第44話 緊急事態
突如聞こえてきた轟音。
慌てて外に出てみると、とてつもない大きさの砂嵐が渦巻いていた。
「ヒ、ヒカルさん……」
そう呟いたルリの声からは、不安が滲み出ている。
当然だろう。昨日、あの話を聞いたばかりなのだから。
「ルリは要塞天幕の中に入ってろ! あと、リンカとミナを起こしておいてくれ!」
「わ、わかりました! それで、ヒカルさんはどうするんですか!?」
「ワタルの所に行く!」
ルリからの質問に走りながら答える。
俺は、すぐそこにある遊牧民たちのテント群に走っていったのではない。テント群に行こうと思ったら、目の前の砂嵐を突っ切る必要がある。いくら俺の運の良さでも、砂嵐に突っ込んで無事でいられるとは思えない。
俺が向かった先は、要塞天幕の裏側だった。そこでは、グレイルが気持ち良さそうに寝ている。
「おい、グレイル! 起きろ!」
にも関わらず、俺は無理やりグレイルを起こしにかかった。緊急事態なのだ。グレイルへの配慮をしている場合ではない。
「ヒカルか? 我はまだ寝るぞ……」
「そんなこと言ってる場合じゃないんだよ! いいからさっさと起きてくれ!」
「……一体どうしたと言うんだ?」
「砂嵐だよ! エゲツない大きさの砂嵐が、突然発生したんだって!」
「何!?」
グレイルには、昨日聞いた話は一切していない。
だが、俺の言葉と様子から、尋常じゃないことが起きていると(ようやく)気づいたのだろう。
「それで我は何をすれば良い?」
自分から指示を求めてきた。
それなら話は早い。
「俺を乗せて飛んでくれ! 目的地は遊牧民のテント群だ!」
グレイルの返答に間髪いれずに答える。
そう。俺は、グレイルに乗って、ワタルの所に行こうと考えていたのだ。
「わかった! 乗れ!」
「頼む!」
俺はすぐさま、グレイルの背中にまたがる。
そのことを確認した瞬間、グレイルが羽を広げ、大きく羽ばたく。
あっという間に、俺たちは空へと躍り出た。
すると、グレイルが首を傾げて、とあることを聞いてきた。
「おい。確かに、デカい砂嵐があるが、一つだけじゃないか」
肝心な部分が欠落した質問だったが、俺にはグレイルが言いたいことがわかった。
グレイルの言葉に補足をすると、「デカい砂嵐は一つだけなのに、なぜ我に頼んだんだ?」である。
要するに、グレイルは徒歩でもテント群に行けたのでは? と言いたいのだ。
これは別に、寝ている所を起こされて怒っていたり、文句を言いたいのではない。
ただ単純に、疑問に思ったことを聞いただけだろう。
「そう思う気持ちはわかる。だけど、もし……」
だが、俺にもグレイルに乗った理由がもちろんある。
俺が今、グレイルに言おうとしたのは、その理由だ。
結果として、グレイルに理由を伝えることはできなかったが、俺の勘は見事に的中することとなる。
ゴゴゴウウゥゥー!!
一個目と同じぐらいの大きさの砂嵐が、続け様に三個、新たに出現した。
俺は、万が一別の砂嵐が発生した時のことを想定して、グレイルに頼んで飛んでもらったのだ。
「まさか、本当に二個目三個目が発生するとは思ってなかったけどな……」
先程も言ったのように、俺は最悪の場合に備えて行動をした。
もちろん、既に起こったことから考えれば、俺の判断は的確だっただろう。
むしろ、下手をすれば、俺の命が危なかった可能性も十分にあった。そのため、的確な判断どころか、神采配(ここで采配という表現は正しくないが)と言っても過言ではないレベルである。
しかし、当然ながら、新たな砂嵐が発生しないに越したことはない。
自分がしていた対策が見事にハマったからといって、馬鹿正直に喜べるほど、俺は能天気ではない。
事実、合計四個となった砂嵐のせいで、要塞天幕の結界より外に出るのは事実上不可能になっている。
中で動けないルリたちのためにも、これ以上時間を無駄にするわけにはいかない。
「グレイル、急いでくれ!」
ワタルがいるであろうテントの位置は、もうグレイルには伝えている。後はグレイルに急いでもらうだけだ。
「任せておけ!」
グレイルはそう言うと、テント群に急降下した。
◇
俺とグレイルは、無事テント群に着陸した。
要塞天幕から飛び立って、ワタルがいるであろうテントの前に着くまでにかかった時間は、グレイルが急いでくれたおかげで一分もかかっていない。
「サンキュー、助かった!」
「礼には及ばん。それより、我はどうすれば良い?」
グレイルが、つい先ほども聞いた言葉を発する。
実を言うと、俺はこの質問が来ることを予測していたので、既に回答を用意していた。
「じゃあ、要塞天幕に戻ってくれ! ルリたちが心配だ。何かあったら、助けてやってほしい」
今の所、要塞天幕の結界は機能しているが、万が一のことが起こらない保障はない。その時に、ルリたち三人だけでは不安すぎる。
だが、伝説の聖龍であるグレイルなら、もしものことがあっても何とかできるはずだ。
「了解した。ヒカル、こちらは頼んだぞ」
グレイルも、何とかできる自信はあるのだろう。
そう言うと、再び上空へと舞い上がった。
「よし!」
ルリたちの安全は、これで一旦確保されたはずだ。
後は……、
(俺次第だ!)
俺は、ワタルがいるであろうテントに足を踏み入れた。




