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003 歴史のキーマンとは思わぬ出会いをするもの

今回、日本の戦国時代に大きな影響を与えたあの人が中心になります。

 ○皇紀2213年・天文22年(西暦1553年) 日本 大隅国 奄美大島 集成園○


「…いやー、見苦しい真似をお見せしました。けれどーこれは凄い甘露ですなー…しゃぐしゃぐ…」

「…はむはむ…うん、これってなんかすごいよねー(甘味に対する本能は赤ん坊が初めて口にする母乳を通して刻まれる本能レベルのものだから。凄い威力だなー…)」


 サトウキビを巡る争いから十数分後、名護丸はその傅役の瀬戸口成喜と共に荘園にある高倉(奄美など南西諸島にある伝統の倉庫。四本ある円柱の上に日本家屋の屋根部分のような貯蔵庫があるような構造)に腰かけて、落ち着いてお互いサトウキビを美味しそうに齧り合っていた。

 だが、成喜は美味しそうに頬張る様子に対し、名護丸は複雑そうな表情を浮かべ始めた。


(…甘味とかが少ないこの時代なら、この砂糖が取れるサトウキビが重宝されて薬とかそういう使い方も含めて高値で取引されていたのもわかる。けれどー、前世では江戸からだけど、これが原因でここ奄美は薩摩藩にプランテーション経済を強いられて“砂糖地獄”と呼ばれる重税状態に陥ったし…。今この世界ではその原因にもなった参勤交代や幕府からの普請も貿易制限もまだないためか、この時代ではそこまでの重税がないし…この島の人達はそこまで苦しんでないのは、これまでのお忍びで見てきたからわかるけどー…。本土の父上たちに献上した後で何とかお互いウィンウィンに出来る体制に持って行けばいいんだけどー…ん?)


 前世の学芸員生活で身についた地元歴史知識からの懸念に囚われそうになるが、そこで鼻孔を擽る甘い匂いがより強まったことに気付く。


「…この匂いはー?」

「あー、若様ー。試しにこいつの搾り汁を煮込んだらー甘味が強くなりやしたー。ちょっとどうですー?」


 荘園の人々が大釜にサトウキビの搾り汁を注いで煮詰めおり、柄杓でそれを少し掬い取って見せたが名護丸はそれに目を丸くした。


「(あー、思い付きの偶然だけど黒糖作りが始まった。郷土史体験学習でこれを伝統製法で作っていたのを見たり手伝ったりしたときが懐かしーなー。あ、でもーやっぱりあの時と比べても足りないところがあるなー…)へー、美味しそう―。あ、でもーこれ何か灰汁が―――」


 史実よりも早くなった故に多分ここ日本で多分初めての黒糖作り場に出くわした感動と、記憶にあるものとの違いで名護丸が好奇心を強めつつも注意しようとしたその時、ヒョコっと誰かが割り込んできた。


「あ、お兄さん。これ、火加減とかは良いけどちょっと灰汁取りするのに柄杓使うと汁まで余分に吸っちゃうネ。先に布張ったものを良いよろシ」

「―――あ…え?」

「あーそれと、あとで細かく言うけど煮詰め続けて量が三分の一くらいになって固さがつきだしたら石灰入れれば灰汁とかいらないのとくっついて底にたまって分けやすくなるネ。石灰無いなら貝殻を熱く焼いて細かく砕いたのを混ぜれば良いよろシ」

「え? え? だ、誰ー…?」


 その言葉遣いに大陸の訛りが混じる、背丈からして名護丸と同じ年くらいに見えて黒髪の前と横は肩にかからない程度に切りそろえて後ろ髪は団子頭にしている、黒曜石を加工した大きな瞳の美少女の割り込みに周囲は戸惑った。


「私? 私は王凛夏っていうね―――!?」


 だが、その美少女が名乗ろうとしたしたその時、地面が何者かに大きく踏み荒らされたように大きく揺れた。


「―――え…!? 何々カ!?」

「ブヒオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 それに周囲が驚き困惑する中、荘園の外れから巨大な獣の咆哮が彼らの鼓膜を震わせてきた。






