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第6話「セーラが猫に贈った『自由の定義』」

「はじめまして」

彼女は、僕の小さな身体を抱え上げて、頬ずりをしながら優しい声で囁くような小さな声を発する。

「思ってたより、もっともふもふなのね」

僕に頬ずりをした後は、両手を輪のようにして、僕の体を包み込んでくれた。

「イベントに参加してくれて、ありがとう。

来てくれて、ありがとう。

勝ってくれて、ありがとう。

いつも、配信の時に優しい言葉をくれて、大切にしてくれて、ありがとう」

ヴァーチャルデートのはずなのに、彼女の言葉と、ぬくもりが僕の全身に直接届く。

「あの…」

「なぁに?苦しかったかな?」

「全然…」

「じゃ、しばらく、こうしていてもいいかな?」

「うん…あ、いえ…はい」

彼女は、猫カフェの猫を扱うように、僕の耳の間を撫でたり、僕の喉に手を当てたり…、なんというか、好き勝手し放題…僕の身体を弄り回す。

「じゃ、場所を変えましょうか?個室カフェとかどうかな?」

「個室カフェ?」

「うん、絶体に誰にも二人の会話を聞かれることがない、二人っきりでおしゃべりや秘密の打ち合わせをすることができるカフェだよ。

お食事もできるし、これから、行ってみない?」

「…」

「どうしたの?ここまで来てくれたんでしょ…遠慮しないで…それとも、他にどこか行きたいとこはある?」

「どこかと言われても…あ、えっと、あの…セーラさんの声を聴けるなら、どこでもいいです」

「そういう優柔不断なのは嫌われるよ」

彼女は、真剣なまなざしで、僕の目をまっすぐに見つめる。

照れくさくて目をそらしたくなったけど…

でも、目線をそらさずに、彼女の視線の問いかけに元気よく答えることにする。

「お食事より水族館に行きたい!!」

「そうそう…ちゃんとそうやって自分の意思を伝えるのが一番大切なこと」

「はい」

「水族館もいいわね。でも、マルちゃんがお魚を食べちゃわないか、とっても心配」

「そんなことは…」

言いかけて思いとどまった。

(いや、僕なら目の前を泳ぐタイやヒラメ、マグロや鮭を見つけたら我慢できない…かも)

その僕の胸中を察したのか

「水族館もいいけど、やっぱり大切な話があるから、個室カフェに行きましょ。水族館はその後でリスケしましょ」


案内された「個室カフェ」は、街の喧騒から切り離された、真っ白な浮遊する小部屋でした。

「ねえ、マルちゃん。あなたは銀河鉄道に乗って、わざわざ私に会いに来てくれた。それはとっても自由で、素敵なこと」

セーラさんはハーブティーを一口飲むと、少し真面目な顔をして僕を見つめました。


「でもね、本当の自由っていうのは、ただ好きな場所へ行くことだけじゃないの。自分の形を、自分で決めていいってことなのよ」


彼女は僕の「僕っ娘」という秘密を知った上で、優しく微笑みます。

「女の子なのに『僕』と名乗ってもいいし、猫の姿で宇宙を旅したっていい。誰かに決められた自分を脱ぎ捨てて、心から『これが私だ』って思える場所を見つけること。それが水瓶座の、そして私の思う自由なの」


僕の胸の奥が、温かい何かで満たされていきました。

3年間の旅、画面越しの恋、そして今ここにいる自分。すべてがバラバラな電子信号ではなく、一つの確かな物語として繋がった気がしたのです。


「明日は立春。新しい季節が始まるわ」

セーラさんは、そっと僕の手を握りました。

「この旅の終わりに、マルちゃんがどんな自分を選ぶのか、私は一番近くで見ていたいな」


窓の外では、水瓶座の星々が明日へのカウントダウンを刻むように、ひときわ強く瞬いていました。

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