第42話 過去の悲劇
「運魔弓槍というパーティーのリーダーをしています。冒険者のヒカルです」
「ご丁寧にどうも。私は遊牧民の長、ワタルです」
サンに案内されたテントで、遊牧民の長との挨拶を済ませた俺。この場にはルリたちもいたが、名乗ったのは俺だけだ。
ちなみに、俺が運魔弓槍のリーダーを務めている。まあこれは、パーティー登録をするため冒険者ギルドに行った時に、リーダーを決めなければいけなかったので、とりあえず俺がリーダーになっただけなのだが。
一方の遊牧民側も、長だというワタルとサンの他にもう一人リーダーらしき人がいたが、ルリたちと同じく名乗らなかった。
つまり、今このテントには、遊牧民側三人と、俺たち運魔弓槍の四人がいる。グレイルは、遊牧民たちのテント群の外で待機中だ。
俺がこんなことを考えていると、ワタルに何かを耳打ちしていたサンが後方に下がった。
と同時に、ワタルが口を開く。
「さて。いきなりですが、ヒカル様の用件は、デリートデザートについてで間違いないですか?」
このワタルの言葉を聞いて、俺はサンがしていた耳打ちの内容を完全に把握した。
大体の内容は推測がついていたが、やはり俺たちがここへ来た目的を話していたようだ。
「ええ。デリートデザートのことを教えていただきたいです」
ワタルがサンと同様に、わざわざ「デリート」の部分を強調してきたので、お返しとばかりに俺も同じ部分を強調して、ワタルの質問を肯定する。
「本当にお聞きになりますか? 引き返すなら今のうちですよ」
「聞きますよ、もちろん」
今のワタルの質問は愚問である。そもそも、デリートデザートについて聞くことが、ある種のアンタッチャブルであることは、サンの反応を見ていれば想像がつく。
そのことを理解した上で、俺はサンに質問をし、サンの言に従ってここまで来たのだから。
「そうですか……。では、まず始めに、南国の地理について、少々説明をさせていただきます」
「よろしくお願いします」
「南国ソラールは、古くから三つの地域に分かれていました。一つは、文明が発達し、人が住むために開拓された市街地。王都ナチュラや、その他の大きな街がある地域は、ここに該当します。次に、市街地ほどではありませんが、比較的開拓が進んでおり、所々に街や村が存在する地域です」
ワタルはそこまで言うと、一度言葉を切った。
そして、一呼吸置いてから、再び話始める。
「ここまでは、特に問題はない話です。本題はここから、最後の地域についてです。最後の地域は、言うまでもなく砂漠です。実は、南国ソラールの内、砂漠地域が占める割合はおよそ七割で、それ以外の地域はわずか三割しかありません」
「そこで、昔の南国の人たちは、砂漠地域も開拓しようとしました。幸い、オアシスもそこそこありましたから、開拓はそこまで難しくないと思われていたんです。それに、砂漠地域が開拓できれば、今までの倍以上の土地が手に入ります」
「以上の理由から、砂漠地域開拓は、すぐさま実行されました。一番始めに、オアシスから水を引こうと、細長い用水路の作成が開始されたんです」
「ですが、問題はここで発生しました。突如として現れた砂嵐が、開拓を進めていた人たちを片っ端から巻き込み、全員殺してしまったんです」
「その時は、不運な事故だと思われていました。なので、開拓は一時期滞りましたが、すぐに再開されました。一度、作業ができなかった期間があった分、反動からか再開後は再開前を上回るペースで開拓が進んだんです」
「しかし、再び砂嵐が発生し、開拓をしていた人たちを一人残らず殺してしまいました。さすがにおかしいと、当時の人たちも思ったのでしょう。砂漠地域開拓計画は、ここで一度破綻したんです」
「この話は、先祖代々受け継がれていました。ですがある時、父親の跡を継いで南国の国王になったばかりの若者が、砂漠地域の開発を国民の命じました。もちろん、国民は反対し、国王の直近の幹部たちも国王を止めたんだそうです。」
「しかし国王は、命令に反対した国民と幹部の一部を処刑しました。国民たちは、なおも抵抗を続けていたんですが、二回目、三回目の処刑が行われて、抵抗をやめざるを得なくなりました。結果として、国王の無茶苦茶な命令で、砂漠地域の開拓が行われました」
ワタルは、ここでもう一度話を区切った。
俺は、まだ落ち着いてワタルの話を聞けていた。だがルリたち女性陣は、身体は落ち着いていても、目が、表情が、落ち着いていなかった。それは、国王への怒りなのか。それとも、国民への哀れみなのか。
「この後どうなったかは、皆さんも想像がつくと思います。開拓をさせられた国民は、砂嵐により全滅。砂嵐の猛威は王都ナチュラにまで及び、国王を巻き込んで王都を半壊させました」
「この事件の後、砂漠地域は畏怖の念を込めて『デリートデザート』と呼ばれるようになりました。砂漠地域に手を加えようとした者は、砂漠の怒りを買い、消し去られてしまうんです。以上が、私が先代の長から聞いた、デリートデザートに関する話です」
なるほど。だから「デリート」か。
……ヤバイ話だな。
後から思えば、この時になぜか嫌な予感がしたのは、気のせいではなかったのかもしれない。




