チートに見えてもその中が気楽とは限らない
今回、主人公の地元も絡めた史実ネタ絡みのチートっぽい要素が中心になります。
○皇紀2213年・天文22年(西暦1553年) 日本 大隅 奄美大島 名瀬城○
「…っ!」
自分の未知の部分の急且つ見過ごせない発見から数週間後、名護丸は城の中庭で木刀を振るった。
「…あ、また折れた…」
結果、木刀を当てられた立木はメギィっと大きく曲がるが、木刀はバキッと真ん中から折れて宙をくるくると高く舞った後、自身の前でカランと落ちたそれに奈江は何処か見慣れた顔を浮かべた。
「…うーむ、名護丸様は陰陽道の方は才があって規模も大きく加減も上手くなっていますが、剣術の方は~竜人の血で剛力ですけど却って力加減は極端に下手ですな~。背はその齢なのを考えても低めですし…」
「…うぐ…も、申し訳ありません。瀬戸口先生…」
それに勿体ないものを見る顔を向ける男性の名は、瀬戸口成喜。
バーサーカー剣術で有名(?)な示現流の開祖である東郷重位の父の瀬戸口重為の弟で、名護丸と同じく前世の歴史書にはいなかった身の一人で彼の傅役(世話役及び教師)である。
「…今日は久しぶりに名瀬の町でも見て回りましょうか? 今は時期からして明人などの外人や他にも異人など外からの商人も多く立ち寄って市も多く開かれています故、もしかしたら若様の剛力にも合う武具が見つかるかもー…」
「あ、賛成ー」
余りに極端な我が身に落ち込んでいた名護丸であったが、成喜の提案に見た目の年齢に大きく引きずられて精神年齢も多く戻っていた心はすぐに立ち直った。
「…うわー先生、今日はとりわけ港に船が止まってて人で賑わってますねー」
「明人や異人は珍しく価値のあるものを多く持ってきてますからね。特にこの島はまだ宋があった頃から寄港地として栄えていましたから」
(ああ、博物館で働いていた頃…もっと前には今より少し年上の小学校職場体験学習で行った頃にも、この島は日本と大陸を南島経由で繋ぐ交易ルートの重要な中継点というのは学んでたなー。あ、あそこでは博物館における収集や修復作業とかで破片とかをよく見た青磁や白磁がきれいな状態で結構並んでるー)
数分後、時代が時代なので木製茅葺が大半だが、この時代の辺境の島では多くの店が立ち並んで大勢でごった返し、港には巨大な唐船を含めた何十もの船が並んでいる名瀬の港町を名護丸はキラキラした顔ではしゃぎ回っていた。
この世界における名瀬は、シマッチュを自称する島の人々からサツマッチュと呼ばれる薩摩から来た人々による開発で、日本と大陸や南蛮と呼ばれる東南アジアを結ぶ南島交易ルートの需要な中継点として栄えていた。
「おー! そこのサツマッチュのお坊ちゃん変装しているけど隠しきれない気品の良さがあるねー♪ これーヤクガイ(夜光貝のこと)の貝匙だよー。大内様や朝倉様の所でもー流行っている食卓をおしゃれにする逸品だねー」
「うわー! ここまで虹色にピカピカするのは(この時代のだと)そうそう見れなかったけど懐かしー♪」
「あー店主殿、あまりうちの坊ちゃんにこんな小さい内から奢侈の癖を付けさせられるのは困る。あ、代わりにこれをー」
市場に立ち並ぶものには前世学芸員であったその記憶や知的好奇心を刺激するものが多く並んでおり、市場の彼方此方をきょろきょろしているその小さな背を成喜は呆れつつも可愛いものを見る表情で見守っていた。
一方で、その前世故に時々周囲の大人を時々戸惑わせる反応を示したりもしていた。
「…ねぇ、先生ー…あっちの明人の唐船と並ぶくらいに大きな船は確かー…」
「ああ、あれは東南の方から来る異人の船ですな」
「(あ、あれってーサイズやマストとかー色々細かい改良はあるけどー…、古代ギリシアやローマの流れを来るガレー船や、ヴァイキング船が元だよなー。この世界の日本では異人と呼ばれるエルフやドワーフとか亜人の人達があの船を用いる姿は当世で何度も見てみたけどー…、そういえば史実では4年前にはあの日本史カッパヘアー代表枠のザビエルさんも薩摩の父上の所に来てるはずなんだけどー、薩摩から来る役人達に聞いてもそれらしい人のことは聞かなかったし。なんかこの時代だからまだ残ってるけど色々違う感じな明からくる商人たちの話によれば、それと同族らしい人達は広州やベトナム辺りで何度か見たことあるというのは聞いたことあるけどー。これー…やっぱり他にも僕みたいな人が他所にもー…)…あ、そう言えばこの前から何度か見つけている珍しいから何か薬草になるかもって思って育ててもらっている植物は今どうなっているかな?」
「…あ、ああ、あれらなら集成園の方で面倒を見させております。ついでに見てまいりましょうか…」
その前世の知識には無かった変化に名護丸はしばし魅入られてしまっていたようで、再起動すると成喜は戸惑いの反応を見せていた。
「…やっぱり、変装していたけど…あの子…」
「ああ、蕉寧様とサツマッチュ達の殿様の間のお子様だよなぁ…」
「時々、あの方みたいにすごく聡そうな顔でじっと考えごとに耽られるな。あの方が大事を成す前の顔とよく似ておられる…」
また、名護丸は気づいていなかったが周囲にはその間に立ち止まって彼を静かに見守る人が幾らか出来ており、その場を離れたその背が小さくなると期待に近い色で言葉を取り戻し始めた。
