第43話 沈黙
「………………」
俺たちは、さっきから一言も話していない。
ワタルの話が終わって、遊牧民のテント群の外に要塞天幕を張る時も、夕飯を食べる時も。
グレイルも、帰ってきた俺たちを見て、色々察してくれたのだろう。何があったのかを聞かれることはなかった。
(ま、仕方ないけどな……)
俺はワタルの話を聞く前から、何となくの心づもりができていた。その分、ワタルの話を聞いた時のショックも小さくて済んだ。
だがルリたちは、当然心づもりはできていなかった。そのため、ショックも大きかったはずだ。しばらく何も話す気になれないのも頷ける。
(さてと……、これからどうするかな)
俺たちは、元々南国王都のナチュラを目的地にしていた。
これは、魔王討伐のために、南国にあるという古代の遺跡で情報収集をしようと考えていたからだ。だったのだが……、
(古代遺跡は、その多くが砂漠に存在してるっていう話だったんだよな……)
そもそも、俺が南国に古代遺跡があることを知った理由は、東国王女であるミナが話してくれたからだ。
ミナは王女という立場上、本人の意思に関わらず、東国以外の三国にも何回か行ったことがあったとか。
そのため、南国に古代遺跡があることを知っていたのだ。というか、実際に見たこともあるらしい。
そこで俺たちは、その古代遺跡に足を運び、砂漠にある遺跡で何か情報を集めるつもりでいた。
しかし、さっきのワタルの話を聞いた限り、デリートデザートにある遺跡で情報収集は間違いなくやってはいけないと俺は確信している。
(俺が勇者として転生した存在だとしても、デリートデザートで好き勝手できるとは思えないんだよな……)
この推測が事実かどうかは、実際に確かめてみるしか確認の方法がないのだが、無論、そんなことをするつもりはない。
それに、もし死なないと誰かに断言されたとしても、少しでも危険がある以上、俺は行動できない。否、行動する気はない。
……ルリと約束したからな。
(とりあえず、サンとワタルにお礼を言って、王都に行くとしますかね……)
俺はそう思い、布団に入った。
俺が寝ようとしたからだろう。ルリたちも無言で俺に続いた。
ここで、現在のの運魔弓槍の布団事情を説明するとしよう。
ルリと二人で旅を開始した時は、俺とルリが一緒の布団(大きい布団なので、俺とルリの間のスペースはしっかりと確保されている)で寝ていた。
三人が同じ布団で寝るのは、布団の大きさ的にも、(リンカの)精神的にも不可能だった。
したがって、リンカがパーティーメンバー(その当時はパーティーという仕組みは知らなかったが)に加わった時は、最初は俺が布団無しで寝ていた。
この時に、リンカが「結婚前の男女が同じ布団で寝るのはおかしい!」と(余計なことを)言ったので、俺用の新しい布団を買って、俺が一人で寝ることになった。
けれども、俺が運の良さを発揮。
俺用の新しい布団を買う前に、ミナがパーティーメンバー(ちなみに、ミナがパーティーに加わった時には、まだパーティーの仕組みは知らなかった)に加わったので、布団事情がややこしくなったのだ。
リンカは女性陣三人用の布団を購入しろと言って聞かなかったが、さすがに三人用の布団と二人用の布団は天幕に入らない。
そのことを言うと、じゃあ一人用を二つ買いなさいとなったのだが、ここで再び俺が強運を発揮。
なんと、東国王都サヒルドには、なぜか一人用の布団は売っていなかったのだ。
購入可能なのは、二人用と三人用だけだったので、先ほどの理由から、俺たちは二人用の布団を買わざるを得なかった。
そうなると当然、俺は誰と同じ布団で寝るのかという問題が生じる。
パーティーメンバー(この時点ではパーティーの仕組みに……、以下略)リンカは最初から選択肢に入っていないので、ルリとミナのどちらかということになったのだが、元々俺とルリは同じ布団で寝ていたので、結果として俺はルリと寝ることになった。
以上の経緯から、現在俺はルリと同じ布団で寝ている。
初めて一緒に寝た時は、ドキドキから全く寝れなかったのだが、今では普通に寝ることができている。……まだ少し緊張はしているが。
ということで、俺は今ルリと同じ布団で寝ているのだが、会話どころか「おやすみ」の一言すらお互い(正確にはリンカ、ミナ、そして外にいるグレイルとも)交わしていない。
俺たち四人(+一匹)はそのまま眠りについた。
◇
次の日の朝。俺は、ルリとほぼ同時に目を覚ました。
「おはよう」
「おはようございます」
これが、実に約半日ぶりの会話となった。
一晩寝て少し気持ちの整理がついたのだろう。ルリは昨日より明るい表情をしていた。
「ヒカルさん。少しお話しいいですか?」
とはいえ、まだ完全に吹っ切れたわけではないと思っていたので、いきなり話があると言われて俺はかなり驚いた。
このことに驚いたのは間違いないが、だからといって話を聞かないという選択肢は存在しない。
「どうしたんだ?」
なので、俺はルリにこう聞いた。
「私、怖いんです。危険かもしれないとわかっていながら、命令を下した昔の国王様も。たくさんの人たちの命を奪った砂漠が近くにあるということも」
「そう感じるのは当たり前だと思うぜ。俺も、その国王が今目の前にいたら、間違いなくブン殴ってるだろうからな」
「今の私に、できることが何もないのはわかっているんです。なんですけど、それが悔しくて……」
「ルリは優しいんだな」
「そ、そうですかね?」
「ああ、ルリは優し……」
俺の言葉が途中で途切れたのには、キチンとした理由がある。
それが、ルリが突然抱きついてきた、とかなら凄く凄くハッピーだったのだが、俺の運の良さはここでは発揮されず……。
ということは、俺の言葉が途切れたのには他の理由がある。
ゴウウゥゥー!!
要塞天幕の外から、とんでもない轟音が聞こえてきたのだ。そのせいで、俺の言葉は途切れた。
「何だこの音!?」
「外を見てみましょう!」
そう言われて外に出てみると、目の前には普通ではあり得ないことが起きていた。
「な、何じゃこりゃあ!?」
そこには、とてつもない大きさの砂嵐が渦巻いていた。




