離れている内に人は変わるもの
今回、主人公達の船旅の様子が中心になりつつ、久々に再会する家族の今の姿が出てきます。
○皇紀2213年・天文22年(西暦1553年) 日本 薩南諸島 某海上○
「…あー、今日の勉強もやっと終わったー。あ、向こうからまた薩摩方面からの商船が来た」
「この辺りは爸爸とその力を見抜いた名護丸の一番上のお兄さんたちのおかげでほとんど安心して行き来できるからナ。まー、この前に出てきた南蛮賊は久々だったネ」
数日後、奄美近海を離れてそこと鹿児島の間くらいの海上を進む船団の旗艦の甲板で、今日の勉強やら修行を終えた名護丸は甲板に出て帆柱の上まで登って、王凜夏と共に水平線を眺め、時折見える鯨やイルカの群れで目を楽しませていた。
「…そういえばさー、あの南蛮賊ってあの前回の久々に出て来たんだけどー今はどの辺りから来てるんだろう? たしかー腹の内はともかくとしてー、(前世と重なる)奄美の島々は(こっちでは)島津の統治下に入ってから(まだ参勤交代や普請が重なってキングボ〇ビーなった江戸時代と違ってまだ)年貢は普通で戦もなくなっていて一応は平和だし…」
「あー、あいつらは言葉の訛りからして多分だけど琉球の連中ネー」
「琉球? (確か前の史実だとこの頃の島津と琉球の関係は悪くなかったと思うけどー)あそこで何かあったの?」
「…なーんかよく知らないけど、何十年か前に琉球でなんか日本とか薩摩とか島津が攻めてくる、いずれはアメ何とかって聞いたことのない東の大海の向こうの国が攻めてきて土地を奪ってくるって言うよくわからん連中が大勢集まって、首里城の方でも権力握って、和人たちを追い出して昔から仲が良い明に守ってもらおうって大陸に急接近したって事件があったネ」
「…え? 何その事件? そんなの僕は初耳なんだけど…?」
海を楽しんでいた二人だがその出自の為か時々地元やその周辺も絡んで国際情勢系の話に入って空気が重くなる。
「その時の琉球から逃げてきた人達は奄美に逃げた人も含めて、思い出すのも嫌だって感じであまり話したがらなかったからネ。特に大陸から琉球へ逃げて来た異人達は明に偏るにはすごく反対してたって話だったシー。まあ、数は親明派が多かったから抑えられて、何か明の方へ捕まえた人達を送り始めたりすると、異人達はそれにめっちゃビビって大陸以外の琉球の外に逃げ出してー」
「…その一部に、奄美まで逃げてきて島津に助勢を求めた人たちがいたとー…(…確かー、今の明の皇帝ってー…前世の史実と同じくー…道教のやばい道士を囲いまくってやばい丹薬を作りまくってがぶ飲みしまくってー…そのせいという説もある暗殺未遂事件で宮女に殺されかけたというあのー…。もしかしてー…大陸から異人たちが大勢逃げて来たってのはーその皇帝絡みじゃ…。それじゃー明に靡こうとした今の琉球主流派に大反対するのは当然だろうなー…。ていうか…そのアメ何とかって言ってた連中…もしかしてー…いや、この辺りは後で色々調べたり考えよう…)、なるほどねー…僕らは不老不死なんて不可能な話を追わないようにし、ちゃんと怪しくない食品で健康に長生きできるように心がけー…!?」
色々と前世の政治や歴史も絡めていそうな現在の奄美周辺の国際情勢に名護丸が嫌な予感を覚えつつあったその時、二人がいる船の真横で鯨がザバンと海面から出てきた。
「…うわー! まだ小さいけれどすごい迫力だねー!」
「うん! “海豚”みたいにとっても美味しそうネ!」
「…え、それってどういう意味で―――!?」
その前世の奄美でも開かれていたホエールウォッチングを思い出させる光景に名護丸は目を輝かせるが、隣からの無邪気な言葉に強く蘇った前世現代的価値観から目が丸くなったところ、大猪を退治した時と同種だがそれよりも遥かに大気を震わせる轟音が鳴り響いた。