 ○日本 大隅国 奄美大島 名瀬城○


「…お久しぶりですなぁ。屋久島へ流れ着いた時にポルトガルの方々と共に助けられた時以来ですな。あの時は五峰と他の名を名乗らねばいけませんでしたが…」

「私はあくまでもあの人に通訳を頼まれてきただけです。あの時、もっともご尽力されたのは種子島家の方々と、話を聞きつけて私をお連れしてきた貴久殿です」


 集成園で異変が起きた頃、名瀬城ではそこに戻った蕉寧が、質の良い漢服を着つつも海の男特有の荒々しくも個人的に大きい度量を感じさせる髭面の男の豪商と対面していた。


「それで明日にはもう出立ですか?」

「ええ、どうやら北の大隅がまた荒れ始めているので、また鉄が必要なんで向うの銀や硫黄と交換でー…!?」


 そんな二人が和やかな雰囲気だがきな臭さもにおわせる話し合いをしていると、そこで慌ただしく小姓が割り込んできた。


「たた大変です! 山から大猪の妖怪が街に降りてきてきた模様です! 更にその進んでいる先に集成園があるのですが、そこには若様とご令嬢がおられる模様でー!!」

「「「「「!!??」」」」」


 その報せに周囲、特に蕉寧と豪商は大きく強張った。







 ○日本 大隅国 奄美大島 集成園○


「ブヒオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

「うわー!」

「きゃー!」

「ちょっとおおおおおおおおお!? ここは(●ののけ姫の舞台のモデルの一つになった)屋久島じゃないんだけどおおおおおおお!? 何か魔物とか妖怪とかそういうのが実在する世界なのはもう嫌ってほど知ってるけどぉおおお!!」


 その凶報に混じっていた集成館ではその頃、小さな小屋くらいはありそうなサイズの猪が暴れ回って周囲の家屋を壊して人々はそれから逃げまどい、名護丸は前世で大ヒットした幻獣を題材に戦国時代を舞台として人と自然の関係性を問うたアニメ映画を思い出しながら逃げ回っていた。


「怯むなー! 矢を浴びせまくれー!」

「うわー!」

「死ねー! この大猪ー!」

「ブモオオオオ!!」

「ギャアアア!?」


 何名かは勇敢に矢を浴びせかけるが、大猪はそれらを大きく身震いして埃のように振り落とし、怒って彼らに突進して薙ぎ倒していく。


「うわぁぁ! 駄目だー! 誰かー! ここから逃げて母上達に連絡して―――!」

「う…ううぅ…痛い…だ、誰か…助け…テ…」

「―――え…!?」


 名護丸はこの地にいる面子で最も頼りになることを知る所へ助っ人を求めることにするが、そこで先ほど黒糖作りに割り込んできた少女が足をくじいたのか左足首を赤く腫れさせて助けを求めているのを見つけた。


「ブモオオ!!」

(まずい! このままだとあの子がー!? 何とかしないとー…あ)


 その少女に大猪が向かいだすと名護丸は周囲をきょろきょろ見るが、そこであるものに目が留まる。


「捕まって!」

「キャアアァ!?」

「若様ー!?」


 名護丸は転生してから幾度となくチートボディと評してきた脚力で地面を踏み割る勢いで蹴りたち、少女に駆け寄るとその身を抱いて高く飛びあがり、高倉の屋根上へ降り立ち、成喜に悲痛な声を上げさせた。


「こっちだ! さっさと来い馬鹿猪!」

「ブモオオオオオオ!」


 獲物を奪ったあげくに挑発してきた名護丸に、大猪は怒りをさらに募らせて突進しなおす。


「いやアアアアアアアア! こっちに来るヨオオオ!」

「落ちついて君は裏側の方に回って! よし…さあ…来いーーーーーーーーーー…今だ!!」


 少女を後ろに回らせて名護丸は大猪をにらみ、その巨体との距離が縮んだところで勢いよく両手を茅葺の屋根へ押し付けた。


「木操!! 柱倒し!!」

「ブモオオオオオ!!?」


 すると名護丸の手から緑色の火花のようなものが生じて屋根を介して柱に伝い、高倉は彼の陰陽術で柱から勢いよく一方向へ横倒れとなって大猪を下敷きにした。


「「「「「……………」」」」」


 大猪の叫びと高倉倒壊の轟音で人々はビクッとして立ち止まり、後に残された上る土煙が注目を集めていく。


「…あ…アアアァア! 若様ぁぁぁ申し訳ありませぬぅぅ! 蕉寧様と貴方様からのご恩を返せぬままにぃ貴方様を護れなかったこの罪ぃこの腹を掻っ捌いでお詫びを―――!!」

