で二重結び”の癖がある」
『左手で二重結び……大河原の癖ね。
彼、配信でよく左手でマイク持ってるでしょ』
久遠はさらに袋を開ける。
すると、ある特徴的なものが混ざっていた。
●自治会専用の印刷物
●特殊な肥料の袋
●“地域清掃チャンネル”の宣伝チラシ
●大河原の家でしか使われていない独特の調味料の空き瓶
●そして――大河原の家の庭で使われている“土壌改良剤”の粉末が付着した手袋
久遠は眉をひそめた。
「……アズラ、これ完全にアウトだろ。
自分の家のゴミをそのまま捨ててるじゃん」
『しかもね、配信では“ゴミ問題は住民のモラル低下”って
視聴者に説教してるのよ。
コメント欄もひどいわ』
アズラが視聴者コメントを読み上げる。
『『最近の住民はだらしないね』
『リーダーさん、いつも清掃ありがとう!』
『犯人は若者だろ』』
久遠は鼻をつまみながら言った。
「いやらしい手法だな……
自分の配信で“犯人像”を作って、
自分への疑いをそらしてるわけか」
『しかも、真理さんを名指しで悪者扱いしてる。
“ゴミを捨ててるのはあの女だ”ってね』
久遠は静かに怒りを覚えた。
「……アズラ、復讐ポイントは?」
『送るわ。闇が濃くて、彼の“嘘”が最も崩れやすい場所よ』
アズラが地図を久遠の視界に重ねる。
公園裏の街灯が壊れた区画――
闇が濃く沈む“断層”のような場所。
『ここなら、あなたの闇が最大限に働く。
大河原のスマホも、闇の中なら操作できるわ』
久遠は闇の中へ歩き出した。
『……久遠』
「なんだ?」
『真理さん、かなり追い詰められてたわ。
玄関に投げ入れられたゴミに怒るでもなく、黙々と拾ってた…泣きながら』
久遠は一瞬だけ静止した。
「……だからこそ、絶対に終わらせる。
大河原の嘘も、支配も、全部」
久遠は静かに頷き、闇の中へ消えた。




