第40話 運が良くても思い通りに行かないことはある
「え、えーっと……、確かに俺たちは冒険者です」
「やっぱりそうでしたか! この辺りに人がいるのは珍しいですから」
ふ、ふう。どうやら、剣を抜こうとしてのはバレてなさそうだな。
敵だと思ってない初対面の相手に、いきなり剣を抜かれたら戸惑うだけじゃ済まないからな。良かった良かった。
「あなたは冒険者……、じゃないわよね? この辺りに住んでる人?」
俺が一人で勝手に安心していると、ミナが気になっていたことを聞いてくれた。
「私は遊牧民です。三十人ぐらいの一団で生活してるんです。あ、申し遅れました。私の名前はサンといいます」
「遊牧民の人なんだ、初めて見たわ。私はミナよ。宜しく、サン」
「私はリンカだ。宜しく頼む」
「ご丁寧な挨拶、ありがとうございます。私はルリと申します」
「俺はヒカル。宜しくな、サン」
俺たちのパーティーには、知っての通りもう一人(もう一匹と言うのが正しいが)メンバーがいる。というか、今ここにいるのだ。
しかし、グレイルがいきなり名乗るのは控えた方が良いだろうというのが、俺とグレイルの共通認識だった。
こういう状況になった時のことを、グレイルと話し合ったわけではないのだが、わざわざ今聞かなくてもわかることだ。
……もし今聞いてたらサンにバレるだろ? という突っ込みは禁止である。
まあ、グレイルが上手く気配を消していて、サンに怪しまれてないので大丈夫だ。
サンには姿が見えていないのに、俺たちにはバッチリ見えているカラクリは気になるが。
もちろん、そんな風に思っていた俺の思考がサンにわかるはずもない。
「それで、ミナさんたちはここで何をされてるんですか?」
なのでサンは、笑顔でミナに質問をしていた。
質問の相手をミナにしたのは、おそらく最初にミナがサンに質問をしたからだろう。自己紹介もミナが一番早かったからな。
「私たちは、ここの王都に用があるのよ」
「なるほど。目的地はナチュラですか」
「まあね。サンはここで何をしてるの? 見た感じ、他に遊牧民の人の姿は見えないけど」
「今は何グループかに分かれて、今日の食料を探してるんです。本当は二人一組なんですけど、私のペアの子には別の用事がありまして。別に一人でも大丈夫なので、こうして食べ物を探しているというわけです!」
「食べる物は当日に探すのか。遊牧をしているから仕方ないとはいえ、大変だな」
「そうですよね。この辺りは草木が豊富ですから、比較的探しやすいとは思いますが……」
「ルリの言う通り、この辺りで探すのは楽ですよ。ただ、デリートデザートに近くなると、食べ物を見つけるのは難しいですね」
ルリたち美少女三人衆は、今のサンの言葉に感心しているように見えた。この年齢で(俺の主観ではサンは十歳ぐらいだ)自ら生きるために行動するなんて、なんて立派なんだろう、と。
少し大げさかもしれないが、俺から見て、ルリたちはそんな風に思っている感じの表情をしていた。
だがその時の俺は、ルリたちとは全然違う所が気になっていた。
(今、デリートデザートって言ったか? デリートは削除、デザートは砂漠……。無理やり訳すと、削除する砂漠? 一番それっぽい解釈をするなら……、来るもの全てを消し去る砂漠ってとこか? 物騒な地名だな……。そんな名前の砂漠が近くにあるのか?)
ただの砂漠があるぐらいなら、俺は大して驚かなかっただろう。ここは南国だ。砂漠があっても何らおかしくはない。(まあ、南の国には砂漠があるというのは、俺の勝手なイメージだが)
だが、「デリート」である。その砂漠がどれぐらい危険なのかは知らないが、さすがにデリートをつけるのはどうなんだ? と思ったのだ。
ちなみに、色々考えていた俺のことを完全に無視して、ルリたちはサンに質問をしまくっていた。
「この辺りでは何が取れるの?」
「果物が取れます。種類もけっこうあるんですよ」
「主食は、やっぱり野菜や果物なんですか?」
「そうなりますね。なので、時々ゲット肉がゲットできた時は取り合いになります」
こんな感じである。このまま似たような質問が続くのなら、俺は一人で更に考え込んでいただろう。
「砂漠に入ったら、食べ物はどうするんだ?」
そう、このリンカの質問がなければ。
たぶん、リンカは「デリートデザート」の「デリート」の部分は気にならなかったのだろう。「デザート」の所だけに焦点を当てていたので、このような質問をしたのだと思う。
しかし、結果的にデリートデザートについての質問をしたことに変わりはない。実際には、デリートデザートについての質問とは言えないかもしれないが、会話の方向がそっち方面に向かっているので良い感じだ。
「砂漠には、基本的に植物が育たないですからね。でも、所々に実がなってる木が生えているので、頑張ってそれを探したりします」
「砂漠で木を探し回ったりして大丈夫なの? 暑さで倒れたりしない?」
おっ! ナイスな質問だミナ!
段々と聞きたい内容に近づいていってるぞ。
「確かに暑いですけど、倒れたりはしませんよ。それに、そこそこオアシスもあるんです。定期的に水分補給ができるので、体調面での心配はありません」
よしよし。順調順調。
このまま行けば、次ぐらいで俺の知りたいことが聞けるかもしれない!
どうやら、この時の俺は頭が回っていなかったらしい。
そんなに聞きたいなら、自分から質問をすれば良かったのにも関わらず、こうして人任せにしているのがその証拠だ。
「今、サンの仲間の人はどこにいるの?」
その結果、ミナによって話題が変えられてしまった。
自分で聞けば良かったと思ったのは、新たな話題で四人が盛り上がり始めた時だった。
今の会話が一区切りついた時に、必ず質問をしようと誓う俺だった。




