戦国の水運と荒くれ者は不可分
今回、主人公の前世地元の史実と絡めて冒険が始まります。
○皇紀2213年・天文22年(西暦1553年) 日本 大隅国 奄美大島 名瀬 名瀬城○
(…あーー、昨日はひどい…というか恥ずい目に遭ったー…)
サトウキビの圧搾でこの時代では非常に革新的な発明品“砂糖車”開発の裏の立役者になった日の翌日、島津名護丸は昨日の痴態の記憶で頬を赤くしつつも地面に図面を引いて改良の試案を考えていた。
「(…この世界の長人…エルフ達の木工の技術の高さもあって、今回の砂糖車は全部木製でやったからあれだけ早く作れたけど…、やっぱり歯車まで木製だと壊れやすいから、石製や鉄製に変えた方が良いなぁ…)…やっぱり、木製だとひび割れがしやすいからー…歯車の部分は石か鉄にー」
「なるほど、ですがそれだど材木の使用もより激しくなりますからー…炭を確保するために木を切った後には竹を植えて竹炭を作るための炭焼き小屋も必要になりますなー。サトウキビ汁を煮詰める釜の火は搾りつくして出たキビの茎を使えばいいとして、灰の方は百姓にでも引き取ってもらえば…」
「(あ、そうだ。森の資源についても配慮が必要だった)あ、そうですね長永、他にもー…明の人達が製粉で用いているようなあの水車…、あれを砂糖車にも導入できないかなー…!?」
柏木長永達と共に精糖作業の効率化のため色々考えていたところ、こちらの奄美でもその自然界代表である動物が出てきた。
「あ! クロウサギだ!」
「しかも妖怪になっててデカいぞ!」
「うわ! 本当だ! 妖怪になるとデカくなりがちだよなー…(…時々、人間の目にも見える瘴気とかに当てられると、こっちの生物も巨大化とか異形の変貌を果たして、妖怪と呼ばれやすいのがこの世界だけどー、やっぱりアマミノクロウサギは大きくなっても可愛いよなー…。耳は短くて黒い毛皮の体は丸くてーモフモフしてー)…ちょっと触って―――!?」
前世のそれとはサイズがこの世界のファンタジー的現象のため変わりつつも、前世からの可愛さも色濃く残しているアマミノクロウサギに、名護丸は自然となごんでその黒く柔らかな毛皮に触れようとするが、その彼の真横を豪速で何かが通り過ぎた。
「ぎぃ!?」
その何かである槍はアマミノクロウサギの頭にぶち当たって貫通して絶命させた。
「いやー、こんだけデカいと畑に来られたらさぞ荒らされたでしょうが今の内に退治できて僥倖でしたなー。もうそろそろ薩摩の方に移る時期なのでこれもお土産に持って行きましょう」
「―――エー…マァ…ソウデスネー(…ああ、そうだった…この時代のここ鹿児島では…動物なんて“動く野菜”って認識だった…)」
槍をぶん投げて仕留めた長永のホッとした様子に、名護丸は急に蘇った前世現代的価値観で乾いた笑みを浮かべた。
戦国時代だが、日本は仏教的価値観の影響で獣肉、特に家畜を飼ってその肉を食うというのは多くの人々から忌避されていた。
それに対し、この時代の鹿児島はシラス台地、火山のせいで多い地震と火事、ほぼ毎年多く通る台風で、農耕、特に稲作が難しいために、動物も“歩く野菜”的な扱いで食されていた。
時代は大幅に変わるが、名護丸の前世の現代の発掘研究でも、アマミノクロウサギも縄文時代辺りは狩猟されて食べられていたことが分かっており、1920年までは食用や薬用に毛皮は鞴にと利用されていた。
そして、今この時代の奄美においてアマミノクロウサギ、特に妖怪化などで大型化した個体は畑を荒らす害獣という認識が強く、一方でその肉は薬効もある立派な食料と見なされ、特に毛皮は日本本土や大陸で高価な毛皮として取引されていた。
(…もしもこの世界をPCやスマホなどで観測している方がおられたら決して真似しないでください! 現代辺りでは保護対象なので触るのもガイドさんとかに止められます! 注意事項はしっかりと調べて守ってください! こっちは戦国時代の価値観や技術水準でこんな感じなだけです!!)