「ちょっと待てーーー! そんなことしなくていいから助けてー!!」

「―――え…!?」


 いち早く言葉と我を取り戻した成喜は泣き叫んで腹を見せようとしたが、そこで守れなかったはずの主君の悲痛な叫びが止めてきた。


「…な、何とか…大猪を仕留めたっぽいけど…さすがに高倉ぶっ倒した衝撃で今もあちこちが痛くて……そ、それとー…君も早くおりてー…」

「…あ…ご…ごめんネ…」


 少しして土煙が収まり、見た感じは土で汚れて幾分か皮がむけている程度に見える名護丸と、その背中に乗っかっていたが慌てて降り始めた美少女の姿があった。


「…す、すげえ!」

「あんな小さな若様が大猪をぶっ倒したぁ!」

「おおお! さすがは薩摩隼人の頭領のご子息ぞぉ!」

「うわぁ!? ちょ…そんなあちこちが痛いんだからあんまり持ち上げたりしない…う!?」


 人々はその若者の活躍と手柄に色めき立ってその身を胴上げしようとし始めるが、照れくさそうになった名護丸はそこで、先ほどまでは当てにしていたが今では最も恐れる人物の姿を目にする。


「名護丸!!」

「…は、母上…」


 当世の母である蕉寧が血相を変えた表情で駆け寄ってきて、そのまだ小さな今の身を人々からひったくった。


「…え、えーーっとー…やっぱりー…こんなまだ小さな身でー…危ないことをするんじゃないってー…怒られてますー…ぶ!?」


 その感じに覚えのある名護丸のやや引きつった笑みを、母が結構な速度で引っ叩いた。


「怒るに決まってるでしょう!!」

「…………」

「…まだこんな小さい身なんだから…こんな危ないことは…どうか…まだ…しないで…!!」

「……はい…」


 久々の母のビンタの痛みもさることながら、めったに見れない母の涙がぽたぽたと髪を濡らす感覚に、名護丸は母の真摯な悲しみと心配を覚え、今の自分が彼女の息子だということを再認識して静かに俯いて聞き入るしかなかった。


「…ブモオオ!」

「…え!? まだ生きて―――!?」

「わっぱ! 身を下げろ!!」


 そこで高倉の下敷きになった大猪がギギギと再起動しだして名護丸達をギョッとさせるも、そこで何者かの叫びを浴びせられた。


「―――えって母さん!!」

「あぁ!?」

「「「「「うわぁアア!?」」」」」


 そして名護丸が母を押し倒して地面に倒れたその直後、雷が落ちたような轟音が鳴り響いて周囲を慄かせた。


「…ブギぃ…?」


 数秒後、何が起きたのかわからないとういう様子で大猪は頭にいつの間にかできた穴から血を流しながら、ズズンと地響きを立てて倒れて絶命した。


「…こっちの娘を助けてもらったゆえにそこまで大きなことは言えんが、勝って兜の緒を締めよと和人が言うように…今のはちっと早すぎたなお二人さん」

爸爸(パーパ)!!」


 そこで何やら先端から立ち昇る白煙を吹かす鉄の筒を遊ばせながら、名瀬城で蕉寧が対面していた大陸の豪商が現れるが、その身に少女は勢い良く抱きついた。


「…え、は、母上ー…この人はー…?」

「この方は王直、肥前の平戸を本拠にていますが、10年前にここから北の種子島に漂着して以来、今はここ含めた薩南一帯にも商売を伸ばし始めている明の豪商です」

「それで私は爸爸(パーパ)の末娘の王凛夏。よろしくネー」

「!?」


 ようやく知らされた二人の身元に名護丸は驚きのあまり硬直した。


(…あのポルトガル人と鉄砲を日本に紹介したあの倭寇の大頭目とこんなところで出会った!! 鉄砲関係は習っていた歴史の通りなのか!?)


 日本史においても地味だが大きな影響を与えた人物との邂逅に、名護丸は密かにだが深い感動を覚えてその新兵器鉄砲を抱いているその姿に魅入られ続けた。

次回、またサトウキビの話になりますけどそれ絡みの技術系チートもあります。

ちなみに、今回の戦いで活躍した(?)高倉はこちらに写メ(https://x.com/kaioosima/status/2071154060250759463)を載せていますので、興味があればご覧になってみてください。

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