「蕉寧さーん、魚や干し物ばかりで飽きていた所だ。ちょうどこの船でも分ければ載せられる大きさのクジラを仕留められたから捌くか」
「ええ、そうですね。あなたも久々の肉を食したいでしょう。その分は働きなさい」
「…ア、ハイ…ワカリマシター…(…あ、そうだった…。この時代…捕鯨や鯨肉を食ったりするのは普通だった…)」
「今の馬鹿皇帝が不老長寿の妙薬とかほざいてほしがってるあれが採れればいいんだけどネー」
声に釣られて下を見ると、前世の歴史系記憶にある抱え大筒のような鉄砲から煙を吹かせている王直の姿が隣の船の船上にあり、名護丸は母の命令もあって乾いた声になりつつも、当世の常識に従って王凜夏と共にスルーっと帆柱を猿のように滑って甲板に戻って、頭から撃ち抜かれたか証である赤い血潮を吹かしている鯨の解体作業に加わった。
○日本 薩摩半島近海○
「…うわーイ、術で熟するのを早めたから龍涎香も香りが良くなってきたネー♪」
「そうだねー、鯨の解体も早く終わってお肉も美味しかったしー」
鯨との遭遇及びその解体作業から数日後、価値観や精神が戦国時代へ大きく戻った名護丸はその鯨から取れたお宝を王凜夏と共に珍しがっていた。
「ちょっとー、二人ともーそれはあんまり人目に触れさせないでくだせーよー。むかつくくそ野郎だけど今の皇帝は不老長寿狂いでそういうのには大枚を叩いてくれるんですからー」
「…おおろろろろろろろ…」
「あ、下呂をかぎつけて結構高値で売れるうまい魚が寄って来てるから釣ろう」
「見えたぞー! 薩摩だー!」
そんな二人に注意したり、穏やかな船旅故にまた胃の中身を海へリバースしている王直の傍で釣りをしたりしつつ、船員たちが操舵を続けていると、名護丸達にとって数か月ぶりの薩摩が見えてきた。
「…いやー! 山田殿たちは元気にしとるかのー?」
「奄美や喜界も綺麗な海からその幸がたくさん採れるがやっぱり薩摩がいいだどー」
本土から薩南諸島に派遣されていた者達は久々の故郷に色めき立つが、快速な船足で錦江湾(鹿児島湾)に入ったところで、何者かが現れた。
「お蕉(蕉寧のこと)様ー! お迎えに上がりましたー!」
「我々が護衛しますー! ささ! 早く船を寄せられてー!」
小舟を中心とする数十隻の船団が北の方から声を張り上げながら近づいてきたのだ。
「…あの声の訛り、大隅辺りのものですな」
「それにー…あいつらの顔…祁答院や入来院が送ってくる物見で討ち損じて逃げられた奴らも混じっています…」
「…十中八九、島津を装ってこっちを騙して生け捕りにしようという魂胆ですね。それではー…全力で避けてさっさと鹿児島に帰りましょうか」
「左様ですな」
「それではー…いや! 護衛は無用だ! はっきり言ってこっちの方が船足速いからさっさと鹿児島に入った方が安全だからな! そなたらもさっさと持ち場に帰って良いぞー!」
だが、そこは戦闘民族薩摩隼人だけあって遠めだがすぐに敵なのを見抜き、蕉寧ら術を使える者達も含めて全員が全力で彼らを避けるルートを選んで全速力で漕ぎ出した。
「な!? すごい速さで離れていくぞ!」
「ち! ばれたか!」
「おい! すぐに追うぞ!」
当然、騙し討ちを目論んでいた敵は即座に追い始めるが、見る見るうちに蕉寧達の船団は彼らとの距離を空けていく。
「…ほ、(当世の)生まれ故郷に帰るところでまた何かあるかと思ったけど…どうにか今度はギリギリで避けれて帰れそ―――」
「前方の岩場から敵の新手です!」
(―――おってさっそくフラグ立てて即座に回収しちゃったー!?)