「…お久しぶりですー。様子はどうですかー?」
「ああ、こちらこそお久しぶりですなー若様」
十数分後、名護丸達は集成園と呼ばれる奄美で島津家が所有している荘園に出向いており、そこには数か月前に彼が暇つぶしで木系の陰陽術を用いたら偶々出現した植物も植えなおされて育てられていた。
「この前に見つけた薬草になりそうな植物の様子はどうですか?」
「ええ、以前に若様が見つけられた珍妙なものですけど、おっしゃられた通り、今までの薬草と同じやり方、今までの薬草と陰陽道など術を組み合わせたもの、若様が異人や明人などから聞いたやり方、術と聞いたやり方を組み合わせたものの四種に分けて育てております。そして、今のところは言ったのと逆の順に育ちが良くなっております」
「実際に目にしてもいいですか?」
「おお、そうですかー。それではこちらへー…」
そこで働いていた地頭(荘園の管理人)に案内されながら、自分が再発見した時には懐かしさと期待を覚えつつも、今では色々な意味で不安も名護丸は生じていっていた。
「(…よくある転生系ラノベではこういうチートスキルって珍しくないけど、僕は今現在だと神様とかそういう存在と出会ってそういうのを貰った覚えはないんだよなぁ。いや、何らかの事情や理由でその辺りの記憶が消えているだけかもしれないし…。それにこれらの作物…今は前世の爺ちゃんたちの農家で育てていたのと同じように育っているけど、本当に記憶通りになるかどうかわからないし。初めの不安が強くなり過ぎた時期にはいっそなかったことにしようかって思ったけど、はっきり言ってこの世界じゃ他にも同じような存在がいて、もうここみたいなことをしている可能性もあるしー。僕みたいな人権意識とかが強い現代から来た人なら良いけどー、前世の現代みたいな時代なんてむしろ短い方だし…。今は史実だと帝国主義の始まりみたいな時期だから“創世の〇イガ”の敵役みたいに現代から見ればやばい人たちがもう来ていて、やばい意味でこういうのをとうに始めている可能性があるしー。そもそもこっちは比較的平和だけどー父上や兄上達がいる本土の方は今でもー戦が行われているしー。更にこの国は前の世界では戦前で使われていた“皇紀”が使われていて暦も前の世界のと同じっぽいし、江戸以降の外来語があまり聞かないのを除けば前世の現代語が通じる人が多いのも考えれば、もう僕みたいなのが何度か既に生まれてる可能性が大だろうし…。生き残りとかを考えればもう、前世ラノベで言う内政チートをやるのが一番生存率を上げられそうだし…。そうなるとー、やっぱり前世のこの島の歴史からして複雑だけどー、まずは金があった方が色な手を取れるのはいつの時代も変わらないしー…)それでー、この前持ち込んだものであの稲のようなものはどうなっているのですか?」
「ああ、あれでしたらーこの道を進んだ先にー…」
その不安もあって名護丸が向かった先には、前世の故郷を思い出させる稲に似つつもそれよりも背が高くて懐かしい草が広く生い茂るあの光景があった。
「こ、これは何なのだ? 稲に似つつもそれよりも背が高く、また水田ではなくて畑で育てられておるしー…?」
「ああ、これは見た感じでは妙に見えますが凄いですぞ。ほれ、切り出したものがこちらにあるのですがその茎からしたたり落ちてくる汁を吸ってみてください」
「む、むう…何やら妙に甘い匂いがするがー…む? 何だこの味はーーー…うぐ!?」
そこから切り出された一本を成喜は怪訝な顔で口するが、舌に触れたその瞬間に彼の身は雷に打たれたようにビクンと震え、しばし止まった後に前のめりに倒れた。
「!? 先生!? 大丈夫ですか!? 何が起きたんですか(しまった!? 前世のあれに似ていたから大丈夫かと思ったけどもしかして毒だった!? まさかここの地頭たちがいつの間にか他所の敵対勢力に密通でもして)―――!?」
名護丸は今この戦国時代でありがちな破壊工作や暗殺の気配を感じ取って悲鳴混じりの声を上げながら成喜の身を心配して介抱しようとする。
「…むしゃむしゃむしゃむしゃ!!」
「―――ってちょっとーーーー!? 自分だけ仰向けになって隠しながらそんな喉が詰まりそうな勢いで喰いついてズルいですよー!!」
「な!? なりませぬぞ若様! これは危険ですぞ!」
「(医療技術が未熟なこの時代なら虫歯的な意味で)そういうのはわかりますからだったらあんたも早く口からそれを離してください!!」
「あははは、初めて皆でこれを口にした時にはこうなったのを思い出しますなー」
そうして始まった主従の争い(?)とその切っ掛けとなった稲に似た作物を、地頭は可愛いものを見るなごんだ顔でしばし見つめた。
その稲に似た作物は、名護丸の前世ではその故郷奄美を“砂糖地獄”と呼ばれるまでの重税状態に追いやったが、同時に支配する側の薩摩藩が莫大な財力を身に付ける柱の一本となって、幕末の混乱を生き抜いて明治維新を成す雄藩まで押し上げた“サトウキビ”であった。
次回、この荘園絡みで本作初めてのバトルパートに入る予定です。
ちなみに、今回登場したサトウキビ畑はこんな感じです(https://x.com/kaioosima/status/2070800210574598349)。




