第41話 デリートデザート
「デリートデザートって、どんな砂漠なんだ?」
俺は、サンにそう尋ねる。
実を言うと、この質問をするために、俺はけっこうな労力を使った。
――三十分前――
俺は、ルリたちとサンの会話に割り込むタイミングを逃さないように、ルリたちの方をチラチラ見ていた。
幸い、不審者扱い(正確に言うなら変態扱い)されることはなかったのだが、俺の不満は溜まる一方だった。
理由は簡単。ルリたちのお喋りがなかなか止まらなかったからである。
俺がルリたちの会話に注意を傾けてから三十分間、ルリたちは片時たりとも話すのをやめなかったのだ。
これは別に、ルリたちが悪いわけではない。
だが、それがわかっているからこそ、俺は手荒い手段を取れなかった。
そのまま時間は過ぎていき、現在に至る。
そして、ついにルリたちの会話が途切れた。
後からわかったことだが、この時、ルリたちは喉が渇いたので、水分補給をしようとしていたらしい。
まあ、俺にとっては会話が終わった理由なんてどうでもいい。
この隙を逃すまいと、俺はサンに質問をぶつけたのだった。「デリートデザートって、どんな砂漠なんだ?」と。
この質問を聞いた、ルリ、リンカ、ミナは「何聞いてるんだ、こいつ」的な目を向けてきた。(実際には、俺のことをバカにするような目で見てきたのはリンカとミナで、ルリは純粋に質問の理由が気になっただけのようだったが)
しかし、質問をされた本人であるサンは少しの間固まっていたが、すぐに何かに気づいた様子で、
「デリートデザートについての質問ですか?」
と聞いてきた。
確定だ。デリートデザートには何かがある。今のサンの返答の、「デリート」の部分にアクセントがあったのがその証拠である。
「ああ、デリートデザートについて詳しく教えてくれ」
なので、俺はサンと同じく「デリート」にアクセントを置きつつ、「詳しく」教えてくれ、と返した。
「わかりました。では、仲間の所に行くのでついてきてください。そこでなら、質問にお答えできますから」
そう言うと、サンは象に乗り(俺たちとの会話が始まった時、象から降りていたのだ)、来た道を引き返し始めた。
俺がサンの問いかけに答えた時、サンがビクッと震えた気がしたが、気のせいだと思うことにした。
◇
サンについていくこと、約二十分。その道中、俺たちとサンは、会話を一切しなかった。
ルリたちは何度か話しかけようとしていたのだが、サンの周りに漂う雰囲気に勝てず、結局何も喋れなかったのだ。
ちなみに、先ほど俺たちがサンと話していた三十分強の間、グレイルは寝ていた。
俺は途中からグレイルのことが頭からすっぽり抜け落ちていて、そのことに気づいた時にかなり慌てた。
だが、グレイルは寝ながら気配を完璧に消していた。
さすがは伝説の聖龍。出会い方が出会い方だったので、最初の印象は悪かった(?)が、今では評価が百八十度逆転している。
グレイルは、少し距離を空けてついてきている。
俺たちの歩くペースは、象に乗っているサンに合わせているので、グレイルはかなり飛ぶ速度を落としている様に見える。
そのせいか、グレイルの顔は不機嫌そうだ。
後で謝って、何か美味しい物でも食べさせてあげないとな、と俺は心の中で思った。……料理するのはルリだけど。
何はともあれ、テントらしきものが見えてきているということは、サンの仲間たちがいる場所に着いたということだろう。
これ以上、グレイルにストレスが溜まらなさそうで何よりである。
「着きました」
およそ二十分ぶりに口を開いたサンは、愛想のない声でそう言った。
サンがこうなってしまった原因に心当たりはなくも無いが……、俺が間違った行動をしたとも思わない。
つまるところ、時間が解決してくれるのを待つか、サンの仲間たちとの話し合いで何とかするしかなさそうだ。
「ヒカルさん、こちらです。ついてきてください」
ここに来るまでもついてきていたのだが、改めて言い直した。これは、「ここではまだ話せることはない。勘違いするな」という挑発か、それともただ単にの善意で言っているのか……。いずれにしろ、俺には関係ないけどな。
「わかった」
今のサンの言葉にどういった意図があろうと、俺はサンについていくだけだ。余計なことで神経を使う必要はない。
それよりも、俺にとってはデリートデザートの情報を聞くことの方が大切だ。サンの反応を見ても、絶対に聞いた方が良い気がする。
そう思い、そのままサンについていくと、当然ながら遊牧民の人たちの視線が俺たちに集まる。
「……見られてるわね」
「そうだな」
「見られてますね……」
「気にすんな。俺たちは別に、悪さをしに来たわけじゃねーんだからよ」
そう。俺たちはサンに招かれて(?)ここに来ているのだ。変なことを気にする必要は全くない。
そう思い、そのままサンについていくと、何やら辺りの建物と比べても、一回り大きい建物が見えてきた。
「ここは、私たち遊牧民の長のテントです。この中で話ましょう」
薄々勘付いてはいたが、やはり遊牧民トップとの話し合いになるらしい。
上等だ。やってやろうじゃねーか!