だが、名護丸がホッと一息つこうとしたところで今度は挟み撃ちされそうな事態になる。
「…ち! ここまで来て…仕方ないのぉ! お前らまた石を持ってこい!」
「駄目です王直の旦那ー! 石なら船旅の合間に襲ってくる海の妖怪を追っ払ったりとっ捕まえる時に使い切りましたー!」
「…あ、しまった…。仕方ねえ、ここは切り開いて突破するか。おい! お前ら弓矢を持ってこい! 槍や刀もだ!」
「ええ、そのようですね…」
船上が慌ただしくなってその揺れで再び絶好調となった王直が柄は中華風な日本刀を構え、蕉寧が翡翠のように済んだ輝きを放つ若葉を生やしている杖を手に取って霧のような薄緑色の何かしらの術を展開していく。
「あ! そうだ王直殿! これまでに鯨や大猪を仕留めた鉄砲! あれを使えばあの轟音と威力もあるから、よく知らない人が多い向こうはビビって混乱してこの前の海賊達みたいに斬り合う前に逃げ出して戦の被害を減らせられるかも!」
その状況で名護丸は腹をくくって提言する。
「…いやー、名護丸様よー。あれはなるべく使いたくないんだ。火薬…特に硝石が大陸じゃ値上がりしていてその分高まっているからなー。この前は鯨や猪は色々使えるからすぐに仕留めて抑えたかっただけでー。この前の海賊退治はまー石が多くあってそんで捕まえて売り飛ばすことが出来なかったら、せめて海に沈めて鯨や魚の餌にしてそれでそいつらが増えた頃に捕まえれば魚の代金を浮かせられると思ってなー…」
(いやそんな血なまぐさい環境ビジネスもしくはエコ商法を説明されても!? ていうか今さっき普通に人身売買を口にしたよこの人! やっぱこっちには良い人そうに見えても倭寇だよ海賊だよこの人―――!?)
それに何か苦渋の色を見せられると名護丸はその王直にビビり始めるが、そこで鉄砲のすさまじい轟音が幾つも飛んできた。
「ギャアアア!?」
「あ、足がああ!?」
「船が一撃で沈んじまったぁ!!」
その轟音で巨大且つ幾つもの弾丸で乗っている小舟を何本かの足ごと粉砕されて何名かが海に投げ出されたその時、弾丸が飛んできた別方向より今度は本物の島津の水軍が姿を現して猛スピードで近づいてきた。
「貴様らぁ! 我が島津にとっても南の幸と繋ぐ大巫女殿である蕉寧殿と我が弟の名護丸を襲おうとは大した度胸だーーーーー!!」
その水軍の先頭に経つのは戦国時代の日本人男性にしては高い170センチくらいの細マッチョな身を健康的に焼けた黒光りする肌で包んで陣羽織で飾り、先ほど火を噴いたものの一つである大鉄砲を抱えながら精悍な青年であった。
「…え? えーーっと…だ、誰? 何かあの人に何処か似てるけど―――?」
「うおおお! 又三郎様に続けー!!」
その青年に名護丸は何処か見覚えがありつつ誰かまだ分からなかったが、その青年に率いられている水軍衆が上げたその通称からしてすぐに問いは霧散した。
(―――おってこんな引きこもる気配が全然ナッシングな島津義久なんて僕は知らないよおおおおおおおおおお!!??)
久々に再会した長兄のその予想の斜め上を行く姿に、名護丸は驚きのあまりの声すら忘れるが顎が外れんばかりに開いて目が飛び出しかねない勢いで瞼が見開いた。
次回、久々にこの世界での島津一家及び領内の様子が中心になる予定です。