そんな現状と前世からの価値観で板挟みな心情になりつつ、名護丸はあるかどうかわからないが自分の経歴から“天の声”的なその存在に、内心で必死に説明していた。
「…よーし、行くぞー!」
砂糖車騒ぎから十数日後、名瀬港から大型のジャンク船二隻を中心とするニ十席ほどの船団が薩摩を目指して名瀬の港から出港した。
「…うわー、(小氷期な戦国時代だからこの時期にしても)肌寒いけど風は早くて波は穏やか…」
「この勢いなら予定通りの日にちに着くでしょうね」
「(…博物館で習った江戸時代の本土と奄美の船でかかる日数に比べて早いなぁ。まあ、風向きや潮の流れを読むのが上手い水系の陰陽師の人が航海士しているけどぉ…)それにしても唐船なんてよく作れましたね。向こうのは王直殿の所有ですからわかるとしてー…」
その船団の旗艦には名護丸と蕉寧の母子の穏やかな姿があった。
「ああ、これは忠よ…失礼、義久殿のおかげですよ」
「兄上ですか?」
「ええ、数年前に明人の交易船が鹿児島の砂浜に漂着した時、あの子はすぐさま助けに出向きました。その時に色々と貴久殿に掛け合って彼らが街に住まえるようにしたのです。その代わりに彼らの持つ技や知恵、特に造船や操船に航海術は熱心に学ばれて…。造船に至っては彼らが築いた造船所に自ら出向いて鋸を引いたり、鉋掛けをしたりして、それを新納殿に見つかる場に説教されながら引き戻されていく姿は一種の名物となってました」
「へー、全然ひきこもってないんですね。自ら船大工に混じるなんてピョートルみたい…」
「? どういう意味です?」
「…(やばい! 久々に和み過ぎてあの首おいてけ漫画の作者が始めてニ〇ニ〇から広まったあのネタ含め歴史ネタが思わず口から出た!)あ、いやー…これはー…これは―――!?」
「がははは! 今日は良い船出日和だのー!」
それで気が緩み過ぎて思わず前世現代的歴史ネタが飛び出たりするが、そこで隣を進むジャンク船から王直の豪快な笑い声が割り込んできた。
「あら、王直殿、今日は珍しく今の海の上でも快調ですね」
「何を言うんだ蕉寧殿! 何百隻という大船を仕切るこの儂が最も気を漲らせられるのは海だけ…!?」
だが、その豪快な途中でピタッと止まった。
「…えってぉぉぉろろろろろぉぉぉぉ…!!」
「―――あって吐いたー!?」
「私の爸爸、海上とか水の上じゃ穏やかであればあるほど船酔いが酷くなるネ」
前世史実とこちらでも倭寇の大頭目らしからぬその姿を王凛夏が呆れ顔で説明した。
ちなみに、王凛夏は今回同行している面子に混じる子供達の中で、名護丸とタメ口出来る面子が他にいないから同じ船に乗っていた。
「船酔いなどしとらーん! こいつは昨晩に酒を飲んどったからその二日酔いが出ただけー…うぉろろろろろろ…!!」
「いやいやついさっきまで快調だったのにそれは無理でしょ―――!?」
見苦しい言い訳に名護丸が苦笑していたその時、彼の頬を何処からかの矢が薄く切り裂いて帆柱に突き刺さった。
「ぎゃはは! 結構デカい船が混じる船団だぞー!」
「それと結構な美人もいるじゃねーか!」
「(って北斗の○のモヒカン戦国版な)南蛮賊が来たー!」
矢が飛んできた方角を見やると、小舟中心だが何十隻もの舟で構成された、良くて汚れた胴丸くらいしか身に付けてなくて、褌丸出しの面々が多いが弓矢や刀で武装した、この世界では奄美や琉球当たりの住民で構成された海賊の南蛮賊が近づいてくる方があった
元々、南蛮賊とは平安時代に九州沿岸各地を荒らした奄美島民(諸説あり)による海賊と名護丸の前世の知識ではなっており、この世界では島津による早期の奄美制圧によって追いやられた琉球派残党によって復活し、西のお隣の国の事情で盛んになっている倭寇の一部と認識されるようになっていた。
「…まったく、ここしばらくは姿を見せなかったから死んだか足を洗ったと思えば…あの髪型といい鶏みたいな者達ですね。名護丸、あなたたち童は船の中へしばらく隠れなさい」
「いや! 隠れたいのは山々ですけど今ここにいる戦力じゃあの数には大人だけじゃ足りないですよ母上! 僕も弓を射るくらいは出来ま―――!」
「そんな心配しなくていいね。こういう時は爸爸がすごく役立つよろし」
名護丸が小便をちびりたい怖さを堪えて武士の子らしく振舞おうとしたその時、王凛夏の真上を豪速で拳サイズの石が通り過ぎた。
「うわぁ!? 船が揺れたぁ!」
「げぼげぼ!?」
「船に塞ぎきれない穴とヒビが出来て水が入ってきてるるうぅ!」
「てめえらーーーーー! ちっせえ南蛮賊の分際でここ東海(東シナ海のこと)の倭寇の顔役であるこの王直様の船を襲おうとは良い度胸だー!!」
「ひぃ!? お、王直だとぉ!?」
「やべぇ! に、逃げろー!」
気づけば戦で船員たちが慌ただしくなって揺れている隣の船上より、スタッフ・スリングによく似た投石器で拳くらいの石を次々と豪速でぶん投げていく王直の姿があり、それを見るや南蛮賊たちは次々と船を撃ち壊されて沈められながら一目散に逃げだした。
「…何あれ?」
「爸爸、こういう戦や嵐の時とか船が揺れている時ほど絶好調になるね」
それにポカンとした名護丸に王凜夏は見慣れた様子で解説してしばらく、南蛮賊たちは消えた。
こうして初日のトラブルを除けば船団は無事に奄美近海を抜けられて薩摩への航路に入れたのであった。
次回、久々に主人公の鹿児島の家族が登場します。
ちなみに、今回の話で登場したアマミノクロウサギがどうかは気になるという方はこちらに写メが載ってます(https://x.com/kaioosima/status/2071885501972549642)。




