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闇夜のおしごと  作者: ベサメ
第1章 煽り運転被害者の復讐依頼編

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2/18

1-2 闇に浮かぶ偽りの正義

某市の夜は、昼間の喧騒を忘れたように静まり返る。

幹線道路の街灯は一定間隔で並び、光と影が交互に地面へ落ちていた。

その影の帯の中を、一台の車がゆっくりと進んでいく。


車内には、スマホを固定したホルダー。

画面にはライブ配信アプリが映り、視聴者数が増えていく。


配信者のプロフィール欄には、

「黒瀬大輝/交通トラブル系インフルエンサー」

と表示されていた。


だが、配信画面に映るのは――

道路を走るだけの、退屈な映像だった。


煽り運転の瞬間は、どこにもない。

暴言も、蛇行も、急ブレーキも、すべて“編集で消されていた”。


黒瀬は過去にも炎上していたが、

巧妙な編集と“被害者ムーブ”でフォロワーを増やしてきた男だった。


配信者の声が流れる。


「いやぁ、最近は危ない運転する人が多くてね。

 こっちは安全運転してるのに、勝手に突っ込んでくるんだよ」


視聴者のコメントが流れる。


「わかる!最近のドライバーやばいよね」

「この人、前にも被害に遭ってたよね?応援してます!」

「煽られたとか言ってる女の動画見たけど、あれ嘘でしょ」

「この人は正義。叩かれてるのがかわいそう」


アズラはその配信を解析し、久遠へ静かに告げる。


『黒瀬は、煽り運転の部分をすべてカットしてるわ。

 事故の直前だけを残して、被害者を悪者に仕立ててる。

 視聴者は完全に騙されてる』


久遠は夜の街を歩きながら、スマホ越しに配信を見ていた。

街灯の光が彼の影を細く伸ばし、影はアスファルトの上で揺れているように見えたが、闇の方が彼を包み込んでいた。


「……こういうやつ、いるよな」

『あなたの昼の面接官よりは存在感あるわね』

「皮肉か?」

『事実よ。黒瀬は“存在を誇示するタイプ”。

 あなたは“存在を消すタイプ”。

 相性は最悪だけど、復讐には最高の組み合わせ』


久遠は苦笑した。


「で、俺はどこに立てばいい?」


アズラは地図を表示し、道路の一角を指した。


『ここ。街灯が一本だけ故障していて、光が途切れる“闇の断層”。

 車のライトが当たると闇が光を歪めて形を変える。

 あなたの体質が最大限に働くわ』


久遠はその場所へ向かった。

道路脇のガードレールは錆び、街灯は古く、光は弱々しく揺れていた。

闇は濃く、深く、まるで液体のように地面に沈んでいる。


『ここなら、黒瀬の車が通った瞬間、あなたの闇が運転席まで触れるわ』

「影が勝手に伸びるって、俺の体質どうなってんだよ」

『あなたは“存在しないもの”よ、闇も同じ。光が乱れると、闇は“本来の形”を忘れるのよ』

「本来の形ってなんだよ」

『さあ?あなた自身が知らないんじゃない?』


久遠は肩をすくめた。


「……で、黒瀬はいつ来る?」


アズラは配信の位置情報を確認し、久遠の視界へ重ねた。


『あと三分。

 黒瀬は“安全運転アピール”のためにこの区間を毎晩走る。

 闇が伸びる瞬間が、あなたの“おしごと”のタイミングよ』


久遠は闇の中に立ち、闇が足元で静かに揺れた。


アズラが囁く。


『久遠、あなたの影は“黒瀬の嘘”を暴くために存在してる。準備はいい?』

「……ああ。やるよ」

久遠は短く答えた。


闇夜のおしごとは、ここから本格的に動き出す。

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